ファッション
連載 小島健輔リポート

「ユニクロ」が抜けた“空白マーケット”を手にするのは誰か【小島健輔リポート】

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ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回は消費者に近い生活圏の衣料品マーケットについて考察する。低価格の普段着はマスボリューム層に確実に存在するカテゴリーであるが、気がつけば案外手薄になっている。ポテンシャルは大きいと小島氏は指摘する。

かつては価格破壊者で生活圏カジュアルのエッセンシャルストアであった「ユニクロ」が立地を上ってグローバルブランドに化け、その役割を受け継いだかに見えた「ジーユー」も同様に立地を上っていき、「ワークマン」も「ワークマンプラス」や「#ワークマン女子」にシフトして上ってしまい、生活圏で日常衣料を供給するエッセンシャルストアは「ファッションセンターしまむら(以下、しまむら)」や「パシオス」などのコンサバな衣料スーパーに限られた感がある。皆が上って空いたカジュアルの「空白マーケット」は一体誰が埋めてくれるのだろうか。

皆が上って空白化する生活圏マーケット

衣料品に限らず店舗販売には「購買立地局面」※1.があって、近隣圏、生活圏、地域圏、広域圏、超広域圏と立地を上るほど客数は幾何級数的に増えていくが、不動産費(賃料と減価償却費)や人件費も相応にかさんでいく。人件費はともかく不動産費は売り上げより立地の格差が大きく、日本ショッピングセンター協会の統計を見ても大商圏立地ほど売上対比の賃料負担率は高くなり、グローバル商圏(超々広域圏)の銀座や表参道では高額な賃料に見合う売り上げは望めず広告塔と割り切るメディアストアになりがちだ。

衣料品の場合、小商圏で採算をとるには顧客を選ばない間口の広い品ぞろえによる「横売り」※2.と低コスト運営が必須だが、ファッション性や差別化(ブランド化)を志向すると「縦売り」※2.が成り立つ(顧客を選べる)大商圏立地へ上ることになって運営コストが上昇し、付加価値(値入れ)も売値も上昇していく。

「しまむら」は品ぞろえも仕入れサプライも大きくは変えず「生活圏のエッセンシャルストア」を堅持してきたが、「ユニクロ」は「ライフウエアSPA」を追求して「縦売り」を極めつつ立地を上り、ナショナルブランド、グローバルブランドへと変貌していった。ローカルの生活圏ロードサイドに発して地域圏へと歩を進め、1998年12月の原宿進出とフリースのブレークを契機に大型モールやターミナルへと出店立地を上っていった。

大型化・効率化を志向して店舗網を再編していった「ユニクロ」は郊外やローカルでも地域圏立地(パワーセンターなど)や広域圏立地(大型モール)にしか見られなくなり、ひと回り手頃で若向きな「ジーユー」も似たような立地に出店している。ジーンズカジュアルチェーンもリーマンショック以降、減少の一途で生活圏はもちろん地域圏でも滅多に見られなくなったから、生活圏はメジャーなカジュアルチェーンが存在しない空白域と化している。

「しまむら」(2024年2月末で国内1415店)や「パシオス」(田原屋、24年2月末で181店舗)、「パレット」(4℃ホールディングス傘下のアージュ、24年5月末で93店舗)はコンサバなミッシー〜ミセス感覚を出ず、メンズは代理購買にとどまり、子育て世代向けの今時のカジュアルは極めて手薄だ。しまむらの「アベイル」(同312店)はネットバブル感覚のマイナートレンドを追ってメジャーな日常カジュアルから大きく外れ、「ハニーズ」(24年4月末で876店舗)もコンサバなフェミニンモード通勤服主体でカジュアルもナチュラルフェミニンに偏り、そもそもメンズやキッズの扱いがない。「ユニクロ」が上って抜けた後を担うと期待された「ワークマン」も「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」で大型モールやターミナル施設へと立地を上り、アウトドアのファッション化に流れてアスレジャー※3.感覚の「メトロライフウエア」から大きく外れてしまった。

つまり「ユニクロ」が抜け、ジーンズカジュアル店が消えて空白となった生活圏のカジュアル、とりわけ子育て世代やZ世代の「メトロライフウエア」を担うカジュアルチェーンは皆無と言って良いのではないか。たとえ「ユニクロ」があったとしても、コンサバNBカジュアル※4.の伝統的品質感に立脚する「ユニクロ」の硬めのスペック(生産仕様)は旧世代感覚を否めず、抜けた軽快な着こなしが身についたミレニアム世代やZ世代には好まれないだろう。
 
※1.店舗小売業の購買立地…最寄り性の強い「近隣商圏」(コンビニなどが立地する人口5000人前後の商圏)、「生活商圏」(「しまむら」などが立地する人口2万5000人前後の商圏)から、最寄り性と買い回り性が交錯する「地域商圏」(CSCやパワーセンターが立地する人口10万人前後の商圏)、多数の店舗が集積する買い回り性の「広域商圏」(RSCやターミナル商業施設が立地する人口40万人以上の商圏)に大別される

※2.縦売りと横売り…同一品を補給して大量継続販売するのが「縦売り」、バラエティーがある商品をそろえて少量を売り切っていくのが「横売り」

※3.アスレジャー(Athleisure)…アスレチック(運動競技)とレジャー(余暇)を組み合わせた米国の造語で、スポーツウエアの機能性とレジャーウエアの開放感を日常のカジュアルに取り込んだライフスタイルやウエアリングを言う。スポーツウエアから派生した合繊の機能性やイージーケア、軽さや開放感を生かした軽快なウエアリングが特徴で、ジーニングなどワーク系のカジュアルを駆逐し、アクティブセットアップはビジネスシーンも一変させた

※4.コンサバNBカジュアル…「ユニクロ」の価値観の背景となった「ポロ」や「ラコステ」「マクレガー」などトラッドベースのグローバルNB

首都圏の近隣空白マーケットを席巻する「まいばすけっと」

「ワークマンプラス」で機能性アウトドアウエアの低価格市場という空白マーケットを開拓して、18年3月期の797億円(チェーン全店売上高)から24年3月期の1753億円(同)へと6期で956億円も伸ばしたワークマンに匹敵する急成長を続けるチェーンがある。アパレルとは離れるが、コンビニキラーのミニスーパー「まいばすけっと」(イオンリテール)に注目してほしい。

05年12月に1号店を開設して10年には100店舗、14年には500店舗、22年には1000店舗を超え、直近24年2月期末で首都圏アーバン※5.に1119店(約7割が東京23区内)を布陣している。売上高も13年2月期の550億円から16年2月期は1122億円と3期で倍増して大台に乗せ、18年2月期の1403億円から24年2月期は2578億円と6期で1175億円も伸ばしている。収益化には時間を要したものの16年2月期に黒字転換して20年2月期には累損を解消し、直近24年2月期は74億8600万円(売上対比2.9%)の営業利益を計上してイオンSM事業(売上高2兆7821億円、営業利益419億円)の売上高の9.3%、営業利益の17.9%を占めるに至っている。

アパレル業界の人には売上対比2.9%の営業利益率は低いと思えるかもしれないが、スーパーマーケット協会の23年の統計では業界平均が0.99%、売上高1000億円以上の大手でも2.48%だから平均以上で、最も高収益のベルク(本社:埼玉県鶴ヶ島市、売上高3461億円、関東1都6県に138店)でも4.2%だから、店舗布陣途上にしては高収益と評価すべきだろう。

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