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「ハトラ」の長見佳祐デザイナーが考える「攻殻機動隊」が長く愛される理由

PROFILE: 長見佳祐/「ハトラ」デザイナー、波取/HATRA 代表

PROFILE: (ながみ・けいすけ)1987年広島県生まれ。2006年パリでクチュール技術を学び2010年に帰国後HATRAを設立。衣服を境界状況的な空間と捉えた「リミナル・ウェア」を提案する。3Dクロスシミュレーション、生成AIを始めとするデジタルテクノロジーに基づくデザイン手法を確立し、さまざまなリアリティーが溶け合う身体観についてリサーチする。

今も多くの人を魅了する士郎正宗による漫画「攻殻機動隊」。その全アニメシーリーズを横断する展覧会「攻殻機動隊展 Ghost and the Shel」が4月5日まで、虎ノ門ヒルズの「TOKYO NODE(東京ノード)」で開催中だ。1989年の誕生以来、「攻殻機動隊」は義体化・電脳化・AIといった最先端のビジョンによって世界中のクリエイターに衝撃を与え、「人とは何か」という普遍の問いを投げかけ続けてきた。今回の展示では、アニメ「攻殻機動隊」シリーズの1600点を超える原画や資料に加え、コラボレーションアーティストによる作品も展示している。

今回、同展でコラボコレクションを制作し、「攻殻機動隊」から多大な影響を受けたという「ハトラ(HATRA)」の長見佳佑デザイナーに作品との出会いから魅力、そしてコラボ作品に込めた思いを「攻殻機動隊展 Ghost and the Shel」の会場で語ってもらった。

「最初は観ても全然内容が分からなかった」

WWD:長見さんが最初に「攻殻機動隊」に触れたのは、どの作品からでしたか?

長見佳祐(以下、長見):僕が最初に観たのは劇場アニメの「イノセンス」です。当時僕は17歳か18歳で、すごく話題になっていたので、「観なきゃ!」と。でも、観ても全然内容が分からなくて、ガイノイド(女性型アンドロイド)の描写が怖くて、その時は特に「攻殻機動隊」に移入できず、こういう世界もあるんだなっていうのが最初の出会いでした。

WWD:最初の入りが「イノセンス」だと難易度が高いですね。まだ1作目の「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(以下、「GITS」)の方が理解できたかもしれないです。

長見:そうですね。それで2006年から2009年までパリに留学したんですが、留学中にフランス人の友達の間で「GITS 」が人気で。そこで僕もまた「攻殻機動隊」に興味が出てきて、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」(以下、「S.A.C」)を観て、そこからシリーズ全体にのめり込んでいきました。続けて、「攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG」(以下、「2nd GIG」)を観て、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society」(以下、「SSS」)はリアルタイムで観たと思います。その後の「攻殻機動隊ARISE」(以下、「ARISE」)、「攻殻機動隊 SAC_2045」(以下、「SAC_2045」)もリアルタイムで観てます。

WWD:「GITS」はいつ観ました?

長見:その2006年ごろだったと思います。

WWD:原作の漫画も読みましたか?

長見:漫画はフランスだと入手する機会がなくて、日本に帰国してからだと思うんで、2010年ごろだと思います。読んでかなり衝撃を受けましたね。自分の中ではそれまでにアニメを何度も観ていたので、ある程度ストーリーは分かっているつもりだったんですけど、原作はかなり難解で。正直全巻(3巻)を読み終わるまでに1年近くかかったかもしれない。それでも、とても理解したとは言えないですけど。

WWD:最初にアニメ作品を観ているとそのイメージと原作の漫画は全然違いますよね。

長見:漫画原作は文脈理解が試されますね。そういうとっつきにくさ自体、今ではとても好きです。簡単に手を出せない、拒絶感みたいなのはこの作品の魔力というか、魅力になっていると思っています。

作中におけるタチコマの存在

WWD:一番好きな作品は?

長見:一番っていうのは難しいですけど、映像作品としての圧力は1995年の押井守監督の「GITS」はすさまじいものがあると思います。今回改めて原画展でこの分量の原画を生で拝見してみて、そのエネルギーには圧倒されました。川井憲次さんの音楽も、当時の自分からすると完全に異質な世界観が劇中で広がっていて、美的なインパクトという意味では「GITS」。でも、お気に入りみたいなニュアンスであれば、やっぱり神山健治監督の「S.A.C」シリーズは大好きで、何度も観直し続けています。

WWD:好きなキャラは?

