ファッション業界のご意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。あらゆる産業が空前の人手不足に直面している。アパレルチェーンは給料水準が低く、他の産業との人材獲得競争に遅れをとっているのが現状だ。人材獲得競争に勝つには給料水準を上げるしかない。そのためには生産性を根本的に高めないといけない。具体的にはどんな策があるのか。
ファーストリテイリングは2026年のグローバルリーダー(世界に転勤可能な総合職)新卒初任給を現行の33万円から37万円に引き上げる。19年の21万円から4度目の引き上げで計16万円、76.2%も積み上げ、アパレル業界の賃上げ競争にガソリンを注いでいる。
円安がぶり返しインフレが収まらぬ中、若者と女性の賃金上昇が加速しているが、アパレルチェーンの賃金や労働時間は産業界の水準とは依然、格差があり(国税庁によれば2024年の卸売業・小売業の平均給与は409.6万円と全業種平均477.5万円の85.8%にとどまる)、人手不足が深刻化している。にもかかわらず、店舗運営の効率化はファーストリテイリングなど一部の大手を除いて進んでおらず、人手不足で店舗が回せなくなる事態が危ぶまれる。26年はインフレと賃上げを吸収する運営の効率化が最大の経営課題とならざるを得ない。
インフレに追いつかぬ賃上げ
厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、24年の平均賃金は男性で3.5%、女性で4.8%増加し、女性の20〜40代では大半の年齢区分で5.0〜5.8%も増加したが、通年のインフレ率は4.83%にも達したから、実質賃金が増加した労働者はごく一部にとどまった。毎月勤労統計によれば、25年に入ってもインフレは収まらず実質賃金は10月まで連続してマイナスを続けており、若者や女性は5%を超える賃上げが必定の情勢だ。
従業員世代構成の老化を防いで組織活力を高めるためにも若年層の拡充は不可欠で、少子化が進む中、優秀な若手人材を獲得すべく初任給の引き上げが競われている。ファーストリテイリングは25年に33万円に引き上げた新卒初任給を26年は37万円とさらに積み上げ、年収ベースで約10%増の590万円まで引き上げる(地域限定社員は初任給25.5万円・年収407万円から28.0万円・447万円へ9.8%引き上げ)。それを可能にしたのが25年8月期の一人当たり売上高4260.6万円、一人当たり粗利益2160.1万円という突出した人時効率であり、22年8月期からの3期間でそれぞれ43.9%、48.8%も伸ばしているが、店舗の大型化とセルフレジの拡大など店舗DXの貢献が大きい。
ファーストリテイリングの新卒年収は金融や商社の水準に近いが、ITやコンサルファームはさらに高い。初任給の水準が高まれば既存若手従業員の給与水準も応分にかさ上げる必要があり、賃上げ競争についていけないアパレルチェーンは若手人材の維持・確保が困難になる。
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