PROFILE: フェイド(Feid)
バッド・バニー(Bad Bunny)やラウ・アレハンドロ(Rauw Alejandro)の活躍を筆頭に、現在の音楽シーンで存在感を増しているラテン・アメリカ発のポップ・ミュージック。その最前線に立つ一人が、このコロンビア・メデジン生まれのレゲトン・アーティスト/プロデューサー、フェイド(Feid)だ。グラミー賞へのノミネートやラテン・グラミー賞の受賞歴を持ち、さらにバッド・バニーやJ・バルヴィン(J Balvin)、クリスティーナ・アギレラ(Christina Aguilera)との仕事でも知られる彼の活動は、すでにグローバルな規模へと広がりを見せている。
そんな彼は、先日の「サマーソニック 2025(SUMMER SONIC 2025)」(以下、「サマソニ」)の2日目のビーチ・ステージで、自らキュレーター役を務めるスペシャル・イベント「Feliz cumpleaños Ferxxo」を開催。本人いわく“今、もっともシェアしたい仲間たち”を招いて繰り広げられたパフォーマンスは、今や音楽ジャンルを超えてファッションやライフスタイルにまで影響を及ぼすラテン・カルチャーのエネルギーと魅力を力強く示す特別な機会となった。
その「Feliz cumpleaños Ferxxo」のステージでは、飛び入りゲストの千葉雄喜とコラボレーションした「重てぇ」も話題に。大の親日家として知られ、これまでも渋谷のスクランブル交差点で撮影された「SORRY 4 THAT MUCH」のMVやSNSでの発信などさまざまな機会を通じて日本文化への深い愛情を表現してきたフェイド。レゲトン、ヒップホップ、R&B、エレクトロ、アフロビーツ、ポップ……を軽やかにブレンドしながら独自の音楽スタイルを築き上げてきた彼のバックボーンには、どんなパーソナリティーがあり、何が影響を与えているのだろうか。「Feliz cumpleaños Ferxxo」の2日後、自身の誕生日を祝う新曲「Se Lo Juro Mor」もリリースした彼に話を聞いた。
「サマソニ」での
「Feliz cumpleaños Ferxxo」を終えて
——「Feliz cumpleaños Ferxxo」を終えられていかがですか。ラテン・アメリカとアジアの文化をつなぐ機会でもあったと思います。
フェイド:本当に最高の体験だったね。子どもの頃からずっと憧れていて、絶対にかなわないと思っていた夢が現実になったんだ。観客のみんなのエネルギーもものすごくて——信じられないくらい特別な夜になった。
それに、こうしてインタビューで日本の方たちと話せて、自分がどうやって日本の文化に惹かれてきたかを伝えることができて。そういう出会いや経験も全部含めて、本当に美しくて忘れられない一日になったね。
——フェイドさんは出演者であると同時にオーガナイザーとして、コロンビアの音楽やラテン・カルチャーを伝える“文化大使”のような役割も担っていたと思います。ラテン系アーティストとして初めてステージをキュレーションすることの意義を、どのように感じていましたか。
フェイド:僕にとって一番大事だったのは、自分の文化からできるだけ多くのものを、音楽を通じて持ち込むことだった。だからボンバ・エステレオ(Bomba Estéreo)を呼んだんだ。彼らはコロンビアを代表する本当に大きなグループで、クンビアをベースにしたルーツ音楽をやっている。それに加えて、レゲトン界で史上最も重要なプロデューサーとも言われるタイニー(Tainy)にも参加してもらって。彼も日本が大好きで、最新アルバム「Data」のジャケットには日本人アーティスト(小倉宏昌)のイラストが使われているだよね。そうしたつながりを全部まとめて、一つの意味あるイベントにしたかったんだ。
でも何より大切にしたのは、「僕らのパーティーをレゲトンで一晩中楽しんでもらう」こと。ペロ・ネグロ(Perro Negro)で始まり、ボンバ・エステレオ、タイニー、そして最後に自分のセットで締めるという構成で、日本のみんなに特別な体験を届けたいと思ったんだ。ポップスやJ-POP、K-POP、ラップを聴いているのとはまったく違う特別な雰囲気を感じてもらえるようにね。僕の故郷コロンビアのメデジンやラテン・アメリカ、さらにはパリの大きなイベントで感じられるあの独特の空気をここに持ってきたかった。それが自分にとって一番大事なことで、今回ステージで鳴らした音楽は、そのためのショーを準備する上で欠かせない要素だった。
——どのアーティストのパフォーマンスも素晴らしかったですが、千葉雄喜の飛び入り参加は最高のサプライズでした。