長見:「S.A.C」に出てくるタチコマですね。作中で、タチコマはAIロボットとして登場し、常に複数の機体同士が並列化されるので、最初は規格化された存在だったのが、回を重ねるにつれて、徐々に個性らしきものを獲得していきます。一方で物語自体は、人間の方の個性が曖昧になっていく。人間と機械が逆の方向に向かっていく物語の中でタチコマは強い役割を担っています。観た方は分かると思うんですけど、加速度的にタチコマに感情移入させられるようなストーリー構成になっていて、気持ちが傾くほど、生命の線引きを試されているような気持ちになります。

WWD:「S.A.C」の最後のバトーとタチコマの関係性とか、本当に感情移入してしまいます。

長見:タチコマに感情移入する一方で、簡単にそうやって人の心がコントロールされてしまうという意味では複雑な気持ちにもなります。特に今、日常にAIが溢れる時代になって、より一層リアリティーを感じます。

でも、そもそも「攻殻機動隊」自体、キャラクターに依存するような構造になってないのが、シリーズを跨いで今も楽しめる理由として大きいかもしれません。どちらかというとチーム(公安9課)の関係性にキャラクターが宿っている感じはあるので。

WWD:確かに「攻殻機動隊」の原作にしてもアニメ作品にしても、今見ても全然古びないですね。何なら逆に今っぽいというか。

長見:今観直してみて、ようやく「そういうことだったのか」と分かる部分も多いです。それは本当に原作の士郎正宗先生や監督の方々の先見性によるものが大きいのだと思います。

アニメ作品、お気に入りのシーンは?

WWD:アニメ原画の展覧会の会場ということで、「GITS」でお気に入りの原画はありますか?

長見:たくさんあります。キャラクターデザインでは、沖浦(啓之)さんが担当した「GITS」が好きで、「攻殻機動隊」シリーズに限らず、どのアニメーション作品と比べても、この「GITS」の人物造形は最高です。しかも、年々良く見えてくる。本当に素晴らしいです。原画集もずっと見てきたのですが、こうして直に原画を見ると1本1本の線の息遣いまで聞こえてくるようで、「本当にこれが人の手で描かれたのか」、という恐ろしさに近いものを感じます。まさに国宝級ですね。

WWD:その中で特に一番印象に残っているのは?

長見:2つあって。1つはこの「GITS」のラストのエンドクレジットが出る直前のシーンです。「ネットは広大だわ」のセリフの後にこの摩天楼の超縦長の背景画がパンしていくのですが、ネット空間と都市が重ね合わされ、さらにその端々まで草薙素子(と人形使い)の意識が巡るように感じられます。

今回、「ハトラ」のコラボレーションでも、小倉宏昌さんによるこちらの背景美術を使用させていただいています。それだけ象徴的なシーンでしたし、今まで使用されていなかったので、「ハトラ」がやるなら、というところで、今回はこのラストシーンに決めました。

あと、もう1つ「GITS」で好きなシーンは、この会場にはそのものの原画はないようなのですが、終盤で人形使いと素子が並んで電脳接続するシーン。客観的に2人を捉えていたカメラが、人形使いの目線に切り替わり、魚眼レンズのような歪み方で素子が映り込むんですが、それを見ているのも素子なんですね。その構図がなんというか、大丈夫なのかな、と見るたび思うくらいすごくて、特に印象に残っています。

WWD:それにしても押井監督はあの原作からよく「GITS」を作ったなと思いますね。

長見:そうですね。ここまでディレクションされているんだっていうのは、原作を読んでから驚きました。一方で原作の直接ストーリーには関係ないロケーションや本当に一コマで終わるような会話が映像作品の中にもコラージュされていることに気づかされます。まさに細部が世界線を超えて作品性を支えているようで原作のすごさも同時に感じます。

WWD:「イノセンス」でお気に入りのシーンはありますか?

