ファッション
連載 小島健輔リポート

銀座店も退店「ギャップ」凋落はなぜ?市場と調達、組織の3要因を分析【小島健輔リポート】

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ファッション業界のご意見板であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。カジュアルSPAの米「ギャップ(GAP)」が銀座の晴海通りにある旗艦店を7月31日で退店すると発表した。同ブランドは近年、原宿、渋谷など都心の大型店を閉めており、かつての勢いがない。「ギャップ」の苦戦には3つの要因があると小島氏は分析する。

1987年に自らを「SPA」と宣言した元祖として知られる米国ギャップ社が長い迷走の果てに戦線を縮小している。日本法人もこの7月31日で最後に残った旗艦店「ギャップ フラッグシップ銀座」を閉店する。同社は次々と海外事業を売却・撤退しており、日本撤退の日も遠くないとささやかれている。

日本撤退は時間の問題か

ギャップは95年に数寄屋橋阪急内に「ギャップ」1号店、99年には表参道に「ギャップ」旗艦店を開設。2011年には7月末に閉店する「ギャップ フラッグシップ銀座」を開設し、15年には「ギャップ」「バナナリパブリック(BANANA REPUBLIC)」「オールドネイビー(OLD NAVY)」合わせて推計1060億円を売り上げるまで拡大した。だが、12年に進出した「オールドネイビー」53店を17年1月末で撤退。「ギャップ」も17年に渋谷店、19年には原宿旗艦店を閉店し、今回の「ギャップ フラッグシップ銀座」閉店で日本に旗艦店はなくなってしまう。

では日本撤退は時間の問題なのか。残念ながら否定する材料より肯定する材料の方がはるかに多い。6月26日段階で「ギャップ」122店舗、「バナナリパブリック」47店舗を展開して500億円強を売り上げていると推計されるが、販売効率の低さから見て採算は苦しく、本社の事業再構築戦略の次第によっては、いつ撤退を決断しても不思議はない。

実際、不振が続く欧州事業は04年にドイツ事業をH&Mに売却して撤退し、21年9月末には英国とアイルランドの全81店を閉鎖してECに特化し、フランスやイタリアの店舗もFCに切り替えると公表している。昨年の11月には10年に進出して200店以上を展開している「ギャップ」中華圏事業を、18年末から中華圏のEC運営を委託している中国EC大手の宝尊電商に最大5000万ドルで売却すると発表している。宝尊電商とは20年間の独占ライセンス契約を交わし、中華圏で「ギャップ」製品を企画・生産・広告・販売する権利を譲渡するとしているから、日本におけるオーセンティック・ブランズ・グループと伊藤忠商事による「フォーエバー21」「エディーバウアー」「リーボック」のようなブランド再生事業めいた展開になる。

ならば、日本の「ギャップ」事業も伊藤忠商事をマスターライセンシーにアダストリアあたりが「フォーエバー21」のリベンジみたいに国内展開を引き受けるといったシナリオが現実的になる。伊藤忠商事に限らず、どこかの商社が直接にフランチャイズ契約するケースも考えられるし、大型区画が大量に空いてしまうイオンモールや三井不動産がその任を引き受けるかもしれない。

いつ誰がどんなスキームで引き受けるかはともかく、もはや日本事業の譲渡・撤退は時間の問題と見るべきだろう。なぜなら米ギャップ社本体の業績がかつてないほど落ち込み、ガバナンスも迷走しているからだ。

成長力も収益力も失ったギャップ社

ギャップ社の直近23年1月期の売上高は過去最高の売上高となった前期の166億7000万ドルから6.3%減の156億1600万ドルだった。コロナ前20年1月期の95.7%にとどまり、13年1月期からも99.8%と10年間全く成長していない。「過去最高の売上高」といっても19年1月期の165億8000万ドル、15年1月期の164億4000万ドル、さらにさかのぼれば05年1月期の162億7000万ドルと大差なく、浮き沈みするだけで20年近く成長が止まっている。米国のインフレ率を考慮すれば10年間(累積インフレ率27.5%)で売上高が8掛け弱、05年から(同55.4%)は64掛けになったも同然で、成長どころか衰退したというべきだろう。

営業利益もコロナ下21年1月期の8億6200万ドル(売上対比−6.3%)の大赤字から8億1000万ドル(同4.9%)の黒字に浮上した前期から一転、23年1月期は6900万ドル(同−0.4%)の赤字に転落している。近年の営業利益率は7〜9%台を上下し、コロナ前20年1月期は3.5%と既に低水準だった。最盛期の99年1月期には18.1%に達し、16年1月期までは10%前後から13%強を維持していたことを思えば、収益力は見る影もなく落ち込んでいる。

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