植民地化の影響で消滅の危機に瀕していたアイルランド語を自在に操り、言語復権やイギリスからの独立といった政治的題材を、ユーモラスかつエネルギッシュに解き放つ北アイルランド・ベルファスト発のヒップホップトリオ、ニーキャップ(KNEECAP)。モ・カラ(Mo Chara)、モウグリ・バップ(Móglaí Bap)、DJプロヴィ(DJ Próvaí)から成る彼らは、鋭いメッセージとキャッチーなビートで、いまやアイルランド発のカルチャーアイコンとして世界的な存在感と人気を獲得している。
その一方で、彼らの反骨精神は常に議論の的でもある。コーチェラではイスラエルのジェノサイドを公然と批判し、ライブでも常にパレスチナへの連帯を表明。昨年にはイギリス政府によりモ・カラがテロ容疑で起訴されるという衝撃的なニュースもあった——一度は棄却されるも、再び控訴の通告が来たという。その余波で複数の国で入国禁止措置やビザ取り消しが行われるなど、ニーキャップはいつの間にか音楽シーンの外側からも注目を集めるようになった。それでも彼らは沈黙しない。むしろその状況すら創作の燃料に変え、より自由に、より大胆に声を上げ続ける。2024年には本人たちが自らを演じる半自伝的映画「KNEECAP/ニーキャップ」(日本では25年8月公開)が製作され、第97回アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出されるという快挙も達成。映画は世界的に高く評価され、新たなファンを獲得すると共に俳優としての新たな地平も切り開いた。
そんなニーキャップが今年1月、ついに初来日を果たした。1月4日には「ロッキング・オン ソニック(rockin’on sonic)」で圧巻のパフォーマンスを披露し、1月5日には単独公演も実施。言語や文化の壁を軽々と飛び越え、日本の観客を熱狂へと引き摺り込むことに成功した。彼らは東京のステージからも「Free Palestine」と叫んだ。自らの声を最大限に使い、歴史の正しい側に立とうとする彼らの姿に心を震わされた人も大勢いたことだろう。
本稿は1月5日の単独公演前に実施したニーキャップへの単独インタビューである。どんな圧力を受けても走り続ける彼らに、日本での体験やパレスチナへの連帯、イギリス政府への対応、音楽的ルーツや4月発売の新作アルバムについてなど、たっぷり語ってもらった。
日本での初ライブ
——ゴールデン街で楽しんでいる様子をInstagramに投稿していましたね。日本での滞在はいかがですか?
モ・カラ:12月末に日本に来て、それからひたすら飲みまくってる。酒は俺らの必需品だからね。だから今もめっちゃ二日酔い(笑)。いろいろ飲んでて思ったけど日本人ってアイルランド人と結構似てると思うんだよね。こんな共通点があるとは思ってなかったけど、とにかくどっちも酒が大好きだよね。
モウグリ・バップ:それにしても(日本で)こんなに酒を飲むことになるとは思ってもなかった。
モ・カラ:昨日ゴールデン街を歩いてたらニーキャップファン向けに特別サービスを提供していたバーを見つけてね。
モウグリ・バップ:オーナーはアビちゃんって呼ばれてたんだけど、マジでヤバかったよ。
モ・カラ:店の壁にニーキャップのポスターがびっしり貼ってあったんだ。そういう出会いもあったけど日本人は親切で一緒にいて心地いいよね。もちろん日本の食べ物と文化も大好きだよ。
——昨日開催された「ロッキング・オン ソニック」が日本での初パフォーマンスですよね。観客の反応はいかがでしたか?
