PROFILE: ガイ・ハンドルビー/「ストラスベリー」オーナー兼共同創業者

このほど来日したガイ・ハンドルビー共同創業者に「ストラスベリー」のこれまでとこれからを聞いた。
WWD:「ストラスベリー」を立ち上げた経緯を教えてほしい。
ガイ・ハンドルビー「ストラスベリー」オーナー兼共同創業者(以下、ハンドルビー):「ストラスベリー」は2013年に妻と立ち上げた。それまではファッションとは異なる畑で働いていたんだ。学生時代にファッションを勉強していたわけでもない。
WWD:異なる畑?
ハンドルビー:フランスのアルプスでスキーガイドをしていたよ。短期間だが、スコットランドのハイランド地方・アビモアでスキーのインストラクターをしていたこともある。スカイダイビングやウェイクボード、マウンテンバイクといったエクストリームスポーツにも挑戦した。
(キャリアという観点で)私はほかのファッションデザイナーとは違うのかもしれない。学校で学んだわけではないし、ファッションブランドで下積みをしたわけでもないから。でも、よく言えば固定観念がない。文字通り、真っ白なキャンバスを目の前にして始めた。
WWD:未経験で飛び込むことにためらいはなかったのか。
ハンドルビー:私にはもともと世間知らずとも言える、楽観的なところーーいわばナイーブ・オプティミズム(Naive Optimism)がある。スコットランドから、いまだ世界的なラグジュアリーブランドは生まれていない。では誰が作るのか、と考えたときにぱっと自分の顔が思い浮かんだ。人生は一度きり。何かに挑戦していたい。
WWD:デザインをするときに大切にしていることは。
ハンドルビー:バッグでも建築でも、デザインするということは選択するということ。何を加えるかだけでなく、何を残し、何を捨てるかを決めることでもある。「星の王子さま」の作者、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの言葉にこうある。「完璧さとは、それ以上加えられないときではなく、これ以上減らせないときに達成される」。この一文はデザインの本質を突いていると思う。
WWD:シンプルだからこそ棒状の金具“ミュージックバー”が光る。
ハンドルビー:同じ“ミュージックバー”をさまざまなバッグにあしらう。見る人が見れば「ストラスベリー」のバッグだと気付ける。そんなバッグを作りたいと思っていた。
“ミュージックバー”は、1930〜40年代に作られたレザーの楽譜入れの金具部分に着想を得た。だからそう名付けたんだ。この楽譜入れは、今も本社の図書館に大切に保管している。
ちなみに私は楽器を演奏できない。かっこよく「これが得意なんだ」と言えたらいいのだけれど(笑)。歌を歌えば、周りから人がいなくなるくらいだ。もっとも、音楽は大好きなんだけどね。
WWD:クラフツマンシップについては。
ハンドルビー:私たちの工房はスペイン南部のウブリケにある。高級レザーの世界的な産地であり、小さな村でありながらラグジュアリーブランドの下請け工房が集まっている。
私が好きな「ロエベ(LOEWE)」もその1つで、「ロエベ」がここなら私たちもここにしようと決めた。また、4人目の子どもが生まれる前にスペインに住んでいたこともある。現地のクラフツマンシップを肌身で感じていたことも、選んだ理由の1つだ。スコットランドで作ることも考えなかった訳ではないが、やはりウブリケの仕上がりにはかなわない。
機会があったらぜひ遊びに行ってほしいよ。革の香りが心地よく、パタカブラ(トンカチのような革道具)の音がリズミカルに響いている。その音がまるで鳥の歌声のようなんだ。
WWD:ではエディンバラらしさはどこに潜んでいるか。
ハンドルビー:エディンバラの建物と私たちのバッグの佇まいに重なるものがある。エディンバラの建物は、古くてタイムレス。力強くて存在感がある。これらはバッグにも必要な要素だ。そして温かさーー私たちのバッグにはエディンバラという街が持つ温かさがある。
私たちの本社は、エディンバラにある4階建てのタウンハウス。南向きの窓が設けられた明るい部屋でバッグのデザインが行なっている。そこでデザインするのは「バーバリー(BURBERRY)」や「マルニ(MARNI)」そして「ロエベ」など、名だたるブランドで経験を積んだデザイナーたち。本社では彼らを含め60〜70人が働いているが、まるで家族のようなつながりを感じられる。
エディンバラは、ロンドンやパリ、ニューヨークのような大きな街ではない。人と人、人と自然の距離も近い。私はそんなファッションセンターでない一面が好きなんだ。前例のないファッションはこのような場所から生まれると信じている。
「今こそ日本でビジネスを加速させるとき」
WWD:ビジネスの進捗は。
ハンドルビー:創業して12年経った。この間、業績は好調に推移している。24年の売り上げはグローバル全体で5000万ドル(約75億円)、昨年は7000万ドル(約100億円)だった。今年は1億ドル(約150億円)の売り上げを目指している。
バッグは人生の一部になる。「辛いことがあった1日、家に届いたギフトボックスを開けると『ストラスベリー』のバッグが入っている。その美しさにたちまち笑顔になる」。これはあくまで一例だが、私たちは顧客を笑顔にさせることを何より大切にしてきた。その結果だと思う。
WWD:日本市場をどう見ているか。
ハンドルビー:実は日本には2012年、創業のタイミングで訪れていた。日本人はショッピングが大好きで、デザインや品質に理解があるため、求めるレベルが高いことが分かった。そのときは、まだ準備が足りないと感じたよ。
この10年と少し、着実に腕を磨き上げてきた。今がまさにビジネスを広げるときだ。ポップアップの開催ほか、大手セレクトショップへの卸にも乗り出した。現在は「ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)」「トゥモローランド(TOMORROWLAND)」「エポカ(EPOCA)」に卸している。単に定番品や季節品だけでなく、日本限定品を作るなど、ローカライズもしたい。
今年中に単独店も出せられたらと思っている。エリアはまだ考えている最中だが、青山が有力だ。青山一帯はとても居心地が良いから。昨日も大好きな「サカイ(SACAI)」の青山店を訪れたら、予想以上に滞在してしまったよ。静かで穏やかで、1本道に入るとカフェやバーで腰も掛けられる。ゆっくりとショッピングを楽しむ人が集まるような、そんな場所に店を開きたい。
WWD:「ストラスベリー」の価格戦略を教えてほしい。
ハンドルビー:ラグジュアリーブランドに対しては「フェアじゃない」と私も感じている。クリエイティブに100%の力を注いだところで、顧客の手に届かなければ意味がない。高額になればなるほど使いにくくなる。汚したり壊したりする怖さが勝ってしまうからだ。
私たちは、同価格帯のブランドが1平方メートルあたり20〜40ユーロ(約3640〜7280円)のレザーを使っているところ、1平方メートルあたり90ユーロ(約1万6380円)のレザーを使っている。つまり、同じ素材を使い同じ工場で作っていても、ブランドが変われば価格は3〜5倍になる。
私たちのようなインディペンデントブランドに注目が集まっているのは、デザインのユニークさに加えて、適正なプライスにこだわっているからだろう。もし価格を引き上げなければならなくなっても、私たちは慎重でありたい。