長見:「イノセンス」だとバトーとトグサが択捉(エトロフ)経済特区に向かうシーンですね。西洋風の大聖堂から東アジア系の祭事までの異文化が混じりあった描写と「無法地帯となった経済特区」という設定が重なって強く記憶に残っています。

あとは、ラストの犬とバトーのシーン。「GITS」と比べて「イノセンス」はCGが多用されていて、ある意味スムーズ過ぎる違和感みたいなのが薄く作品を覆う中で、最後にめちゃくちゃ生々しく、犬が描かれていて。今見るとその対比が一層強く感じられます。

WWD:「S.A.C」「2nd GIG」のお気に入りは?

長見:先ほどもお話ししましたけど、タチコマの存在が大きいですね。人間の個性というものが何なのか分からなくなっていくという、話のメインストーリーと並行して、コントラストを描くようにタチコマが徐々に個性を獲得していくという流れが、全てのエピソードにレイヤーされています。

WWD:「S.A.C」の第12話「タチコマの家出 映画監督の夢 ESCAPE FROM」は不思議な回ですよね。

長見:確かに。あの話で、「このシリーズ、ただ事じゃないぞ」という雰囲気を感じたのを覚えています。それがその後の第15話「機械たちの時間 MACHINES DESIRANTES」につながっていくのもいいですよね。

WWD:ちなみに、今から「攻殻機動隊」シリーズを観る人におすすめの順番は?

長見:まずは原作の漫画を読んでみてほしい。今までとうとう観なかったってことなら、すごく良い意味のショックを感じられるはずです。僕のように一度挫折するにせよ、そこから始めるといいと思うんですよ。

その上でアニメ作品に関しては、正直どの作品から見始めるかというのは、話の内容よりもパッと見て絵柄が好みだなって思うものがあれば、そこから観るのがよいと思います。もちろん話の飲み込みやすさだと、「S.A.C」シリーズから見てもらうのがきっと分かりやすいと思いますけど。あと、7月から新作「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」が放送されるので、そこから入るのもきっと楽しいと思います。

「攻殻機動隊」からの影響

WWD:「攻殻機動隊」という作品からはファッション的にどんな影響を受けましたか?

長見:想定されている影響の受け方ではないかもしれませんが、「ハトラ」に関しては、ビジュアル面での影響は正直そこまでないんです。だけど、作品の大きなテーマとして、アイデンティティーや身体が中心にあると思っていて、それってファッションそのものですよね。例えば、「2nd GIG」では義体に刻まれたシワとか体形によってゴースト(魂)がシェイプ(成形)されるという話があります。スタンドアローンコンプレックス(明確なリーダーやオリジナル・情報源が存在しないのに、個々に自律した個人が共感・模倣により連動し、巨大な集団行動や現象を形成する状態)自体、流行現象と似た性質がありますよね。あるいはバーチャル空間で身体の制約から自由になった時、装飾とは、とか。新しい技術の浸透が日常、もしくは事件として描かれることで、私たちが装う行為は実質的に何だったのか、問いかけられているように感じてきました。これは「ハトラ」のスタンスそのものでもありますね。

WWD:技術的な部分で、「光学迷彩」みたいなテクノロジーに興味を引かれることは?

長見:東京大学の稲見教授も実現に取り組まれていましたよね。「ハトラ」では近年、「現象的な服」をテーマにものづくりをしています。当たり前ですが服は柔らかく、揺れるので一つひとつの形に留まらないゆらゆらした存在で、その場に居合わせることでしかどういう存在か理解できない、という意味合いです。光学迷彩も透明化そのものより、そこで立ち上がる現象の方にそそられます。作中でも光学迷彩が暴かれたり、透明化したりする時のトランジッションの表現がそれぞれ違うのですが、そういう環境との相互作用による「新しいシワ」の可能性に興味がありますね。

コラボ商品について

WWD:今回の「攻殻機動隊」とのコラボアイテムに関しては、先方からは何か要望はあったんですか?