モウグリ・バップ:騒がしいアイルランドと違って日本の文化って落ち着いている印象だから、昨日の観客もそんな感じなのかなと思ってたんだよ。特に俺らの出番は午後2時くらいの早い時間帯だから、みんなまだ酔ってないだろうし。
モ・カラ:実際、始まる前はみんなめちゃくちゃ静かだったんだよ。カーテン裏の俺らからは観客が見えなくて、どれだけいるのか分からなかった。
モウグリ・バップ:めっちゃ静かだったから、全然観客がいないんじゃないかと思ってた(笑)。それでマネージャーが写真を撮ったら、何千人もの静かに待つ日本人が写ってたんだ。ただ静かにじっとしてて「マジかよ」って(笑)。アイルランド人は待つ間も叫びまくってるのに、こっちは針が落ちる音も聞こえそうな静寂。本当にすごい光景だった。
DJプロヴィ:本当にすごかった。
モウグリ・バップ:普段からすると奇妙に感じたけど、アイルランドに比べて攻撃的じゃないのはいい違いだなと思った。アイルランドのライブはいつトラブルが起きてもおかしくない感じがするけど、日本はすごく安全そうで。
モ・カラ:俺らが出る前はそんな感じだったけど、いざライブが始まると……最高だった。それがまた面白く感じたね。モッシュピットもよかったしね。午後2時ってモッシュピットするには早すぎると思ったけど(笑)。
DJプロヴィ:あとこいつらが俺を観客の中に放り込まないのもよかった。
モ・カラ:そう感じてるだろうなと思ってた(笑)。
モウグリ・バップ:ステージでいくつか話もしたけど、俺たちのアクセントは日本人にとっては聞き取りやすいものではないんだろうね。日本語も今のところ全然理解できてないから、日本にいる間に勉強するようにするよ。
——皆さんの音楽にとってアイルランドの言語と歴史はとても重要な要素だと思うのですが、その背景が共有されておらず、言語もまったく異なる場所でのライブというのは普段と感覚が違うものではありませんでしたか?
モウグリ・バップ:海外でライブをするからといって大きな違いはない気がする。というのも、面白いことにアイルランドでもアイルランド語を話す人はほとんどいないんだ。たとえ地元でも俺らの言葉を理解していない人は大勢いるわけで。でも良いと思う。全てを理解していなくてもそこに込められた感情はきちんと伝わる。それが言葉と音楽の力だ。だから結局のところ、どこでライブするのも同じだと思うよ。
モ・カラ:俺らにとっては、音楽を通じて「アイルランド語に興味を持ってくれる人がいること」が本当に大きな意味を持つんだ。植民地支配の歴史もあって、長い間アイルランドでは母語に対して恥を感じていた人が多く、ましてや誇りを持つことなんてとても難しい状況にあった。そういう複雑な要素があるからこそ、日本に来て、みんながアイルランド語に興味を持ってくれている姿を見るのはすごくうれしい。
DJプロヴィ:音楽やバイブスというのはいわば世界共通の言語なんだ。だから誰もが理解できる。言葉そのものの意味が分からなくても、心が動かされて、踊れて、楽しめるならそれでいいんだよ。
「音楽と政治は切り離せない」
——昨日のライブでも「Free Palestine」のコールが響いていましたね。世界中の国や政府がイスラエルのジェノサイドを黙殺する中で、皆さんが自分たちの知名度と音楽というプラットフォームを活かし、この蛮行を知らない人々に意識を向けさせようとする姿には本当に勇気をもらいます。
モウグリ・バップ:ありがとう。自分たちのプラットフォームを使うことはとても重要だと思う。アイルランド人という立場から、俺たちは植民地主義をよく理解しているんだ。アイルランドはイギリスにとって最初の植民地で、約800年前に侵略されて以来、ずっと支配が続いている。だから抑圧とは何かを知っているし、国際的な連帯の大切さも分かっているつもりだ。
