ファッション

ラテン界のスーパースター、カミーロ 象徴的なヒゲと“まっくろくろすけネイル”を聞く

カミーロ/シンガー・ソングライター、プロデューサー

1994年生まれ、コロンビア第二の都市メデジン出身。2007年に出演したオーディション番組で優勝し、2008年にデビュー。その後、音楽活動を休止し、2015年にアメリカ・フロリダへと移住。現地でソングライターとして活躍し、その実力が認められる形で2019年に再デビュー。ラテンアメリカを中心に絶大な人気を誇り、現在インスタグラムでは2820万以上のフォロワーを抱え、「スポティファイ」の月間リスナーも2100万人を超える

プエルトリコ出身のバッド・バニー(Bad Bunny)が3年連続で「スポティファイ(Spotify)」の“世界で最も再生されたアーティスト”に輝き、コロンビア出身のJ.バルヴィン(J Balvin)は「マクドナルド(McDONALD’S)」や「ジョーダン ブランド(JORDAN BRAND)」とコラボし、プエルトリコ系のジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)とコロンビア出身のシャキーラ(Shakira)の2人はNFLのハーフタイムショーに出演(2020年)するなど、ここ数年の音楽シーンはラテンアメリカ勢の躍進が見られる。この潮流で存在感を一際増している新星が、コロンビア出身のシンガーソングライターでプロデューサーのカミーロ(Camilo)だ。

ラテンポップの第一人者と称されるカミーロだが、日本では同ジャンル自体のなじみが薄いこともあり、本稿で初めて名前を知った方々も多いかもしれない。しかし、彼は2020年にリリースした1stアルバム「Por Primera Vez」から最新作となる3rdアルバム「De Adentro Pa Afuera」まで、3作が3年連続で最優秀ラテン・ポップ・アルバム賞にノミネートされ、これまでに発表した楽曲のトータル再生数は150億回超えを記録。また、「スポティファイ」の月間リスナー数は毎月2000万人以上で、インスタグラムでも2819万フォロワーを抱える、ラテン界のスーパースターなのである。

そんな彼が8月、音楽フェス「ソニックマニア(SONICMANIA)」と「サマーソニック 2023(SUMMER SONIC 2023)」への出演のために初来日。多忙なスケジュールの関係でネイルの施術を受けながら、デビューからブレイクまでの道のりをはじめとする音楽関連の質問と共に、シンボリックなヒゲや並々ならぬ日本文化への愛までを聞いた。

音楽に魅せられた幼少期

ーーまずは、アーティスト活動を始めたきっかけを教えてください。

カミーロ:物心ついた頃から音や言葉に愛情を持つ感覚があって、今思えばそれが音楽に魅了された第一歩だったんだと思う。小学生の頃には、毎日学校から帰ったらおもちゃで遊ぶようにギターを弾いていて、それが次第に作曲や作詞に移り変わり、オーガニックな感じでキャリアにつながっていったのさ。

ーーということは、幼い頃からアーティストを志していたのでしょうか?

カミーロ:その頃は、具体的な将来のことなんて全然考えずに過ごしていて、ただ単にギターを弾いて「楽しいな〜うれしいな〜」って感じ。でも、もう少し成長してからすぐに「あれ?もしかして仕事になるかも?」と思い始めたね。アーティストとして生計を立てることは、情熱や愛情があれば誰もができるわけではないし、その思いを秘めながら他の仕事に就いている人たちもいるわけで、すごく恵まれていることだと常々感謝しているよ。

ーー小学生の頃にはギターを手にしていたとのことで、家族や親戚など近しい方が音楽業界に身を置いていたのでしょうか?

カミーロ:いや、誰もいないね。ただ、両親がとにかく音楽好きで、家にはカセットやレコードが山のようにあったんだ。ギターを弾き始めた頃は、その山の中にどんな音楽があるのか、探すのが楽しみで仕方なかったね。ミュージシャンとして両親から学ぶことはなかったかもしれないけど、センスや音楽的感覚は養ってもらったよ。

ーー両親はどのような音楽を?

