ファッション

アルゼンチン発の幼馴染デュオ、カトリエル&パコ・アモロソが楽しむインディペンデントで自由な装い

音楽愛好家の間では、常にチェックすべきYouTubeコンテンツとして知られるアメリカの公共ラジオNPRの人気企画「タイニー デスク コンサート(Tiny Desk Concert)」。企画名通り、NPRの実際のオフィスの一部を舞台にアーティストたちがパフォーマンスを披露し、約16年の歴史の中で1300本以上の映像が投稿されてきた。その中で昨年10月、映像が公開されるや否や同企画史上最速スピードで再生され、わずか数日で1000万回再生を突破したアーティストがいるーーアルゼンチン発のアーティストデュオ、カトリエル&パコ・アモロソ(CA7RIEL & PACO AMOROSO)だ。


カトリエル&パコ・アモロソの名を世界に一躍知らしめた、アメリカの公共ラジオNPRの人気企画「タイニー デスク コンサート」の出演回 YouTube「NPR Music」チャンネルから

カトリエル&パコ・アモロソは、カトリエルことカトリエル・ゲレイロ(Catriel Guerreiro)と、パコ・アモロソことウリセス・ゲリエーロ(Ulises Guerriero)から成り、共に1993年生まれという幼馴染の間柄。偶然にも苗字が“Guerreiro”と“Guerriero”の1文字違いだったことから小学校で出会って以来、長きにわたり時を分かち合い、2010年頃にプログレッシブ/ファンクバンドのアスター(Astor)を結成して音楽活動をスタートした。しかし、バンドは軌道に乗らず解散し、15年にカトリエルはラッパーとしての活動にシフト。その後、18年にデュオのカトリエル&パコ・アモロソとして再スタートを切った。

すると、ラテンポップからヒップホップ、フュージョン、エレクトロニックまでを自在に行き来するエクスペリメンタルな音楽スタイル、南米由来のストリートムードやラテンカルチャーの要素を感じさせるジェンダーレスなファッション、マチズモ(男性優位主義)を風刺する演出などが話題を呼び、たちまち地元アルゼンチンでは知られた存在に。そして、上記の「タイニー デスク コンサート」への出演で知名度が世界クラスになると、日本でも“カトパコ”の愛称がSNSで散見されるようになり、今年に入ってからは「コーチェラ フェスティバル(Coachella Festival)」と「グラストンベリー フェスティバル(Glastonbury Festival)」という世界の二大音楽フェスに出演する快挙を達成。さらに、母国アルゼンチンの音楽シーンで最も権威ある賞とされる「プレミオス ガーデル(Premios Gardel)」で最高賞や最優秀アルバム賞を含む最多7冠を獲得するなど、今や世界で最も有名なアルゼンチン発のアーティストとなった。

去る7月、そんな“カトパコ”が「フジロック フェスティバル'25(FUJI ROCK FESTIVAL'25)」のため初来日し、出演の数日前にショートインタビューの機会を得ることに成功。そこで、2人が訪れたかったという東京・西麻布の高級焼肉店「ワギュウマフィア(WAGYUMAFIA)」を舞台に、彼らの音楽性に勝るとも劣らず注目を集めているファッション面を中心に話を聞いた。

ーーまずは、初来日とのことですが東京はいかがですか?

パコ・アモロソ(以下、パコ):日本を訪れることが夢の1つで、ようやく実現したけど想像を超える世界すぎて、何もかもに驚いてるね。

カトリエル:初めての国に訪れたというか、違う世界に迷い込んだみたいだよ。

ーー地元ブエノスアイレスと明確に違うことはありますか?

パコ:日差しが強すぎて、日傘が必要ってことかな(笑)。

カトリエル:僕は喫煙家なんだけど、タバコを吸うために小さな部屋(*喫煙所)に入らなければいけないのが恥ずかしいな。

ーーここからは、ファッションについてお伺いさせてください。2人のアーティストとしてのアイデンティティーを担う重要な役割だと思いますが、これまでに影響を受けた人物やムーブメント、具体的な着想源などはありますか?

カトリエル:影響を受けた人物とは少しニュアンスが違うけど、ステージ上のファッションは全てセリーナというスタイリストに任せているんだ。彼女は、ステージごとに毎回違う衣装を用意してくれるんだけど、どれも完璧。まぁ、僕たちはなんでも着るんだけどね(笑)。

パコ:そうそう、僕もなんだって着ちゃう。ファッションとは少し違うけど、香水は大事にしているね。

カトリエル:分かる分かる。日によってつけるものは変わるけど、香りは自分のエッセンスとして保っておきたいんだ。

ーーセリーナは、デビュー当時からスタイリングを担当しているのですか?