遠い別の国で、異なる背景や宗教、文化を持つ人々が立ち上がり、支援することはとても大きな意味を持つ。パレスチナの人々が絶望を感じているとき、東京で「Free Palestine」と叫ぶ群衆を見たら彼らはどう思うだろうか。地球の反対側——本来なら関心を持たないであろう場所——にいる人々が、パレスチナで起きていることを気にかけていると彼らは知る。パレスチナの現状を見て、同じ人間として痛みを感じ、彼らの声を聞き、サポートしようとしているのだと。その事実は彼らにとって大きな支えとなる。正直なところ、時には無力感に苛まれ、何もできていないのではないかと感じることもある。ステージ上で「Free Palestine」と叫んでも、パレスチナの人々の生活が変わるわけではない。それでも、ほんの少しの勇気と希望にはなり得る。それが積み重なり、いつか世界が彼らの置かれた状況を変えるかもしれない。だからこそ自分たちのプラットフォームを使うことが大切なんだ。
モ・カラ:誰にとっても大切なのは「音楽と政治は切り離せない、共存関係にあるもの」だと理解することだ。だって抑圧の中にいる人々はコンサートに行ったり、音楽を楽しんだりすることすらできないからね。それらは本来すべての人に与えられるべき権利であり、当然パレスチナの人々も同じように音楽を楽しむ権利がある。だからこそ音楽を生業にする俺たちにとって、パレスチナについて語ることは重要なことなんだ。モウグリ・バップが言ったように、俺たちの国への抑圧は隣国にもたらされた。そこで何が起きているのかが世界に知られるようになったのは、アイルランド人のために人々が声を上げてくれたからだった。たとえばネイティブ・アメリカンのチョクトー族がそうだ。1840年代にアイルランドで歴史的な大飢饉——ジャガイモ飢饉と呼ばれる——が起きたときには、チョクトー族が寄付を集めて支援してくれた。結果それはアイルランドへの関心を高めたと思う。そうした小さな行動の一つひとつが、人々に「自分たちは忘れられていない」と感じさせ、正気を保たせてくれる。だから世界が自分たちに背を向けていると感じるときこそ、そうした国を超えた連帯が必要だと思うんだ。
DJプロヴィ:ジェノサイドがどんなものかを知っているからこそ、現在進行形で同じ経験をしている人たちに共感し、連帯する気持ちが生まれるんだ。もちろん、俺たちがその時代を生きていたわけではない。でもその痛みの記憶は世代を超えて受け継がれ、何百年経ってもなお、人々の中に敗北感として残り続ける。だからこそ、どこで起きていようとジェノサイドを止めることがどれほど重要なのかを俺たちは知っているんだ。
——昨年11月にリリースされた「No Comment」では英国政府からの嫌がらせをリリックにしていましたが、つい先日もイギリス政府はモ・カラさんに対するテロ容疑棄却の判決を不服として、控訴すると通知したそうですね。いくつかの国では入国禁止やビザが取り消されたりとあまりに正当性に欠ける圧力に驚くのですが、それをどのように感じ、対処しているのでしょうか?
モ・カラ:俺らはこれまで通り続けるだけだから、特に深く考えてないよ。パレスチナについて声を上げることが物議を醸すと言われることがあるけど、それは結局のところ誰の主観に過ぎない。イギリス政府はパレスチナについて語る俺らのことを「過激だ」と言う一方で、イギリスで製造した武器をイスラエルに供給していることは問題としない。どちらが本当に「物議を醸す」ことなのかと思うよ。そんな連中の言うことだからあまり気にしてない。ただ自分たちが正しいと思うことをやるだけ。そしてそれを音楽にする。それこそ「No Comment」のようにね。俺たちは既に裁判で2度イギリス政府を打ち負かしてる。
モウグリ・バップ:もう十分だよな(笑)。
モ・カラ:その後、ツアーを予定していたアメリカでは就労ビザを取り消されて行けなくなったけど、そんなことで俺らは止められない。
DJプロヴィ:俺たちの周りには信頼できる強力なチームがいて、裁判の時には優秀な弁護士チームも支えてくれている。だからこそ権力の乱用——特に政府や首相のような立場からの——があった際には必ず立ち向かい、問いたださなければいけないと思うんだ。だってもしそれが野放しにされ、誰も異論を唱えなければ、次の人にはもっと酷いかたちで降りかかるだろ? 幸いなことに俺たちは戦える立場にあるけど、多くの人は権力乱用に立ち向かえるだけの力や手段を持ってないからね。