カミーロ:とにかく幅広くて、古いバジェナート(注:コロンビア発祥の音楽ジャンル)を中心としたコロンビアの伝統音楽はもちろん、アルゼンチンをはじめとするラテンアメリカ系、メキシコ系、アンデス系、スペイン系まであったことを覚えている。その中で、ザ・ビートルズ(The Beatles)やザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)、ピンク・フロイド(Pink Floyd)などのロック系もしっかりそろっていたし、あらゆる音楽を収集していたんだと思う(笑)。

人生の転機となったパートナーとの出会い

ーーそれでは、デビューの経緯を教えてください。

カミーロ:13歳だった07年に出演したTV番組が、翌年からのプロアーティストになるきっかけではあったものの、そのあと一時活動を休止して、今のパートナーであるエヴァルナ・モンタネール(Evaluna Montaner、ベネズエラ出身の歌手で女優)と出会ったことが全てを大きく変えたんだ。15年に彼女を追ってアメリカ・マイアミに移住した時、アーティストになることは全然頭になかったんだけど、とある女性アーティストの作詞をする機会に恵まれた。そして、エヴァルナのことを想って書くことが、結果として自分の知らない新たな感受性を発掘することにつながり、それが多くの人たちの共感を生むことが分かったんだ。それからしばらくソングライターとしてキャリアを積み、18年から再び歌うことになったね。本当に、彼女との出会いが僕のアーティストデビューと言っていいよ。

エヴァルナは周りの人が思っている以上に重要な存在で、それは単にインスピレーションというわけではなくて、ヒットした曲のうち3曲は一緒に歌って、ツアーも同行して、全てのMVを映像ディレクターとして監督して、主に美容部分の見た目のディレクションまでしてくれている(笑)。本当に、僕の音楽活動の大部分を占めてくれているんだ。

ーーそんなエヴァルナさんも参加している3rdアルバム「De Adentro Pa' Afuera」を昨年リリースしています。自分の中ではどういった位置付けの作品でしたか?

カミーロ:これまでで最もパーソナルなことを歌った作品で、カミーロというアーティストとしても、1人の人間としてもメッセージを伝えられたと思っているよ。というのも、制作中にエヴァルナのお腹に娘インディゴを授かっていることが分かり、彼女についてを歌った「Indigo」という楽曲を作ったし、完成直後に産まれてきてくれたんだ。全米とヨーロッパを回った全150公演の自身最大のツアーも成功させることができたけど、やっぱり商業的な意味以上に思い出深い作品だね。

ーーありがとうございます。ちなみに、今回の来日は「サマーソニック」の星野源さんがキュレーションするステージへの出演のためでした。このきっかけは?

カミーロ:まず、星野源さんが僕を見つけてくれたこと、初来日の機会をくれたこと、日本にいるファンとの橋渡しをしてくれたこと、全てに感謝している。ファーストコンタクトは星野源さんからの連絡で、今まではネットを介してしか会ったことがなかったけど、今回の来日でようやく直接話ができて、今後一緒にレコーディングができればと思っているよ。改めて、初来日が観光ではなく仕事というのは、出来過ぎた話だ。ありがとう。

ネイルやヒゲ、ファッションで探求する自己表現

ーーここからは、音楽以外のことについてフォーカスさせてください。今回のインタビューは、時間の関係でネイルをしながら行っていますが、ネイル歴は長いのでしょうか?

カミーロ:顔も、体も、服も、全てが自分を表現するメッセージになり得ると思っていて、かなり昔からセルフネイルをしているんだ。自分でやるから複雑なデザインはできないけど、“神は地面の土で人間を作った”という神話に着想して、泥をイメージしたシンプルなドット柄のネイルをすることが多いね。プロのネイリストにやってもらうのは人生で初めてだから、どんなネイルになるか楽しみだよ。

ーーヒゲにもこだわりが見られますが、そのシンボリックなデザインはいつから蓄えるようになったのでしょうか?

カミーロ:ソングライターとして活動していた時、あまりにも忙しくて1カ月ほどヒゲをそらずにスタジオにこもって曲を書いていたら、ヒゲが伸び切った僕の姿を見たエヴァルナが「最高!絶対にそっちゃダメ」って(笑)。それから2人で考えて今のスタイルに落ち着いたんだけど、もうヒゲのない自分が想像できないくらい顔に溶け込んでいるし、“カミーロのシンボル”にもなってくれたね。

ーーどのように形作っているんですか?