フェイド:彼とは10カ月くらい前から「一緒に曲をつくろう」って話していたんだ。で、そのタイミングで彼の曲「重てぇ」のリミックスの話が出て、マイアミでレコーディングして。それを彼に送ったら、「せっかくだしフェスでやろう」ってなって、すごく自然な流れで今回の発表につながった。僕はまだ日本語を勉強中だけど、日本という場所に深く関わりたいと思っているんだ。だから音楽だけじゃなくて、ファッションとかも含めて、日本のアーティストといろいろ一緒にやれたらいいなって思っている。
日本カルチャーの魅力
——日本のリスナーにとって、スペイン語の発音やフロウって新鮮な部分があると思うんですけど、逆に、フェイドさんが日本語の歌や日本の音楽に惹かれるポイントってどんなところにあるんでしょうか。
フェイド:僕にとって曲づくりで一番大事なのはメロディーで、いいメロディーさえあれば、どんな歌詞でも音でも成立する。だから素晴らしいメロディーがあれば、それだけで十分だと思っている。
日本の音楽に惹かれたのも、まさにそこで。去年、日本の街を歩いていたときに偶然耳にした曲があって、「Shazam」で調べたんだ。歌っていた女性の名前は思い出せないんだけど、いくつかの曲をYouTubeに保存してあって。そのサウンドがすごく面白くて、どこかコロンビアの音楽に通じるものを感じたんだ。同じではないけど、ベースラインや使われている楽器の雰囲気など、すごく似ている部分があった。
それに、日本の古い音楽にも現代のラップにも共通しているのは、創造性の豊かさ。音楽そのものだけじゃなく、ミュージック・ビデオやSNSの映像表現まで、すごく独創的でオリジナリティーがある。そこが僕が日本の音楽を好きな理由なんだ。
——ちなみに、千葉さんの他にフェイドさんがチェックしているアーティストがいたら教えてください。
フェイド:そうだな……最近よく聴いている日本のアーティストが何人かいて。LEXというアーティストで、彼の妹もLANAという名前で活動しているんだよね。雑誌の表紙でLEXを見かけて気になって調べてみたら、音楽がすごくユニークで面白くて。自分でプロデュースしているかは分からないけど、とにかくサウンドがクールで印象的だった。(LEXとLANAの)2人で作っている曲も聴いたんだけど、それも素晴らしかった。
音楽だけじゃなく、グラフィック・アートも大好きで、気になる作家の作品は全部欲しくなっちゃうくらい(笑)。特に永井博さんの作品にはずっと前から惚れ込んでいて、本を手にとってページをめくりながら眺める時間は、自分にとって特別な体験だね。子どもの頃に日本で過ごした記憶ともどこかつながっていて、実際に手で触れて作品を鑑賞できることに大きな意味を感じている。
——そういえば、インスタグラムのストーリーズでは「ドラゴンボール」のテーマ曲を使ったりもしていますよね。
フェイド:うん(笑)、「ドラゴンボール」は僕の人生の中でも本当に特別な存在なんだ。子どもの頃、父と一緒に観ていて。2000年頃だったと思うんだけど、、当時通っていた学校から「『ドラゴンボール』や『ドラゴンボールZ』は子どもにふさわしくないので観ないように」という通知がきたことがあって。でも父は「どうしてダメなのか分からない。悟空は毎日少しずつ成長する姿や、自分の仕事に情熱を注ぐこと、家族を大切にすることなど、良い手本になる要素がたくさんある」と言ってくれたんだ。
アニメ全般も、僕の人生には欠かせないものです。「AKIRA」や「獣兵衛忍風帖」のような古い作品から、新しいアニメまで幅広く観ている。どの作品からも学べることがあって、ストーリーやキャラクターの衣装、ビジュアルからインスピレーションをもらうことも多くて。アニメは、僕の想像力を自由に広げてくれる大切な存在だね。
——今回の来日に合わせて、1週間ほど前乗りしていろいろな場所を回られていたとか。
フェイド:いや、今回はもう日本に2週間ぐらい滞在していて(笑)、しかもまだ数日ほど日本にいる予定なんだ。去年は8日間しかいられなかったので、時差ボケがやっとなくなった頃にはもう帰る日で、実際に全力で楽しめたのは3日くらいしかなくて。だから今回は余裕をもって、体を慣らしつつ早起きして、日本を思いっきり体験するっていう気持ちで過ごしている。そのおかげで、外に出て街を歩いたり、食べ歩きしたり、いろいろ見たり体験したりする時間をたっぷり取れた。
日本はコロンビアのメデジンとも、今住んでいるマイアミとも全然違って、本当に魅力的で。メデジンには古い寺院なんてほとんどないから、日本の伝統がしっかり残っている街や文化財を見ると特別に感じる。時間が止まったかのように保存されているものが多くて、美しい景色に圧倒されるんだ。
