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「ミレー」が渋谷に新旗艦店オープン 創業家4代目CEOに聞く「100年先を見据えたアウトドア哲学」

仏アウトドアブランド「ミレー(MILLET)」の日本における旗艦店「ミレー ブランド ストア トウキョウ シブヤ(MILLET BRAND STORE TOKYO SHIBUYA)」が、東京・渋谷のキャットストリートに3月7日オープンした。フレンチアルプスの山小屋をコンセプトにした店内に、アパレル、バックパックなど同ブランドの最先端の商品が並ぶ光景は壮観だ。1921年創業の老舗企業ながら、現在も革新的なモノ作りで登山家の支持を集める。来日したロマン・ミレー仏本社CEOに経営哲学を聞いた。

キャットストリートに山小屋のような空間

WWD:新しい旗艦店「ミレー ブランド ストア トウキョウ シブヤ」がオープンした。

ロマン・ミレーCEO(以下、ミレー):フレンチアルプスの入り口、シャモニーの山小屋(ロッジ)をコンセプトにした店舗空間をとても気に入っています。アルプスの険しい岩稜帯をイメージして、本物の岩をわざわざ持ち込みました。壁面や床にも石材を用いるなど、細部までこだわった演出です。1階はシャモニーのフィールドを表現しているのに対し、2階は山小屋のように木材をたくさん使って暖かみのある雰囲気にしました。1階の壁面には世界最古といわれる山岳ガイド協会のシャモニーガイド協会、2階の壁面には白馬山案内人組合のそれぞれのエンブレムを飾りました。フランスを拠点に100年以上も世界の登山家に愛されてきた「ミレー」の歴史、そして日本での60年にわたるローカライズの歴史を表現しています。

WWD:キャットストリートに出店した理由は?

ミレー:エキサイティングな立地だからです。アウトドアブランドとしての「ミレー」をよく知るお客さまはもちろん、私たちのことを知らない未知のお客さまとも出会える場所です。アジア各国からの観光客も非常に多く、アジア市場に広くアピールするショーケースの役割を果たせます。この店は、登山やトレイルランニング、そしてライフスタイルなどの最先端の商品を販売するだけでなく、アウトドアに精通したスタッフが装備や山行計画について的確にアドバイスします。登山ガイドやアスリート、写真家などによるイベントもたくさん予定中です。アウトドアを愛する人たちのコミュニティースペースであり、情報発信の場として機能してくことになるでしょう。

人を高みへと導くブランド

WWD:「ミレー」は100年以上の歴史を持ち、高機能なバックパックやアパレルで名を馳せてきた。創業家4代目のミレー氏から見て、どんなブランドと定義しているか。

ミレー:一言でいえば「人を高み(elevation)へと導くブランド」。elevationとは単に登山の標高を指すだけではありません。ウェルビーイングやエモーションにも深く関係します。デジタル化の進展によって私たちは日々、大量の情報を浴びる。だからこそ、時にはスマートフォンから離れて、自然の中に身を置くことの重要性が増すのです。自分の肉体だけで自然と対峙し、没入することで得られるものがある。「ミレー」はそんな人間の根本的な欲求に応えてきたし、これからも応え続けます。初めて山に登る人も、8000m峰を目指す人も、全力でサポートします。

WWD:ミレー氏自身もさまざまなアウトドアアクティビティーを楽しんでいるそうだが。

ミレー:仏アヌシーに住んでいるので、夏はトレイルランニング、冬はスキーツーリングを中心に楽しんでいます。先週はイタリア北部で子供たちとアイスクライミングに挑戦しました。毎年夏にはトレイルレースに出場しています。

昨年シャモニーで全長101kmのトレイルレース「UTMB-CCC」に出場し、激しい高低差のコースを20時間かけて完走しました。そのとき私はelevationを感じました。夜中も一人で走り続ける中、雨に降られることもあれば、風に吹かれることもある。オフィスでPCと向かい合っている時間とはまったく異なる高揚感を覚えたのです。自然の中に身を委ねる中でしか得られない感情でした。

WWD:創業家として21年にミレー社を約50年ぶりに買い戻した理由は?