長見:デザイン面ではなかったですね。自由にやらせていただきました。制作にあたっては、まず「ハトラ」がどれだけ「攻殻機動隊」に影響を受けてきたかという話と、それから今「ハトラ」が作っているものと作品の世界観の共通点について企画書で力説しました。ずっと実現したいと願い続けていたので、準備にさほど時間はかからず、そこで今回は粒子(パーティクル)をこのコラボレーションのテーマにしようとお伝えしました。全体の構想を固めていくにあたっては、有馬トモユキさんに大きなお力添えをいただきました。

この大判のタペストリーは、「ハトラ」がここ5、6年くらい取り組んでいるジャカード織りでできています。6色の糸の組み合わせで混色表現されていて、対象と自分の距離感の違いによって、見え方が変わります。近寄って見た時に現れる織りの組織、例えば手に取ってみるとただの原色の集合で、それが少し離れてみると肌の色に見えて、もっと離れるとキャラクター像になっていく。物との距離によって立ち上がる情報の質が変わるっていうことが、ジャカードの特性の一つでもありますし、そもそも服そのものがそういう性質を持っていると思うんです。

WWD:先ほどお話ししていた「GITS」のラストシーンを使用したニットとワンピースもあります。

長見:こちらは織りではなくジャカード編みで。セーターとロングワンピースに仕立てました。実際に服にして見ると、都市のネットワークが、人体を巡る血管のようでもあり、型紙に重ねてみるとボディーデザインとして成立し過ぎていて驚きました。

もともとジャカード織機は1801年にフランスのジャカードさんが発明したもので、今も使われている工場もありますが「パンチカード」といって厚紙に穴を開ける/開けないを設計図として織機をコントロールする技術です。初期のコンピューターにも0と1の入力にパンチカードが使われていたそうです。そういう意味ではジャカード織機自体がコンピューターの先駆けのような存在で。ファブリックとコンピューターという形で分岐した技術が、攻殻機動隊を通してまた合流するというのがよいなと思って、今回粒子感にはこだわりました。ちなみに今回のためにタグも新たに制作していて、これもジャカード織物の一種ですね。

WWD:パーカーとTシャツは「GITS」のロゴがベースですが、こだわりは?

長見:オープニングで数字の海からクレジットが立ち上がる有名なシーンがありますよね。このプロダクトでは「GITS」のロゴをベースに、「ハトラ」でずっと協業しているグラフィックチームの「アルバトロデザイン(Albatro Design)」と制作しました。「オフィシャルロゴから光が溢れ出して、ロゴ自体がよく見えなくなっている境界をイメージにしてほしい」と伝えました。「ハトラ」で近年試している技法で、それを4色のシルクスクリーンで表現しています。ぜひ手に取って見ていただきたいんですけど、近くに寄ると(ロゴの)意味が消失するんですよね。その時そう見えているだけで、存在が不確か、というのは、コレクション全体のコンセプトになっています。

ただ正直商品化するのは不安でした。もとになっている要素がかなり薄らいでるので、どう来場される方にも伝わるかなというのは心配していました。でも販売前から好評で、売り切れたアイテムもあって、同じ風に作品を観られていたのかなと安心しています。

WWD:最後に長見さんが考える「攻殻機動隊」の魅力って何だと思いますか。

長見:さっきの話に戻ってしまうんですけど、表面上は科学技術の進化を扱っているんですが、コアの部分では、「人間とは何か」をずっと揺さぶり続けているように思います。例えば今、AIが生活に浸透してきて、現実が近づいてきたり、逆に作中描写にちぐはぐさを感じたりする部分もあるかも知れませんが、環境変化が模(かたど)る人・知性の在り方にフォーカスされてきたところが、ずっと長く愛される理由だろうと思います。

あともう一つ、他の作品と比べて特異なのは、普通はこうして多様に作品世界が派生していく作品は、比較的原作に遊びがあると思うんですよ。解釈の可能性が開かれていて、こうも読めるよねっていう、余白があることが多いと思うんですけど、「攻殻機動隊」の場合は、逆に原作が非常に緻密で、どこまでもコマの外まで具体性がほとばしってていて、理解が及ばないゆえに、逆にいろんな解釈が展開されているという。通常とは逆の形で、過剰さから作品世界が広がっているというのは、他にない魅力だなと思います。

PHOTOS:TAMEKI OSHIRO

◾️「攻殻機動隊展 Ghost and the Shell」
会期:2026年1月30日~4月5日
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C
住所:東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F
https://www.tokyonode.jp/sp/exhibition-ghostintheshell/

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