カミーロ:ヒゲ用のワックスがあって、指先ですくい取ったら(小さじ1杯ほど)手のひらで伸ばしてよく温めて、全体に万遍なく塗りこんでいく感じだね。

ーー日本にはヒゲで遊ぶ文化があまり根付いていないのですが、ラテンアメリカでは頻繁に見られるものなのでしょうか?

カミーロ:まさか、コロンビアでも珍しがられるよ(笑)。インドには比較的いるらしいけど、どこに行っても同じようなヒゲの人はほとんど見かけたことはないかな。ラテンアメリカの男性の多くは、1cmくらいの短いヒゲのスタイルが多いね。

ーー実は、日本ではヒゲで遊ぶことはおろか、多くの一般企業のサラリーマンはヒゲをそることがエチケットの一部とされているんです。

カミーロ:そうなんだ!街行く日本人は、そんな凝り固まった生活を送っているように見えないから、そんなこと思いもしなかったよ。でもその分、他の国の人よりも自由に多様性のあるファッションを楽しんでいる気がするな。

ーーカミーロさん自身は、ファッションでこだわりやマイルールはあるんでしょうか?

カミーロ:私服だと、とにかく着やすさが一番だね。ライブでは、事前にデザインした衣装を着ることがほとんどで、ステージを動き回るタイプだから動きやすさを重視しているよ。色でいうと、ベーシックカラーが好きだね。ただ、レッドカーペットがあるようなイベントのときは話が変わってくるから、ブラックのイメージが強い「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」をよく着ているよ。

今日着ているのは私服で、トップスはロサンゼルスを拠点にしている日本人デザイナーのMUTSUさんが手掛ける「プロスペクティブ フロウ(PROSPECTIVE FLOW)」のアイテムさ。「プロスペクティブ フロウ」は品質とパターンが素晴らしくて、その服に自分を表現するDIY的なアレンジするのが好きだから、このトップスの刺しゅうも自分で入れているんだ。ボトムスはいつもエヴァルナとシェアしていて、買うときはお互いが着られるサイズを選んでいる。だから、今履いているのはクローゼットの中にあった気に入っているやつだけど、エヴァルナが買ったものでどこのブランドのアイテムか分からない(笑)。スニーカーは、「アディダス オリジナルス(ADDIDAS ORIGINALS)」とバッド・バニーのコラボモデルだね。

ジャパノファイルな一面

ーーDIY的なアレンジといえば、藍染に興味があるそうですね。

カミーロ:娘の名前をインディゴにするくらいインディゴブルーと藍色が好きで(注:インディゴ染めは化学染料を、藍染は天然染料を使用)、歴史や過程にも興味があって多くの文献を読んだけど、まだ直接現場は見たことがないんだよね。日本は藍染文化が伝統らしいから、どこかのタイミングで藍師や染師に会えればと思っているよ。

ーー他に今回の来日で計画していることはありますか?

カミーロ:初来日だから気合いを入れて、僕とエヴァルナの両親、それに姉まで連れてきて、数日の東京を楽しんだあと、箱根と京都に行って、また東京に帰ってくる予定だね。お茶の世界に触れられるような場所は絶対に行きたいし、食文化も楽しめるだけ楽しみたいし、日本のアニメを観て育ったからなんらかのグッズを買いたいと思うよ。

ーー例えばどんなアニメを?

カミーロ:今日まっくろくろすけのネイルをしてもらったように、宮崎駿とスタジオジブリの作品は僕にとって重要な存在で、一番は「千と千尋の神隠し」だね。それから、「ドラゴンボール」と「ポケモン」「遊戯王」も人生に大きな影響を与えているかな。

ーーあなたと同郷のJ・バルヴィン(J Balvin)も和風の別荘を建てていたり、コロンビアでは何かと日本文化に触れる機会が多いのでしょうか?

カミーロ:コロンビアに限らずラテンアメリカの人々にとって、アニメは日本という国を知るための門戸なんだ。小さい頃は吹き替えもされているからコロンビアのアニメだと思って観るけど、それが地球の反対側の日本産だと知って国のことを調べると、アニメよりも奥深い文化や歴史といった背景が潜んでいて、どっぷり魅了される人が多いんだ。この間、知り合いの音楽プロデューサーもプライベートで来日していたし、アーティスト系は特に顕著だと思うよ。改めて、日本に来れたことがうれしくてたまらない。機会をくれた全ての人に感謝したいね。

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