ファッション

【2026年春夏ミラノコレ日記vol.3】もはやアートな「セルジオ ロッシ」やセクシー&カワイイな「ジミー チュウ」 果敢にアップデートるアクセブランド

2026年春夏のミラノ・ファッション・ウイークが開かれました。今季も「WWDJAPAN」は、村上要編集長と木村和花記者が、全方位全力取材!後半戦は、バッグ&シューズの展示会が目白押し。今季はそんなアクセサリーブランドたちが、底力を見せました。

「スポーツマックス」に学ぶ
アイデンティティーのあるミニマル

木村和花「WWDJAPAN」記者(以下、木村):スポーツマックス(SPORTMAX)」がかわいかったです!今季はベージュやエクリュ、サンドなどのニュートラルカラーでまとめ、色とシルエットに集中したミニマルなムードが強いですが、ちゃんとアイデンティティーがあります。一見シンプルなロングジレでも、ラペルを重ねたり、スリットを入れたり。シアー素材のパンツとウエストをシェイプしたレザーのジャケットの合わせも、素材の対比でミニマルにとどまりません。“きちんと見え”するミニマルな服だけではない、“モード見え”すする落とし込みが好きでした。

村上要「WWDJAPAN」編集長(以下、村上):「スポマ」って、時々前衛的すぎて「はて?」ってなっちゃうんですが、今季はそんなこともなく、一方で「マックスマーラ(MAX MARA)」とは違うモード感や実験的なムード、クリーンで知的な雰囲気を終始漂わせていましたね。方向性は「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」に近そうです。テーマは、「イン ライトネス&モーション」。直訳すれば、「軽やかな動きの中で」というカンジでしょうか?木村さんが言うダブルラペルや二重の前合わせは、シャープなカッティングのトレンチコートやジャケットに流動性をもたらし、トレンチの長いベルトやインナーとして合わせた同じ色のオーガンジーのマキシシャツ&シアーなパンツも動きにつながります。一着の中でも建築的な構築感と、柔らかな流動性が同居しつつ、トータルルックではそんなアイテムを組み合わせることでさらに静と道を多面的に表現している印象ですね。ライトネスには「明るさ」という意味もあるのかな?ごくごく淡いエクリュ、キャメル、バターイエロー、そしてホワイトが光を、そして黒やボルドーが影を表現しつつ、光を透過するシースルー素材と、反射するパテントレザーなど、素材のコントラストも効かせます。

コントラストが効いているのは、ボリュームも同じ。ウエストでキュッと絞めつつ、そのほかではボリュームを楽しんでいましたね。オーガンジーとシルクサテン重ねたドレスには、植物のイラストをのせました。「マックスマーラ」にもありましたが、それぞれにプリントを施すことで歩くたびに重なったり、ズレたりと揺らめき、モーションを表現します。花のモチーフは、歩くたびに風鈴のように澄んだ音を出すピアスや、バッグに取り付けたコサージュにもなっていましたね。ドレスには、シルクサテンを贅沢に使用。縫製は脇腹のあたりなど最小限にとどめているので、こちらも歩くたびに優雅に揺れるし、実用的なアイテムに仕上がっています。

軽さ重視で日本市場を狙う「フランツィ」

木村:「フランツィ(FRANZI)」は、かなり日本マーケットを意識します。新作の“カルラ バゲットバッグ“は代表例。本国チームが来日したとき「日本のお客さまは値段よりまず重さを確認する」ことに気づいて、軽量化を推し進めたそう。実際軽いのに、両サイドにファスナーポケットがあって、マグネットタイプのフラップも付いてと機能的。素材はやわらかいカーフレザーで、取り外し可能なショルダーストラップも付いています。まさに日本の消費者が求める要素をしっかり押さえているなと感じました。エントリー商材に位置付け、30万円台で販売します。最近のチャームブームにも向き合っています。ブランドの原点であるトランクや、軽量なのに堅牢だから乗っても壊れないという象のチャームは、ブランドのヒストリーを伝える良いツールですね。

