「WWDJAPAN」は2月6日、ファッション業界の経営層・幹部を対象とした完全招待制フォーラム「WWDJAPAN FASHION LINK」(協賛:プレイド)を東京・六本木のグランドハイアット東京で開催した。昨年9月に開催した「WWDJAPAN BEAUTY LINK」に続く2回目で、業界全体でのナレッジの蓄積&共有する場を設けることで、同じ課題意識を持つエグゼクティブ同士が刺激し合う対話の場を創出。賛同するプレイド(PLAID)が今回も協賛企業として参画した。招待された40人超の経営者・幹部は、「WWDJAPAN」ならではの登壇者による講演を聴講後、企業の枠を超えた交流の時間を楽しんだ。
【セッション1】
ナイトタイムエコノミーを盛り上げる
セッション1のテーマは、「ナイトタイムエコノミー」。ゲストには、梅澤高明A.T.カーニー シニアアドバイザー兼CICジャパン会長と、源馬大輔クリエイティブ・ディレクターが登壇した。
「ナイトタイムエコノミー」とは、夜間の飲食やエンターテインメントなどを軸に経済活動を活性化し、都市の魅力や国際競争力を高めようとする考え方。梅澤会長は、2019年に一般社団法人ナイトタイムエコノミー推進協議会の立ち上げに参画し、政策提言も行いながらその可能性を提唱してきた。
梅澤会長は、「大事なのは、経済価値だけではなく文化的価値と社会的価値だ」と強調。ナイトタイムエコノミー先進国として知られるアムステルダムなどを例に、夜の場が都市の創造性や多様性を支えるインフラになると説明した。また、大型の施設よりも、密度の高い小さな場所が新しい文化を生む土壌になると指摘。ホテルやレストランのナイトベニュー化や、美術館、神社仏閣、さらにナイトクルーズなどの水辺の有効活用の可能性についても話を広げた。
DJとしても活動し、ファッションとナイトシーンの両軸で牽引してきた源馬ディレクターは、日本のミュージックバーなど場を作るアイデアが、海外で参照されていることに触れ、「クラブでなくても、今の時代いろんな形の場があっていい。集まる場所を作らないと、そこに着ていく洋服も売れない」と述べ、夜の遊び場がファッション消費の前提になると語った。
ファッション企業に期待することを聞かれると梅澤会長は、「カルチャーを牽引しているかっこいい大人たちに、新しい遊び場をどんどん作ってほしい」と語り、ブランドやリテールが「服を売る」だけでなく、人が混ざり合う場所を生み出す側に回る可能性を示した。
【セッション2】
異業種人材を迎えるための経営層のマインドセットとは
続くセッションでは、国内外で存在感を高めている「CFCL」から、松浦直彦代表取締役副社長兼COOが登壇。これからの時代に強い組織を作るために必要な経営層のマインドセットについて語った。
「CFCL」はグローバルブランドを目指すべく、既存の業界慣習にとらわれず、異業種人材や外国籍人材の採用を積極的に進めている。現在社員のおよそ半分が異業種からの転職で、世界各地、あらゆる業界から優秀な人材がそろう組織体制がブランドの成長を支える土台となっている。
金融業界でのキャリアを経て同社に参画した松浦副社長も自身を「ファッションの初心者だった」と話し、「だからこそ業界の常識を前提にせず、組織を設計し直せた」という。異業種人材の採用においてまず課題になるのは、「即戦力」だ。松浦副社長は「必要なスキルや業界理解はトレーニングと時間でキャッチアップする設計に切り替えた」という。PRやMDなど職能理解を含む社内勉強会を重ね、共通言語を組織内に増やした。さらに多国籍チームを成立させるため社内言語の英語化にも着手。「最もハードルが高かった」と話しつつ、言語の壁を個人の努力に委ねず、会社として言語の習得をバックアップするなど、仕組みとして整える重要性を強調した。加えて、リモートワークやワーケーションに加え、コミット比率を本人が選べる仕組みなど、ライフステージや副業を前提にした働き方も整えたという。