ミレー:100年先も人を高みに導くブランドであり続けるために決断しました。以前は上場企業だったため、どうしても四半期ごとの短期的な利益が求められました。しかし長期的な視点に立たなければ、ブランドの軸が守れなくなる。脈々と受け継がれたDNAを維持しながら時代の変化に対応し、「ミレー」を進化させていくこと。過去の歴史を踏まえて、未来をどう作るか。創業家出身の私でなければ、下せない経営判断があるのです。

日本の登山家から60年にわたって支持

WWD:日本は過去3年で売上高が倍増。フランスに次ぐ2番目の市場に発展したのはなぜか。

ミレー:まず日本法人は社長のペア・ラスムセンを中心とした素晴らしいチームが出来上がっている。「ミレー」は日本で1968年から販売を始めており、長年の経験で日本の消費者ニーズをよく理解しています。アウトドア専門店などの卸先、素材メーカーなどのサプライヤーとの連携も緊密です。そうした強みが近年のアウトドア人気で大きく花開いたのです。

WWD:日本市場では8割が日本企画の商品と聞いている。

ミレー:欧州と日本では山の環境が違います。欧州のアルプスは急傾斜の岩稜帯で4000m級の峰々が連なる。空気は乾燥しており、夏も雨は少ない。一方、日本は3000m級の険しい山もありますが、森林に覆われた低山のハイキングも盛んです。特に夏は湿度も高く、突然の雨に降られることも当たり前。同じ登山といっても求められるニーズがかなり異なります。それに色やサイズの好み、体形も違う。「ミレー」が提供するバリューは世界各国共通だけれども、山の環境に合わせたローカライズは欠かせません。

WWD:特徴的な製品がヒットしている。

ミレー:吸水速乾機能で汗冷えを軽減するアンダーウエア“ドライナミックメッシュ”は、湿気が多い日本では欠かせないアイテムになっています。防水透湿素材のレインジャケット“ティフォン”も10年以上安定した売れ行きです。これらは日本の登山環境に合わせて、日本の素材メーカーと共同開発しました。繊維に虫を寄せ付けない特殊加工を施した“インセクトバリヤー”は、防虫ニーズが増していることを契約している白馬山案内人組合のガイドたちから聞き取って開発しました。

フランスでは冒頭で触れたシャモニーガイド協会と2009年からパートナーシップ契約を結び、彼らの声を製品開発に生かしています。200年以上前に設立された世界最古の山岳ガイド協会で、約250人のプロフェッショナルたちが「ミレー」のウエアを着て、「ミレー」のバックパックを背負い、年数万回の山行を実施する。製品をテストする最高の機会に恵まれてます。

CEOである私はフランス企画と日本企画の両方の製品を試しています。「この日本企画はフランスでも売れる」「このフランス企画は日本でもう良さそうだ」と提案することもあります。

「極限」に挑戦する人をサポート

WWD:グローバルで見た場合、アウトドア市場はどう変化しているか。

ミレー:グローバルの市場規模は年率5%ほどのペースで拡大しています。大きく伸びているのは、中国やブラジルといったこれまであまりアウトドアスポーツが盛んではなかったエリアです。一方、欧米はすでに成熟している。ただ爆発的な成長は難しくても、自然の中に身を置きたいというニーズは確実に増えています。

成熟化した国々でも期待できるのは、アウトドアと普段着の境界が混じり合うようになっていること。20年ほど前から定期的に来日していますが、かつてのビジネスマンはスーツ姿でブリーフケースを手にしていました。しかし、今はビジネスシーンでもバックパックやスニーカーが浸透している。アウトドアグッズが人々のライフスタイルの中に定着してきているのは非常に面白い現象です。「ミレー」でも日本では現代の都市生活に即した機能的な商品群「セムノ コレクション」を3月から発売しました。

WWD:日本市場をどう見ているか。

ミレー:成熟した市場ではありますが、ポテンシャルは大きいと思います。私は日本市場を四半世紀ほど見てきました。年々アウトドアへの関心は確実に高まっています。特に若い世代にその傾向が強い。低山のハイキングから3000m級の本格登山まで、これほどさまざまなアクティビティーが楽しめる国はあまりありません。その中で「ミレー」はエベレスト登頂を頭からつま先までサポートしてきたトータルブランドで、100年にわたる数々の実績がある。日本でローカライズした商品開発にも自信がある。消費者が日常着としてアウトドアブランドを選ぶ際も、そうしたブランドのナラティブは強い武器になります。「ミレー ブランド ストア トウキョウ シブヤ」の開店を機に、ブランドの魅力を広く発信し、日本市場の成長に弾みをつけていきます。

WWD:開発に力を入れたい分野は?

ミレー:一つのテーマが極限への挑戦です。今や極限に挑むのは一部の冒険家に限りません。エベレスト登頂も昔は年間数人だったのが、今や数百人に達します。登山だけではありません。トレイルランニングの100km、300kmの大会も今や珍しいことではない。舗装された道路を走る42.195kmのフルマラソンが簡単に思えてしまうほどです。大衆化した極限への挑戦に、アウトドアブランドとして何ができるか。バックパックやウエアの機能性を追求するだけではなく、今後はGPSや栄養管理などのデータを活用するアイテムの開発が必要かもしれません。

問い合わせ先
ミレー・マウンテン・グループジャパン
050-3198-9161