モ・カラ:イギリスの刑務所に投獄されている若いパレスチナ・アクションの活動家たちは今、ハンガーストライキを60日以上も続けている。健康状態がかなり悪化していて、もう会話もできなくなっているらしい。報道されているかは分からないけど、そういう手段で闘っている人もいるんだ。そうやって権力を監視する人がいなければ、より深刻な犯罪や怠慢さえも平然と許されるようになるんだと思うよ。
だから俺らはまだまだ音楽をつくり続けるし、今年は新しいアルバムも出すよ。フォンテインズD.C.のアルバムも手掛けるダン・キャリーがプロデューサーなんだ。国境を跨ぐことが禁止され、どこにも行けなくなったとしても俺たちは音楽を作り続ける。音楽は国境を越えていくからね。
——発信を続けてきた人が、圧力や重圧に耐えきれず沈黙してしまうケースも少なくありません。そうした中で、皆さんは世界的に注目を集め、批判や圧力を受けながらもその姿勢を貫き続けています。その原動力は一体何なのでしょうか。
モウグリ・バップ:大切なのは自分たちが正しいことをしているのだと自覚を持ち続けることだと思う。そもそも俺たちに降りかかるどんな困難も、ガザで起きていることに比べれば取るに足らない。他の国へ行けなくなることもあるが、そのときは別の場所で演奏すればいい話だ。一方でガザの人々は常に命の危機に晒されていて、一度の爆撃で家族全員を失う人もいる。何十万人もの人が命を落とし、その現実を俺らはスマートフォン越しに目の当たりにしている。だから俺らが入国禁止になったり、訴えられたり、裁判に行く必要があっても大したことじゃない。そんなものは全然耐えられるし、どうにかなる。それよりも声を上げ続けることの方がずっと大事なんだ。
影響を受けたアーティストは?
——ニーキャップはジャンルでいえばヒップホップだと思うのですが、そこに多くのジャンル、文化的な要素が混ざり合っていますよね。そこで改めてみなさんの音楽的ルーツや影響を受けたアーティストについて知りたいのですがいかがですか?
DJプロヴィ:まずはラバーバンディッツ(The Rubberbandits)だね。今はもう活動していないアイルランドのコメディーヒップホップデュオで、活動を始めた初期にはすごく影響を受けた存在だった。特に彼らのエネルギーやテーマ性といった部分でね。アメリカのヒップホップは自慢気だったり抗争みたいな話が多いけど、ラバーバンディッツはアイルランドの小さな町で日常的に起きるような、平凡で身近な出来事を歌っていたんだ。
モウグリ・バップ:アイルランド人はあんまり自慢するタイプじゃないからね。どちらかといえば日本人に近くて、シャイで何にでも「ごめん」って言いがち。駐車してある車にまで謝るぐらいだからね(笑)。ラバーバンディッツはそういうアイルランドらしさを初めてラップで表現する存在だった。「世界一になるぜ」なんてことは一切言わず、むしろ「車より馬のほうが良い」とかそういうことをラップにしていた。ユーモアがあってアイルランドらしい、その感覚が俺らにはすごくフィットしたんだ。
モ・カラ:アイルランドではレベル・ミュージックが一種のフォーク・ミュージックのようなかたちで根付いているんだ。言うまでもなくアイルランドは長い抑圧の歴史を持つから、音楽は自分たちのアイデンティティーや文化、そして抵抗の意志を持ち続けるための大切な手段だった。レベル・ミュージックには風刺の要素が含まれていて、抑圧に対して主導権を取り戻そうとする試みのひとつだった。内容は殉教者がイギリス政府に勝つ話だったり、歴史的・政治的なテーマが多かったね。俺らはそんなレベル・ミュージックと共に育った。実際かなり人気もある音楽だったんだよ。あとトラディショナル・ミュージック(伝統音楽)にもとても影響を受けたと思う。それもアイルランドではよく聴かれているからね。
——具体的にアーティスト名を挙げるなら?
