ファッション
連載 エディターズレター:IN FASHION 第56回

中高年は音楽フェスで“クワイエット自己主張”

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中高年は音楽フェスで“クワイエット自己主張”

幕張メッセで新年早々開催された洋楽フェス「ロッキン・オン ソニック(ROCKIN'ON SONIC)」に2日間行ってきました。同イベントはロッキング・オンと、「サマーソニック(SUMMER SONIC)」を主催するクリエイティブマンによる新たな洋楽フェスとして立ち上げたもの。ステージは2つで、キャパはそれぞれ2万人と8000人と大規模です。

出演バンドは、27年ぶりに来日する英パルプや、デビューアルバム発売30周年記念のライブを行う米ウィーザーをはじめ、結成40年以上のザ・ジーザス&メリー・チェイン(The Jesus and Mary Chain)やプライマル・スクリーム(Primal Scream)という大ベテランばかり。フロントマンの年齢はジム・リード(Jim Reid、ザ・ジーザス&メリー・チェイン)とボビー・ギレスピー(Bobby Gillespie、プライマル・スクリーム)が63歳、ジャービス・コッカー(Jarvis Cocker、パルプ(PULP))が61歳、ジェームス・ディーン・ブラッドフィールド(James Dean Bradfield、マニック・ストリート・プリーチャーズ(Manic Street Preachers))が55歳、リヴァース・クオモ(Rivers Cuomo、ウィーザー(Weezer))が54歳というアラ還をメインに据えるため、SNSでは「高齢者向けフェス」と揶揄する投稿も複数見かけました。

日本のフェスといえば「フジロックフェスティバル(FUJI ROCK FESTIVAL)」と「サマーソニック」が2大巨頭です。いずれもファッション業界人にも人気のイベントで、来場者スナップは「WWDJAPAN」の人気記事の一つ。では、「ロキソニ」はどうだったか。もはや略称の響きが何かしらの体調不良を連想させるのはさておき、会場に行くと「高齢者向けフェス」という声も何のその、おっしゃる通りの年齢層の高さでした。ただ、悪い意味ではありません。主催者が開演前に「純度の高い音楽ファンが集まった」とコメントしたように、純粋に音楽を楽しみたい大人たちが集った会場は想像以上に快適でした。ライブ中は無茶なモッシュもなければ、ステージそっちのけでSNS用の撮影に徹している客も少なく、それでいて一曲一曲の解像度の高さゆえここぞというタイミングでは100%ドカンと沸くという、同じ趣味趣向の人が集う居心地の良さを体感しました。

では、ファッションスタイルはどうだったか。周りを見渡してみると、黒、黒、灰、紺、たまにカーキ、黒、黒という色味で、はっきり言えばスナップ映えはしません。とはいえ偏った感性を持つゲストたちですから、よく見るとプリントがカッサカサになったジョイ・ディヴィジョン(Joy Division)のレアTシャツを着ていたり、ベーシックに見せかけてエディ・スリマン(Hedi Slimane)期の「ディオール オム(DIOR HOMME)」のトップスだったりと、クワイエット自己主張のスタイルも見かけました。若い世代のように全身を着飾りはしないけれど、こういう場では自身のアイデンティティーを装いに忍ばせたいという中高年の意思を感じて面白かったです。

そんなゲストが憧れたロックスターたちのファッションは、ボビー・ギレスピーが「セリーヌ オム(CELINE HOMME)」のクリスタル付きスーツを、同じグループのシモーヌ・バトラーは「ローテート バーガー クリステンセン(ROTATE BIRGER CHRISTENSEN)」のボディーコンシャスなスパンコールドレスを、ジャービス・コッカーは188cmの長身を生かしてベルベットのフレアスーツをさらりと着こなすなど、昨今のラッパーから派生したストリートウエアの文脈がほぼゼロなスタイルが逆に新鮮でした。パンパンなビール腹のジェームス・ディーン・ブラッドフィールドが、ピチピチのシャツをはち切れそうになりながら着ている姿を見て、このスタイルがロックなんだよと勝手によく分からない理屈に解釈し、胸が熱くなります。

ターゲットを絞ったイベント作り

ここまで散々アラ還だの中高年だの書いてきましたが、若い来場者ももちろんたくさんいました。出演バンドにも、若手がバランス良くミックスされています。ニューヨーク発の新人5人組モノブロックはかつてのエディ・スリマン全盛期を思わせる“インディ・スリーズ”全開で、27歳と25歳のダダリオ兄弟によるザ・レモン・ツイッグス(The Lemon Twigs)はジェンダーを超越した感性でビンテージを自在に着こなす天性のスタイリングセンスを披露するなど、“ファッション”というより“スタイル”という点でとても見応えがありました。

「ロキソニ」自体も非常に好評で、来場者はチケットの売れ行きがいまいちだという前評判を覆す盛況ぶりでしたし、SNSを見ていると来年以降の開催を望む声が多く、初年度は大成功だったと言えるのではないでしょうか。「サマーソニック」のような世代関係なく楽しめるメジャーイベントがある一方で、「ロキソニ」は若い世代よりも金銭的余裕のある中高年に深く刺すという場所作りが奏功しました。ターゲットをある程度絞った内容や構成に振り切ることで来場者の満足度を高め、結果的にリピートにつながるというイベント作りは、音楽フェスに限らないはずです。ライブパフォーマンスはもちろん、スタイルといい、イベント作りといい、見応えたっぷりでした。

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