——印象に残っている場所はありますか。
フェイド:京都では大きな寺院や竹林を見たし、大阪ではあまりゆっくり回る時間はなかったんですが、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンでスーパー・ニンテンドー・ワールドに行ったり、道頓堀の川沿いを歩いてバーやドン・キホーテが立ち並ぶ賑やかな雰囲気も楽しんだ。東京や京都の落ち着いた感じと、大阪のにぎやかでちょっと雑多な感じのコントラストがすごく面白かったね。
こうして日本の伝統や文化に触れるたびに、「ああ、だからアニメやマンガが生まれたんだな」と納得できるんだ。美術館で見た古いイラストレーションの歴史と、現代の文化がつながっているのを見ると、全てには“始まり”があって、積み重なって今があるんだなって。本当に素晴らしい体験だった。
トレードマークの
「グリーン」と「サングラス」
——ところで、フェイドさんといえば「グリーン」と「サングラス」がトレードマークになっています。昨日のステージでも視覚的な演出の部分で「グリーン」が効果的に使われていましが、このスタイルはどんなきっかけで生まれたのでしょうか。
フェイド:「グリーン」という色を意識し始めたのは、大体3年前だね。自分で撮った動画の中で緑の服を着ていたのがきっかけだった。それでツアーに出るようになると、ファンの人たちも緑の服を着て会場に来てくれるようになって。それを見て「これは何かのサインだな」と思って、もっと緑を打ち出していこうと決めたんだ。グリーンのグッズを出したり、ジャケットやアートワークを緑で統一したり、ステージ演出にも取り入れたり。そうしていく内に、ファンも「これが彼のカラーなんだ」と自然に理解してくれるようになったんだ。
僕の故郷のメデジンは山々に囲まれていて、街中に緑が溢れていて。飛行機で降り立つと、一面の緑が目に飛び込んでくる。だから「緑=自分」というイメージは、とても自然に感じられた。今ではブランドから何かプレゼントをもらうときも、「彼には緑が合うだろう」って、必ず緑を選んでくれるくらい。
——「サングラス」にはどんなこだわりがありますか。
フェイド:サングラスに関しても、最初は「プラダ(PRADA)」や「グッチ(GUCCI)」、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」みたいなハイブランドに憧れていた。でも高すぎる上に、正直かけ心地があまり良くなくてくて。そこで「オークリー(OAKLEY)」に出合ったんだ。価格も手頃で軽くてかけ心地も最高。それ以来ずっと「オークリー」を愛用している。
最初は“ガスカン(Gascan)”というモデルを使っていたんだけど、そこから自分なりにアレンジして、レンズに自分の名前「Ferxxo(※フェイドの別名)」をペイントするようになった。これはソウルジャ・ボーイとか、昔のヒップホップからインスパイアされたもので。やがてそれが自分のブランドの一部になって、サングラスとグリーンのキャップ、口ひげ——この3つがそろえば、ハロウィンの仮装でもすぐに「Feid」になれるくらい(笑)、アイコン的なスタイルになった。
——最近だと、「サロモン(SALOMON)」とのコラボレーションしたモデルが発表されて話題になりました。あれも「グリーン」でしたね。
フェイド:今回のモデルは、特に「グリーン」を強く意識したんだ。最初につくった“Friends & Family”モデルは、実はそこまで緑が強くなくて。でも今回は、最初からファンのことを考えて、細かいところまでこだわった。暗闇で光る仕様にしたり、シューズの中にいくつもの緑を使ったり。しかも価格もあまり高くならないように工夫して。スニーカーって人気になるとすごく高くなっちゃうんだけど、ファンのみんなが無理なく手に取れるようにしたかったんだ。
——特にこだわったディテールを教えてください。それらはあなたの音楽やアイデンティティーとどう結びついていますか。
フェイド:デザインには、僕のキャリアを象徴する“ゴースト”、“月”、“太陽”といったモチーフも取り入れている。アルバムやシングル、アートワークなど、これまでの活動ともつながっている要素なんだ。
さらに特別なのは、このデザインを手がけたのが妹のマヌエラ(Manuela)だということ。彼女は僕のビジュアルに関わるイラストやデザインをほぼ全部担当していて、今回もいろんなアイデアを見せてくれた。その中から「これだ」と思ったのが、この「グリーン」を軸にしたモデルだった。妹と一緒につくったからこそ、この一足は本当に特別なんだ。
千葉雄喜とのコラボ
——千葉雄喜とのコラボはどうでしたか?
