※この記事は2023年07月04日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
最近行った取材の中でピカイチに印象的で、強く感化されたのがアーティスト片山真理さんへのインタビューです。9歳のときから両足に義足を使って生きている彼女は取材時には右足はカラフルな絵を描いた義足を、左足はハイテクな義足をつけ「セルジオ ロッシ」のハイヒールを履いていました。ヒールの高さは11センチです。彼女が学生時代から続けてきた“ハイヒール プロジェクト”の一つの集大成がその靴です。
なぜハイヒールだったのだろう?ハイヒールを履いてどんな景色を見たかったのだろう?彼女にはそれを直球で聞こうと決めて、取材にのぞみました。
ここ数年、自分の中にモヤモヤ留まり続けてきた問い、「なぜ女はハイヒールに惹かれるのか?もしくは嫌悪すらするのか」を彼女の言葉を通じてなら理解できるかもしれない、と思ったからです。一時期「セルジオ ロッシ」のハイヒールばかりを履いていた時期がある私もその魅力を体感で理解しているつもりです。だけどどうもうまく言葉が紡げない。マリリン・モンローのようにわざと片方のヒールを短くして男性の前で頼りなげに見せたりすることに興味はない。だけどハイヒールを見るとやはりウットリする。この感情って何だろうか?それを片山さんに教わりたいともくろみました。
彼女の回答は、「今の自分が一番好きだったり、鏡を見て“自分、可愛いじゃん!”と思ったり。その気持ちを一番引き出してくれるからじゃないかな」と、シンプルでした。
インタビューではこの心境に至るまでの片山さんの心の機微を丁寧に話してくれました。「若い頃は、リップやネイルやウィッグは自分をさらけ出さないための“鎧” だった。振り返ってみてもそれは間違ったことではないと思う。でも今はシンプルに“自分が心地良くなるため”。自分で選ぶ選択肢ができた今は、ハイヒールを“嫌だ”と思えば履かなくていいし、戦うために自分が必要なら、もしくは気分を上げたいなら履いたらいい。理由はなんでもいい。選べること、それ自体が重要だから」。
片山さんと「セルジオ ロッシ」のチームは何を目指して対話を重ねたのか。協業を経てハイヒールを手にしたとき、彼女は何を思い、何を手に入れたのか。その言葉に強く共感し、陳腐な表現ですが「これがクリエイションというものだ」と胸が震えました。
制約がある時こそ、強いクリエイションが生まれる。と、信じています。片山さんと「セルジオ ロッシ」による一足のハイヒールのデザインは、まさにそれを体現するものでした。心からリスペクト。ぜひインタビューをお読みください。
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