モ・カラ:例えばアイリッシュ・ブリゲード(The Irish Brigade)。彼らはアイルランドのレベル・ミュージックを代表する存在だと思う。さっき話していたラバーバンディッツもそう。アイルランドは小さな国ということもあり、みんないろいろなジャンルを聴いて育つんだよ。友達はだいたいバンドをやっていて、それぞれ全然違うジャンルを演奏している。
DJプロヴィ:プランクスティ(Planxty)やクラナド(Clannad)を真似したりね。
モウグリ・バップ:アイルランド音楽の面白いところは、ジャンルが違ってもコミュニティーが小さいから、みんな同じ音楽サークルの中にいる感覚があること。国が小さいからこそ、ジャンルの垣根を越えて自然と支え合う文化がある。一見相容れないように思えるジャンルでも、実際には伝統音楽もロックもみんなまるっと愛してる。ロンドンやアメリカのように競争的ではなく、みんなで協力しながらやる感覚の方が強いんだ。
モ・カラ:例えば俺らの1stアルバムには伝統的なアイリッシュ・フルートが入った楽曲があるけど、それは友達が演奏してくれた。そうやってトラディショナルな要素とエレクトロニックな要素を融合させる試みも好んでいる。つまり俺たちの音楽は色んな要素が溶け合った大きなるつぼのようなものなんだ。
DJプロヴィ:アイルランドのトラディショナル・ミュージックは譜面で覚えるんじゃなくて、ただ聴いて、耳で覚えていく。そうやって自然と身につけていく音楽なんだ。アイルランドの文化や言語にもともと強い口承の伝統があるからね。たくさんの物語が口伝えで語り継がれてきた。そしてヒップホップもまた、物語を伝え語る音楽だと思う。もともとコミュニティーや身近な人々の物語を伝えるところから始まったしね。そういった要素をいろんなジャンルと組み合わせていくのが楽しいんだ。90年代のアイルランドには大きなレイヴ・シーンもあって、俺らはそこからもいろんな影響を受けている。だからヒップホップでありながら、トラディショナル・ミュージックを始めとする複数の要素が交わり、ジャンル的背景が重なる音楽になったんだと思う。
多様な人々を惹きつけるライブ
——ニーキャップのライブには人種やジェンダー問わず多様な人々が集結していると伺いました。いまだにヒップホップのライブは男性比率が多い印象がある中で、なぜニーキャップのライブはそれほどあらゆる層が集まる場となっているのだと思いますか?
モウグリ・バップ:ヒップホップはそれ自体が一つのカルチャーだけど、俺たちの音楽にはそこに加えて、言語や抑圧の歴史という別の文化的側面がある。例えば植民地支配によって土着語が抹消寸前まで追い込まれているという状況や感覚は、あらゆる場所や人々にとって理解できるもののはずだ。だからそれはどんな言語やジェンダーであろうと共感できるものなんだよ。
モ・カラ:俺らの音楽の中に組み込まれている「言語の復興」というテーマが、いろんなジェンダーの人々に強く響いているんだと思う。自分たちの言葉は“母語(mother tongue)”と呼ばれるように、どこか女性的なエネルギーを持ったものでもある。それがほかのヒップホップとは異なる響きを生んでいるのかもしれない。そうやっていろんな人に共感してもらえるからこそ、ライブでもいろんな年齢やジェンダーの観客が集まれる場をつくることがすごく大切だと思っている。男の子や若者だけの空間より、そのほうがずっといい雰囲気になるはずだしね。実際俺たちのライブに来たら分かると思うけど、本当に客層を一つに括れないんだ。前のライブでは最前列に70歳くらいの女性がいて、そのすぐ隣に18歳くらいの男の子もいた。ヒップホップの現場ではなかなか見られない光景だと思ったね。
モウグリ・バップ:それはきっと俺らが“ニッチな存在だから”というのもあると思う。アイルランド語でラップするなんて他にあまりいないからね。そういうニッチなものを求めてライブの空間に集まる人は、きっと日常の中では出会わない同士だろうけど、その場所ではみな同じ価値観を共有している。だからこそ普段はなかなか周囲と分かり合えないと感じている人たちにとっても、すごく心地いい空間になっているんだと思う。
DJプロヴィ:いわばニーキャップは、いろんな要素が重なり合った素晴らしいベン図みたいな存在なんだ。そこにはパンクスもいればレイヴァーもいる。トラディショナル・ミュージックが好きな人もいれば、ただ興味本位で来ている人もいる。その全てが同じ場所で交わっているんだよ。
映画「KNEECAP/ニーキャップ」への出演
——日本では昨年公開された映画「KNEECAP/ニーキャップ」も本当に面白かったです。映画に出演したことは皆さんにとってどのような経験になりましたか?
