サステナビリティ

「WIRED」日本版が示した“複数形の未来” 「WIRED Innovation Award 2025」リポート

「WIRED」日本版は12月1日、科学技術、アート、エンターテインメント、ビジネスなど多領域からイノベーターを選出する「WIRED Innovation Award 2025」を開催した。2016〜19年に計120組を顕彰してきた同アワードは6年ぶりの復活であり、今回は積水ハウスと協業。「この革新は、未来のシアワセのために」を掲げ、21組の受賞者を選んだ。

受賞者の顔ぶれは多彩だ。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーであり、研究者・アーティストの落合陽一、武道館単独ライブを成功させたバーチャルアイドル・星街すいせい、「コンビニ人間」で芥川賞を受賞した小説家・村田沙耶香、そして授賞式当日に受賞が発表された音楽ユニット・Perfume(パフューム)など、多様な分野で革新を続けるクリエイターや研究者が並んだ。

当日の会場・渋谷ストリームホールでは、授賞式に加えて展示やトークセッションを実施。「WIRED」日本版の松島倫明編集長は冒頭、大阪・関西万博の開会式メッセージ“A Brighter Future for All”が閉幕時には“For the Futures”へと変化した点を紹介し、「未来を単数ではなく複数で捉える重要性」を強調。多元的な未来像を提示する場としてのアワードの意義を語った。

17組が登壇した授賞式の後には、画家・中山晃子がライブパフォーマンスを披露。TOWA TEIの音楽に合わせ、液体や絵の具がリアルタイムで変化するビジュアルを生成し、観客を魅了した。

続くトークセッションは3部構成。最初のセッション「『すべてが生命化する』時代を生きる」では動物言語学者・鈴木俊貴、人工生命研究者・池上高志、落合陽一がAI以後の未来について意見を交わした。専門用語が飛び交うスリリングな議論の中で、第一線の研究者ならではのエッジの効いた知見が立体的に浮かび上がった。次の「生成を超える『美しさ』のありか」のセッションに登壇したのはアーティスト・横山奈美と「アンリアレイジ」森永邦彦。見過ごされがちなものに美しさを見出して創作活動を続ける2人が、AIでは到達し得ない美の可能性について考えをめぐらせた。最後の「映像表現の『身体性』と未来」では映像作家・山田智和とアニメーター・押山清高が、お互いの表現にリスペクトを送りつつ偶然性と設計のバランスをめぐって深い対話を交わした。

閉会に際し松島編集長は、「イノベーションというとテクノロジーを想起しがちだが、この場を通じて改めて、人こそが革新の源であると実感した」と総括。「未来を実装するメディア」として、今後もアワードを継続することを誓った。

多様な知性と表現が交差する「WIRED Innovation Award」。未来が不確かな時代においてこそ、複数形の“Futures” を描く試みは、これからの幸せのかたちを共につくるためのハブとして一層の存在感を放つ。

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