村上:価格帯で言えば、「デルヴォー(DELVAUX)」や「ヴァレクストラ(VALEXTRA)」クラスのブランドで、クロコダイルなどのエキゾチックレザーや、ハンドペイントの1点モノの制作などのサービスも実装しています。日本ではこれまで高島屋がセレクト空間の「サロン ル シック」や外商イベントなどで販売していましたが、最近、三喜商事がデュストリビューターになりました。日本の消費者に向けた新型バッグも、そんな戦略の一環です。

ドレスシューズだけじゃない「ジャンヴィト ロッシ」

木村:ジャンヴィト ロッシ(GIANVITO ROSSI)」は、バリエーションが広がりましたね。コレクションは、「深海」「シティ」「砂漠」という3つのシーンを表現しています。「深海」では深海魚のようなメタリック素材やイソギンチャクをモチーフにした立体感のあるスパンコール装飾など、華やかなでアイコニックなパンプスが登場。「シティ」は、都会的でシャープなシルエットのブーツ群。そして意外だったのは、「砂漠」のテーマで見せていた、クラシックなローファーや、ローテクスニーカーのような見た目のバレエシューズなど。市場のカジュアル傾倒の流れを汲みながら、提案の幅を広げていました。最近はジャンヴィトさんの娘、ソフィア(Sofia)さんもデザインに関わっているようで、その影響もあるのかもしれません。

ちゃんとセクシーだけどカワイイ
「ジミー チュウ」が変わった!

村上:ジミー チュウ(JIMMY CHOO)」が変わりましたね!グラマラスなイメージ一辺倒でしたが、今シーズンはその根底にある女性らしさに思いを馳せ、セクシーやセンシュアル(官能的)なムードを削ぎ落とすことなく、パステルカラーのレースなどをふんだんに取り入れてカワイイ方向に舵を切っています。とはいえ、サテンのバレエシューズにはクリスタルのコードをプラス、花のようにカットアウトしたレースのパンプスにはメタルのポインテッドトゥ、大ぶりのフラワーコサージュをあしらったキトゥンヒールのスリングバックは極力アッパーのレースを小さくして足を艶かしく見せるなど、ブリブリにカワイイ「ロジェ ヴィヴィエ(ROGER VIVIER)」とは違う表現方法です。加えて、シューズはラグジュアリー、バッグはエントリーと位置付けているそうで、新型のレザーバッグはアンダー20万円!これまでの「ジミー チュウ」は特に丸みのあるレザーバッグを作るのが大の苦手だった印象ですが、かなり良い面構えに進化しています。良きサプライズでした!

もはやアートや建築の世界
「セルジオ ロッシ」はどこまで面白くなるのか⁉︎

木村:セルジオ ロッシ(SERGIO ROSSI)」は昨シーズン、新クリエイティブ・ディレクターに就任したポール・アンドリュー(Paul Andrew)にインタビューし、彼の革新的な思考にとてもワクワクしました。今回のコレクションも、その期待を裏切りません。「曲線の女王」と呼ばれた建築家ザハ・ハディド(Zaha Hadid)のマイアミにある高級レジデンスに着想を得たサンダルは、まるでウエッジソールの中央をくり抜いたかのような彫刻的デザイン。しかもソールは、後ろから見るとピンヒールのよう見える、遊び心あふれる一足です。昨シーズン驚いたカーボンファイバーを使ってブランドの頭文字のSを形作ったサンダルは、ウッド素材と組み合わせ、近未来的な造形に温もりを添えています。アッパーをロープで繋いだサンダルや、カーボンファイバーをメッシュ状に編み上げて樹脂を流し込んだソールがクールなモード感を高めるパンプスなど、どのモデルも実験的でありながら美しい。アンドリューは創業者が持っていたイノベーティブな精神に共鳴し、それを見事に進化させています。「靴でおしゃれがしたい」と思わせるコレクションでした。