モ・カラ:最高に楽しかったね。数カ月の間、週に一度くらいのペースで演技レッスンを受けたんだ。それほど多くやったわけじゃないけどそれもすごく良い思い出として残ってる。音楽と映画、そして自分たちの人生そのものをこんなふうに融合できるって本当に素晴らしいよ。それがいろんな国の人に観てもらえることで、何が起きているのかを知ってもらえたり、興味を持ってもらえたりする。こんなにうれしいことはないよ。
DJプロヴィ:あれはまさに俺らしか演じられない役だったね。自分たちの物語がベースになっているけど、同時に自分たちをデフォルメしたキャラクターでもあるから。自分自身を演じるのは簡単でもあり、難しくもあった。スクリーンの中の俺らを嫌う人は、現実の俺らのことも嫌うかもしれない。
モ・カラ:だから脚本ではちゃんと好感を持ってもらえる台詞になっているか注目してたよ(笑)。本当に素晴らしく光栄な経験だった。あの映画が今まで知らなかった旅に連れて行ってくれたんだ。そこでさまざまな文化を持つ人たちや、オーストラリアの先住民の人たちにも出会うことができた。この映画が良かったのは、単にアイルランド語だけを扱った作品ではなかったところだと思う。言語の復興やアイデンティティーをめぐる、国境を越えた物語だった。人々が自分たちのルーツとなる文化アイデンティティーに立ち返り、それを取り戻していく姿が描かれていたんだよ。だからこそ世界に響くものがあったし、たくさんの興味深い人たちと出会うことができたんだと思う。
——モ・カラさんとモウグリ・バップさんが橋の向こうから走ってくるシーンが鮮烈でした。あまりに完璧な画だったので。
モウグリ・バップ:俺らが走る後ろで一羽の鳥が横切っていくシーンだね。
——そう! 鳥はCGだと思っていたら偶然入り込んだらしいですね。
モウグリ・バップ:あの鳥に大金を払ったからね(笑)。偶然だったけど本当に完璧なタイミングだった。鳥が入り込んできた時にはカメラマンも「そのまままっすぐ飛べ……頼むから台無しにしないで……」と祈ってたはずだよ(笑)。
あの場面のジョークはアイルランドとスコットランドでしか通じないと思ってたんだよ。宗教的・政治的な背景、つまりロイヤリズム(王党派)とリパブリカニズム(共和主義)の文脈があるからさ。だからそれが海外にも通じたことはすごく興味深かった。あの橋がベルファストの2つのコミュニティー——アイルランド統一を望む俺らのコミュニティーと、英国残留を望むコミュニティー——を分けている場所だと知っているのは、基本的にベルファストの人だけ。だからベルファストの人が観れば、俺が”属していないコミュニティー”の方向に走っているのが分かるんだけど、あのショットを撮るためにはあの向きが良かったんだ。背景に山がある方が映えるからね。本来なら逆向きに走るべきだったけど、より厄介な方へ走っていった。それは映画ならではだったね。
——今後またオファーが来たら俳優の仕事を続ける気はあるんですか?