フェイド:彼との制作はとても楽しかったね。SNSではずっとやり取りしてたんだけど、実際に会えたのは3週間前のLAで、そのときにまた新しい曲も一緒につくったんだ。スタジオでの作業のやり方とか、曲に向き合う姿勢とか、夢の話も聞けて、とても刺激的だった。
彼は「日本の外に出て大きなことをしたい」って言っていて、僕は逆に「日本の中に深く入り込みたい」と思っている。立場は違っても目指している方向性は似ていて、すごくクールなつながりだなって。彼自身も本当に素晴らしい人。
——その関係性は「サマソニ」のステージからも伝わってきました。
フェイド:実はこの後も一緒にスタジオに入る予定なんだ。スタジオで気持ちよく作業できて、アイデアの流れもスムーズで、いい曲が生まれていく──そういう関係性を築ける人と出会えたのは本当にうれしい。
それに、友人を通じたつながりも大きかった。例えば、僕が愛用している“Midori Grills(緑のグリルズ)“をつくってくれたTetsuya(Akiyama)。彼はもう10年くらい前から一緒に活動していて、僕もSNSで彼の作品を見て知っていた。去年日本に来たときは、友人に誘われて「チーム友達」のリリース・パーティーにも呼んでもらったんだ。ただ、ひどい時差ボケで結局行けなかったんだけどね(笑)。
でも彼の音楽に出会えたのは本当に大きかった。特に、いつも耳に残るキャッチーなサビをつくるところが大好きで。そうして友人同士のつながりや会話、ネットワークを通じて自然に関係が深まっていった──そんな感じだったね。
——千葉さんとの印象的なエピソードはありますか。
フェイド:この前スタジオに入ったとき、僕らは「夢を追うこと」についてたくさん話したんだ。すごく面白かったのが、そのスタジオの壁一面にグラミー賞の“写真”みたいなものが飾ってあって。でもよく見たら写真じゃなくて、実は受賞やノミネートの認定証だったんだ。ただ、それが遠くにあって文字までは読めなくて。
で、そこで一緒に作業していたプロデューサーと話していて後で知ったんだけど、そのいくつかは実は僕が関わった曲によるものだった。自分では全然気づいていなかったので、ちょっとびっくりした。
一方で雄喜は「日本人アーティストとして初めてグラミーを獲りたい」って話していて。だから彼がそのグラミー認定証を眺めているとき、それが実は僕の曲のものだったというのは、すごく不思議で、偶然というより“必然”みたいに感じられた。ランダムに見えることも、結局は全部つながってるんだなって思ったね。
——この先の展開も期待したくなります。フェイドさんから見て、そんな千葉さんの魅力はどんなところでしょうか
フェイド:彼は本当にすごく静かな人なんです。話すときも飾らず、必要なことだけをシンプルに、まっすぐ伝えるタイプで。とても分かりやすいコミュニケーションをする人。でも、ステージに立つとまるで別人みたいになる。観客や共演者に向けて放つエネルギーは圧倒的で、“アーティスト・モード”に入ったときの彼は本当に特別で。けれどカメラが回っていないときは、驚くほどリラックスしていて、落ち着いた、穏やかな人なんだよね。
PHOTOS:MAYUMI HOSOKURA
「Se Lo Juro Mor」
◾️フェイド「Se Lo Juro Mor」(「セロフロモール」)
視聴リンク
https://feid.lnk.to/SLJM