英アーティストの色彩感覚で
“モザイコ“がロマンチックに息づく

木村:今シーズンは、アクセサリーブランドに勢いを感じます。みんな自分たちのDNAを新しい方法でどう表現するかに挑戦していて、面白いですね。「セラピアン(SERAPIAN)」は、イギリス人アーティストのベサン・ローラ・ウッド(Bethan Laura Wood)とコラボレーションし、アイデンティティーであるレザーの編み込み技法“モザイコ”で描くムードを拡張し続けます。ベサンはカラフルな色使いで知られるアーティストで、その唯一無二の色彩感覚を“モザイコ”で表現しています。着想源は日本の山岳風景だそう。寒色ベースの“モザイコ”は日の出の張り詰めた冷たい空気を思わせつつ、やがて色彩は太陽が昇って暖かくなるように暖色へとシフトします。日の入りをイメージしたピンクやオレンジ系の“モザイコ”は、夕方の少し切ない雰囲気。その情緒を表現できるのも、「セラピアン」の職人技があってこそですね。編み込むレザーの色を1本ずつ変えたり、さまざまな色を詰め込みつつ編み込むと塗り分けが見えないレザーを緻密に計算しながら用意したりと、さぞ職人泣かせだったのではと想像しますが、互いのクリエイティブが生きた素敵なコラボレーションでした。

村上:「セラピアン」は、アーティストの発想で定番のバリエーションを広げつつ、そのアイデアや形作るに際して生み出した新しいテクニックを定番商品にも活用するという意味において、アートとのコラボレーションが上手ですね。

「トッズ」は“ゴンミーニ”を生み出す
レザー職人の匠の技を洋服に活用

村上:「トッズ(TOD’S)」は引き続き、匠の技にオマージュを捧げます。今シーズンは、アイコニックなドライビングシューズ“ゴンミーニ”を生み出すに際して活用する技術を洋服にも応用してみようというコンセプト。“ゴンミーニ”言えば「ペブル」ですが、メタル仕様にしてローファーの踵に打ち付けたり、「パフォレーション」と呼ぶ穴を開ける技法で涼やかに仕上げたレザーでワンハンドルの“T タイムレス”バッグを作ったり。ウエアも先シーズンまでは男前スリムな正統派でしたが、今季は少しだけリラックスムードのレザーウエア1点勝負!なカンジ。職人へのリスペクトであり、クラフツマンシップへの自信の現れでしょうね。特に細く切り出したレザーを横に繋げてストライプを描いた大きな正方形のレザーは、上半身に巻きつけてトップスにしたり、アシンメトリーなヘムラインのスカートして、組み合わせることでオプティカルアートのようにユニークなスタイルに仕上げました。柔らかく舐めしたレザーは、上下の裾にリネンのようなファブリックを巻き付けてベアトップのドレスにしたり、ボンディングしたチェック柄のキャンバス地を貼り付けて存在感抜群のコートにしたり、細いレザーでシャツストライプを描いたりとさまざまな方法で大活躍。総レザーのアイテムは真夏には難しいけれど、今くらいの季節だったら袖を通してみたくなりますね。

「スンネイ」競売にかけられたデザイナーは本当に退任

木村:スンネイ(SUNNEI)」は、2015年にロリス・メッシーナ(Loris Messina)とシモーネ・リッツォ(Simone Rizzo)がミラノで設立したブランドです。最近、周りの友人たちの間でも知名度を増していることもあり、私もショーを楽しみにしていました。

会場に入ると、そこはまるでオークション会場。最初に出てきたのは、巨大な「スンネイ」のロゴパネル。観客も一緒になって“競り”に参加します。次に出てきたのは、なんとデザイナーの2人。肩車で登場です(笑)。架空の通貨“ファッション通貨”で9500万という金額で競り落とされ、そこでオークションは終了。同時にショーも幕を閉じました。キョトンとする観客は置き去りに(笑)。みんな、「今のはなんだったんだ」という表情で、会場を後にしました。最新コレクションは、おそらくサクラの観客役が着ていたのでしょう。

今回はブランド10周年を迎えた節目に、“ファッション=商品であり、金融である”という問いを、オークションという演出を通じて示したそうです。そしてその夜に飛び込んできたのは、デザイナー2人の退任ニュース。共同創業者として10年間築き上げてきたブランドを去るという発表でした。声明では「方向性を変えるのではなく、さらに自由で実験的な道を探したい」と語っており、今回の劇場的な演出も彼らからの“別れの演出”だったのかもしれません。ミラノの若手を象徴する存在だっただけに、この先ブランドがどう舵を切るのか気になります。

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