モウグリ・バップ:実際オファーはたくさん来てるし、続ける可能性もあると思う。ステージで飛び跳ねるのは若者の特権だから、年齢を重ねたら引退して俳優をするのも悪くないかもね。
モ・カラ:探偵役とか刑事役とかも面白そうだなと思うよ。ジェームズ・ボンドも悪くないね。
モウグリ・バップ:でもボンドはイギリス人だろ!
モ・カラ:じゃあ爆弾を使う悪党役だな(笑)。
全員:あはは!
モ・カラ:「KNEECAP/ニーキャップ」もそうだったし、次に何があるか分からない。もしかしたら「KNEECAP2」、「KNEECAP3」、「KNEECAP4」があるかもね(笑)。
モウグリ・バップ:じゃあ「KNEECAP in TOKYO」もやらないと。
モ・カラ&DJプロヴィ:賛成!
新作アルバムについて
——先ほどニューアルバムの話が出ましたが、可能な範囲でどういう作品になるのかを教えてもらえませんか?
モウグリ・バップ:“セカンド・アルバム症候群”って言葉があるよね。最初のアルバムは20年分くらいの経験を注ぎ込めるけど、2枚目はたった1年分の経験から作らないといけないから薄くなってしまう、ってやつ。その点、俺たちはかなり幸運だったと思う。この一年でいくつかの国から入国禁止になったり、裁判を経験したり、映画をつくったり……いろんなことが起きたからね(笑)。多くのバンドが一生経験しないようなことを短い期間で経験することができた。だからリリックを書く題材には困らなかったね。話すべきこと、歌うべきことは山ほどあった。
モ・カラ:俺らはとにかく斬新で、フレッシュで、これまでとは違うものやサウンドに挑戦したい。だからダン・キャリーと一緒にやることで、より音楽的な広がりを持たせられると思ったんだ。ファンからしても同じことの繰り返しじゃなくて、新しい何かを聴きたいはずだろ?だからこれまでとの「違い」は意識してる。みんながそれを気に入ってくれることを願っているよ。
モウグリ・バップ:ニーキャップの音楽自体は、実は結構シンプルなんだ。だからそのシンプルさとダン・キャリーの音楽的な幅が混ざり合う、理想的な組み合わせになったと思う。音楽的にはかなり成熟した感じになっているよ。いくつかの曲では相変わらず子どもみたいなことをやってるけど(笑)。
DJプロヴィ:アルバムは4月24日にリリースされる予定だよ。シングルは1月28日に公開される。ミュージックビデオも出るし、新曲もどんどん出る予定。かなりワクワクする展開になると思う。
モ・カラ:いっぱい出過ぎてみんな俺らにうんざりするかもしれないよ(笑)。
——日本にはもうしばらく滞在するんですか?
モウグリ・バップ:俺はあと5週間くらいいる予定。大阪、京都、沖縄に行くつもりで、多分韓国にも行くと思う。3月まで自由時間があるから、適当にいろんなところへ行くかも。
モ・カラ:あとニセコにもスキーをしに行くよ。
DJプロヴィ:俺はあと2日で帰らないといけないんだ。赤ちゃんがいるからね。でも明日は相撲を見に行くよ。ここにいる間にいろいろ観光名所を巡らなきゃ。
モウグリ・バップ:日本食が大好きだからとにかくいろんなものを食べたいね。今のところずっとラーメンと寿司を食べ続けているよ。
モ・カラ:昨日は餃子も食べたんだけど、アイルランド料理よりずっと美味しい。向こうは基本、ジャガイモと肉ばっかりだからね。もちろんそれも悪くないけど、こっちは味のバリエーションが本当に豊かで素晴らしいよ。
PHOTOS:TAKAHIRO OTSUJI
映画「KNEECAP/ニーキャップ」DVD
映画「KNEECAP/ニーキャップ」Blu-ray/DVDが2月3日にリリース
https://www.albatros-film.com/archives/16731/








