ファッション
連載 小島健輔リポート

三陽商会、オンワード、ワールド 大手アパレルは百貨店に戻ってくるか【小島健輔リポート】

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ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。アパレルの百貨店販路が衰退して久しい。時代の変化にあわせて百貨店アパレルと呼ばれた企業の販路構成もパンデミックを経て様変わりしている。改めて詳細に分析してみよう。

円安を背景にインバウンドの本格復活や株価の高騰で百貨店が高額消費に沸いているが、衣料品の回復は鈍いのが実情だ。EC(ネット通販)やSC(ショッピングセンター)に販路をシフトした大手アパレルが百貨店に戻る日は来るのだろうか。戻るべきか決別すべきか、「ものづくり」を背景とした販路戦略を検証してみた。

高額消費の陰で回復が鈍い百貨店衣料品

日銀が8年続いたマイナス金利を解除しても日米金利差は縮まらず円安が続き、株価は34年ぶりにバブル期の高値を抜いて高騰し、外国人観光客に株高で潤った富裕層も加わって百貨店の高額消費は沸きに沸いているが、恩恵を受けているのは欧米ラグジュアリーブランドばかりで衣料品の回復は鈍い。都心の百貨店は軒並みコロナ前の売り上げを超え、三越伊勢丹や阪急阪神百貨店は23年10月以降、19年比2ケタ超えが定着した感があるが、インバウンドの恩恵が薄い地方百貨店はまだコロナ前は遠いし、東京地区百貨店とて一部の好調店を除いて衣料品はコロナ前に届いていない。

23年計で東京地区百貨店総額は100.6と19年を超えたが、衣料品は91.8と9掛けにとどまり、全国百貨店総額は同94.2、衣料品は86.6と9掛けに届かなかった。消費税増税前の18年と比較すれば、23年の全国百貨店売上高総額は92.1、衣料品は82.3、化粧品も78.8にとどまる一方、ラグジュアリーブランド雑貨を含む身の回り品は113.1、美術・宝飾・貴金属は137.8と突出しているが、デパ地下人気が衰えない食料品とて91.4と来店客数の減少が響いている。衣料品の中身も婦人服・洋品の87.7はまだマシだが、紳士服・洋品は76.8、子供服・洋品は65.8と回復は遠く、この水準が定着しかねない。22年来の単価上昇を考慮すれば、百貨店衣料品の国内客数は18年の7掛けを割り込んだのではないか。

90年代は売上総額の40%を超えていた衣料品シェアも年々低下してコロナ前19年には29.3%と30%を割り込み、コロナに直撃された20年は27.0%、21年は25.3%に落ち込み、23年も26.9%とほとんど回復していない。

衣料品の回復が鈍いのは百貨店だけではない。商業動態統計の23年計は、小売業全体は19年を12.4%上回ったが、衣服・身の回り品は79.7と8掛けに届かず、1月も小売業全体は19年を11.1%上回っても衣服・身の回り品は75.1にとどまった。名目は1.1%増でもインフレで実質は2.6%減少した23年の家計消費支出(2人以上世帯)も19年比は100.9とわずかに超えたが被服及び履物は85.3にとどまり、24年の1月も84.7と停滞したままだ。

24年に入って1月は足踏んだが、2月はインバウンド(過去2番目の売り上げで10.9%を占めた)にうるう年効果(休日1日増)も加わって全国百貨店総額は19年比106.3(国内客売上は102.8)、同衣料品は96.5と回復が進み、東京地区百貨店総額は19年比113.1、同衣料品は109.1とコロナ前を大きく超えたが、閏年効果(5〜6%)やインバウンドを差し引けば、全国百貨店衣料品は9掛けに届かず、東京地区百貨店衣料品とて93%程度にとどまる。東京地区百貨店の3月18日までのペースは19年比117.3と加速しているが、この勢いは続くのだろうか。

春闘は33年ぶりの5%超えと賃上げに勢いがついているが、インフレに収入が追い付かず1月で22カ月連続して実質賃金が減少するわが国では、食料品の値上げもあってエンゲル係数の上昇が顕著で(20年の25.7が23年は29.4)衣料消費が抑制され、値上げを上回る客数減で既存店売上を落とすアパレルチェーンも少なくない。人気のスーパーブランドを除いてはラグジュアリーの勢いも陰り始めており(コロナ明けインフレも収束も先行した米国では失速が著しい)、ベター〜ミドルゾーン(百貨店価格)からボリュームゾーン(SC価格)、ボリュームゾーンからポピュラーゾーン(量販価格)へのダウンサイジングも加速している。

明暗が交錯する中で百貨店衣料品、とりわけ大手アパレルが担うベターゾーン〜ミドルゾーンの回復は鈍いが、かといって駅ビルやSC、ECへのシフトを加速すればボリュームゾーンに偏り、アパレルチェーンとの価格競争に巻き込まれて収益力を損なってしまう。ボリュームゾーンに偏れば平均単価も低下して販管費率が上昇し、開発体制を維持できなくなってアパレルチェーンと同質化してしまい、さらに追い込まれることになりかねない。ECやSCをさらに拡大するか衣料品の回復が鈍くても百貨店に回帰するか、大手アパレルは販路戦略を問われている。

大手アパレル3社の販路構成

大手アパレル(メーカー)と言うとオンワードホールディングスとワールドが挙げられるが、両社とも今日では百貨店主力ではなくなっており、「大手百貨店アパレル」と言えるのは三陽商会ぐらいなものだ。百貨店が繁栄していた前世紀にはオンワード、レナウン、三陽商会、東京スタイル(継承した今日のTSIは百貨店アパレルとは言えない)、ルック、専門店や直営店と百貨店にまたがるワールドやイトキンなど、多彩なプレイヤーがひしめいていたことを思えば隔世の感がある。

フロアが減少してすっかりコンパクトになり、服飾雑貨やビューティ関連、ライフスタイル商品やカフェとのスクランブル構成も珍しくなくなった百貨店の衣料品フロアには、D2CブランドやSPAブランドも加わって昔ながらの百貨店ブランドの影は薄くなったが、大手アパレルはどうするつもりなのだろうか。オンワード樫山(国内百貨店展開は単体が大半を占める)、三陽商会、ワールド(ブランド事業)の販路構成を検証してみた。

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