さらに、同社の大きな特徴が評価と報酬の透明性である。360度フィードバックの導入や等級制度の簡素化。個人の納得感と組織の持続性を両立させる設計を進めてきた。加えて、スタートアップとしての不確実性を踏まえ、会社の成長に個人の報酬が連動する仕組みとして「ストックオプション」も取り入れた。これは、現金報酬に加えて、自社株をあらかじめ決めた価格で購入できる「権利」(ストックオプション)を付与し、会社が都度現金化する報酬制度。会社の成長に伴って株価が上がれば、その差益がリターンとなる設計にすることで、異業種人材が長期目線でコミットしやすい土台を整えた。
最後に松浦副社長は、AIとロボティクスが進む現代において「ファッションの物質的価値以上に意味的価値が重要になる」と見解を述べた。「これからの時代、人間の非効率性や文化、歴史といった要素が価値の源泉になる。ファッション、もしくは広く創造的な産業は日本の今後の基幹産業になっていくはずだ」と業界への期待を寄せた。
【セッション3】
体験とデータで創る「顧客 / 従業員との共創モデル」
セッション3では、ゴールドウイン(GOLDWIN)の主力ブランド「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を率いてきた森光ゴールドウイン取締役専務執行役員COOと、データマーケティングのスペシャリストである高柳慶太郎プレイド取締役が、「体験とデータで創る 顧客/従業員との共創モデル」をテーマに語った。
「ザ・ノース・フェイス」は1966年に米カリフォルニアで設立。当時のバックパッキングムーブメントなどを背景に過酷なフィールドでの活動を支えるギアを提供することを使命に誕生した。森COOは、“CORE&MORE”戦略が現在までのブランドの成長に寄与したと話す。「“CORE”は命のリスクと隣り合わせのフィールドを前提とした機能や素材開発であり、そこで培った信頼がブランドの土台になっている。一方の“MORE”は、その機能を都市生活へと接続し、ライフスタイル領域まで広げていく考え方だ。街着向けに色やフィットを調整しても、機能や素材の核は変えないという姿勢で、“CORE”と“MORE”を両立し時代に合わせてファン層を広げてきた」。
「ザ・ノース・フェイス」の一部の店舗では、プレイドが提供するCX(顧客体験)プラットフォーム「KARTE」を導入する。「KARTE」は、店舗やオンラインなど複数の接点で得られる顧客にまつわる情報を統合し、接客やコミュニケーションに生かすためのサービスだ。
プレイドの高柳取締役は、店舗などでの充実したリアルな接点をデータ化していくことが、これからの時代に重要だと指摘した。「リアル店舗で生まれる会話や相談内容、スタッフが得た知見といった体験を可視化し、組織の資産として活用することが、顧客だけでなく従業員との共創モデルを強め、事業成長の鍵になる」。「KARTE」では、購買にまつわる情報だけでなく、顧客の行動データも集積でき、「顧客の声」を掛け合わせて、次のコミュニケーションに生かすことができるという。
実際にゴールドウインは、ブランドの世界観を直接伝える“体験の場作り”にも注力している。森COOは旅行会社のアルパインツアーサービスを子会社化し展開するアクティビティーツアーや、子ども向けの「キッズネイチャースクール」などを紹介。「自然体験を増やすことがブランドのファンづくりにとどまらず、自然の大切さを実感する機会の創出につながる」と話した。加えて富山県では自然と遊ぶ公園をテーマにした大型プロジェクト「プレイアースパーク ネイチャーリング フォレスト(Play Earth Park Naturing Forest)」も進んでいる。
高柳取締役は「情報や知識はAIや機械に置き換えることができるが、知恵を出し合ったり、体験を提供したりすることはできない。データと人の力をうまく組み合わせて、お客さまへの新しい価値の提案をサポートし続けたい」と語った。
充実したネットワーキングの場を提供
全セッション終了後には、フルコースディナーとともに歓談タイム。さらに食後、テーブルを超えて登壇者や参加企業の経営層同士が交流する時間を設けた。気になる課題についてヒントがもらえそうな登壇者に直接意見を求めたり、普段接する機会のない企業の経営者にアプローチができたりと、参加者は充実した時間を満喫。終了後のアンケートには高い満足度が表れる会となった。