パコ:今や彼女の存在は俺たちの活動に欠かせないけど、一緒に仕事をするようになったのは少し経ってからだね。

ーー何がきっかけだったのでしょうか?

パコ:共通の友人の誕生日パーティーで、偶然出会ったのさ。その時、彼女に「あなたのファッションはイケてない」とダメ出しされたから、「じゃあ、君がスタイリングしてくれる?」と返したことから関係が始まったんだ。

ーーちなみに、今日の服装は私服ですか?

パコ:そうだね。“4カ月前からスーツケースに入ったコレクション”の中から、気に入ったものを選んで着てきたよ。ただ、そのコレクションには何かしら新しいものが次々に追加されていく一方で、誰か別の人が着て無くなることもあるから、常に入れ替わっているんだ(笑)。今着ている洋服は、この間もらったもので初めて袖を通したよ。

カトリエル:僕は、さっき東京のアンダーグランドなショップで買ったばかりのモノを着ているね。というのも、インタビューを受けるときに今までと同じ洋服を着ているのが大嫌いなんだ。あと、有名なブランドのロゴが乗っているような洋服を着るのはあまり好きじゃないから、できるだけ知らないブランドのアイテムを着るようにしていて、今着ているのもどこのブランドか分からないね。

ーーとなると、特定のブランドやデザイナーを好むことはあまりないように思えます。

カトリエル:(片方の眉を上げる)

パコ:「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」や「バレンシアガ(BALENCIAGA)」をよく着ているけど、1番着ることが多いのはインディペンデントな世に知られていないデザイナーの洋服だね。

ーーインディペンデントなデザイナーは、インスタグラムなどのSNSで見つけることが多いのですか?

パコ:ライブで忙しくてお店に行ったりすることなどは難しいから、セリーナが用意してくれた衣装から知ることが多いかな。ちなみに衣装の多くは特注品で、しかもライブ会場にあわせて地元のデザイナーが手掛けたものばかりなんだ。彼女のリサーチ力は本当にすごいよ。

ーーところで、自分なりのファッションにおける美学やルールはありますか?

カトリエル:んー……僕の場合は即興スタイルが美学だね。

パコ:定義するのは難しいけど、いつだって自分らしさやおもしろさを大事にしているかな。僕たちのこれまでのステージ衣装を見てもらえば、言語化できないけど存在する美学を感じてもらえるように、俯瞰して見たときに関連性があることが大事だと思う。とにかく、誰かのスタイルをマネするのではなく、自分たちのスタイルを貫くことが重要だね。

ーー話を聞く限り、アーティストの多くは人気の高まりと共にラグジュアリーブランドの広告などに起用されることが増えるのですが、あまり興味がなさそうですね。

カトリエル:何よりもギャランティーが大事だから、それ次第(笑)。

ーーでは、過去のステージ衣装でお気に入りだったものはありますか?

カトリエル:いっぱいありすぎるからな~(笑)。

ーー全てのライブを観てきたわけではないのですが、やはり「タイニー デスク コンサート」の衣装は個人的に好きですね。

パコ:あれは本当にアイコニックだから僕も好きだよ。あとは、ついこの間の「ロラパルーザ ベルリン(Lollapalooza Berlin)」の服もお気に入りだね。

カトリエル:それで言うと、モビスター アリーナ(Movistar Arena)でのブエノスアイレス公演と、「ロラパルーザ アルゼンチン(Lollapalooza Argentina)」の衣装も良かったな。

ーー「フジロック」はパフォーマンスはもちろん、衣装も楽しみにしています。

パコ:衣装は、いつも当日にセリーナが教えてくれるから、実は僕たちもまだ何を着るかは知らないんだ(笑)。

ーー最後に、ファッションと音楽の関係性についてどう思いますか?

カトリエル:音楽とファッションは、別のジャンルだけどとても近いところにあり、お互いに作用し合うけど全く無関係のこともある。バレエダンサーの服装でメタルを歌うこともできるし、メタルの服装でボレロを歌うことだってできる。要するに、自分の口で何を言うかが重要だよ。

パコ:ファッションも音楽と同じく自己表現方法の1つだとは思う。ただ、それが自分の音楽によって条件付けられるかは分からないし、条件付けられることもあるかもしれない。今言えるのは、それだけかな。

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