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日本の廃棄漁網から最高品質のリサイクルナイロンを エランゲの挑戦

千葉県外房、干物屋の跡地に役目を終えた大量の漁網が積み上がる。スタートアップのエランゲはここで、廃棄漁網から最高品質のリサイクルナイロンを作ることに挑戦する。パタゴニアの投資ファンド、ティンシェッド・ベンチャーズ(TIN SHED VENTURES)や豊田通商が出資する米ブレオのリサイクルナイロン“ネットプラス(NetPlus)”のノウハウをもとに、日本の漁港で循環スキームを立ち上げた。

「日本の豊かさを支える
一次産業者の課題を解決したい」

エランゲ創業者の関幸太郎代表取締役は、新卒で大手旅行会社に就職。漁業とは程遠い旅行業界からなぜ、漁網のリサイクルに着目したのか。「旅行会社時代には日本全国の地域の魅力に触れた。各地にお客さまをお連れすると『ここのカニはおいしいね』と喜んでくださる。でも、そもそもそのカニを取る一次産業者の存在にはなかなか目が行かない。彼らの事業が持続可能でなければ、どれだけ需要があっても成り立たないわけで、日本の豊かさを下支えしている一次産業者の力になりたいという思いが募っていた」と語る。

まずは、興味のあった海産物の卸業を始めた。「ある時、周りの漁師に使い終わった漁網はどうするんですか?』と聞くと、『そんなの決まってるじゃん。海に捨てるんだよ』と言われた。衝撃だった。話を聞くと、燃やす人もいれば、山に捨てる人もいると言う。産業廃棄物として処理するにはお金がかかることもあり、きちんと処分されていない現状を知った」。

実際に廃棄漁網は、世界的にも海洋汚染の一因として問題視されている。多くの漁網は、自然に分解されにくいナイロンやポリエステルなどが使われており、波や紫外線で少しずつ劣化して細かい破片になれば、マイクロプラスチックを発生させる。さらに、海中を漂う漁網が長期にわたって海洋生物をからめ取ってしまう「ゴーストフィッシング」も生態系を脅かす被害を招いている。

関代表の「一次産業者の課題解決をしたい」という当初の思いは、見過ごされてきた廃棄漁網の実態と結びついた。

米ブレオとのパートナーシップで
日本版“ネットプラス”を作る

アメリカでは先例があった。3人のサーファーが2013年に設立した米ブレオは、チリの漁業コミュニティーと連携して使用済み漁網を回収し、トレーサビリティーの取れた廃棄漁網100%の再生ナイロン“ネットプラス”を製造する。関代表はこのスキームを日本で実現するため、パタゴニア日本支社へコンタクトを取った。アプローチを続ける一方で、北海道から沖縄まで全国の漁港を回り実際に日本ではどんな漁網が使われているのか足を使って調査を重ねた。

そんな折、ブレオの創業者が来日すると聞きつけた関代表は、各地で集めた漁網の資料を携えて直接プレゼンテーションする機会を得た。加えて、国内でナイロンtoナイロンの繊維リサイクル実現を模索していた豊田通商やパタゴニア日本支社の後押しも受け、23年に米ブレオとの正式なパートナーシップを締結。日本版の“ネットプラス”を製造していく体制づくりが動き出した。

回収、分別、洗浄。
素材を磨き価値を高める

原料となる廃棄漁網は、エランゲが漁港から買い取る仕組みだ。回収には、漁師の協力が不可欠だが、総量で5000kg以上にもなる巻き網を回収用の袋に小分けに裁断しながら詰める作業は現場にとっては大きな負担だった。関代表はパワーブロックと呼ばれる漁網を巻き上げるためのクレーンを積んだ1台のトラックで自身が回収に出向くなど回収方法を工夫し、そして何より関代表が信じる「漁網が当たり前にリサイクルされていく未来」の価値を根気強く伝え続けることで、少しずつ信頼関係を築いていったと言う。そして現在、工場には全国の30カ所ほどの協力漁港から漁網が集まる。

集めた漁網は、まずナイロン以外の素材やパーツを手作業で取り除く。選別を終えた網は洗浄へ。巻き網は複数の糸を撚り合わせたマルチフィラメント構造のため、糸の隙間に砂や塩分などの汚れが入り込みやすい。こうした目に見えない異物をどこまで落とし切れるかが、その後の品質を左右する。関代表は「自分たちができる限り素材を磨き上げ、より良いリサイクル素材ができれば、絶対に需要も生まれる」と力を込める。「ポストコンシューマーと呼ばれる、使用済み資源から環境負荷とコストをかけずに良い品質のモノを生み出すことはこれからの時代の価値になる。日本の廃棄漁網でそれができれば、新しい未来が見えると思う」と語る。

裁断した漁網は、エランゲから素材メーカーへ原料として出荷され、糸へと生まれ変わる。現在、エランゲの原料生産量は月5t。初の日本版“ネットプラス”を用いた製品も、今年の完成を見込む。パートナー企業である豊田通商と組み、回収から前処理、素材化までの体制を強めながら、2年後には約20tの生産を目指す。

漁業コミュニティーに根差して
課題を一緒に解決する

24年1月の能登半島地震では、多くの漁港が被災した。地盤の隆起によって漁に出られず、仕事を失った漁師も少なくなかったという。関代表は現地の漁師に声をかけ、漁網を裁断する仕事を発注し、半年間かけて支援した。現場に仕事を生み、対価が回る形でコミュニティーを支える発想は、エランゲの目指す共創の姿でもある。

漁業コミュニティーとの確かな信頼関係は、品質にも直結する。顔が見える関係があることで、どの地域から、どんな素材の漁網が、どれくらいの量で入ってくるのか見通しが立つ。結果として混在リスクを抑え、異物混入を減らしやすくなるからだ。

だからこそ、コミュニティーに価値を返していくことも欠かせない。今後は各地域を巻き込みながら、漁村全体を活性化するプロジェクトにも取り組む計画だという。「でも、まずは関わってくれている漁師のみんなに、みんなで作った“ネットプラス”を使った製品を見せられる日が来るのが待ち遠しい」と関代表は語る。

今後は各地域を巻き込みながら、漁村全体を活性化するプロジェクトにも取り組む計画だと話す。「でも、まずは関わってくれている漁師のみんなに、“ネットプラス”を使った製品を見せられる日が来るのが待ち遠しい」と関代表は語る。

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豊田通商
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