PROFILE: ノルベール・ルレ/LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン社長

特別企画として、CEOをインスパイアするマネジメント理論、発想法を持った4人のキーパーソンにインタビュー。企業のトップのほか、映像プロデューサーや文芸評論家など異業種も含め、その考え方や最新の取り組みを聞いた。26年のファッション&ビューティ業界を前向きに走り抜けるための“ヒント”を探る。(この記事は「WWDJAPAN」2026年1月26日号からの抜粋です)
LOUIS VUITTON JAPAN
日本の魅力と26年のマーケットの見通し
2025年は「ラグジュアリー不況」とも称されたが、そんなブランドを数多く束ねるノルベール・ルレ(Norbert Leuret)LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン・ジャパン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON JAPAN)社長の今後の見通しは、驚くほどポジティブだ。初来日以降の感動を原体験に、さまざまな角度から日本の高度なシステムとホスピタリティーが生み出すポテンシャルを雄弁に語る。今、ファッション&ビューティ業界の経営層が参考にすべきマインドセットではないだろうか?そう考え、変革を恐れないLVMHの姿勢、何より日本市場の可能性について話を聞いた。
コロナ禍以降のビジネスは2割強も伸長
日本は決して「死んだマーケット」ではない
WWD:2025年は、「ラグジュアリー不況」とも称された一年だった。
ノルベール・ルレ社長(以下、ルレ):25年に至るまでのLVMHジャパンの3年間は、常に2ケタ増収。コロナ禍以降、日本での売り上げは120%以上に成長している。確かに25年は落ち着いたかもしれないが、成熟市場にもかかわらずさらに20%増の成長を見せた国は、決して「死んだマーケット」ではない。私に言わせれば、25年は「スタグネーション(低迷)」の1年ではなく、「スタビリゼーション(安定化)」の1年だった。
関東と関西、中部圏だけにフォーカスすれば、もっとポジティブになれるだろう。例えば関東圏は、人口もGDPも成長傾向にある。関西圏や中部圏も、欧州の1つの国に相当するほどの規模だ。いずれの百貨店も賑わっており、凪なマーケットという印象は皆無。楽観的ではダメだが、ネガティブ思考はもっとダメだ。ネガティブ思考の経営者は、一線を退くべきだと思う。
WWD:今年の売り上げの見通しは?
ルレ:26年は1ケタ増収を見込んでいる。その中でのインバウンド比率は25%程度が理想だ。第2四半期(の春闘)で給与が上がる見通しが色濃くなれば、共働き世代を中心に第3・第4四半期は所得増を実感できるだろう。円安は深刻で海外に行く人は少ないかもしれないが、日本のタンスには今なお莫大な現金が眠っているし、世界を見ても日本ほど雰囲気の良い国はない。シニアは元気で消費を楽しんでいるし、彼らが通う病院の医療水準やホスピタリティーは総じて高い。日本ほどエクセレントなシステムを持った国は、他にない。加えて25年はLVMHのワイン&スピリッツ部門を担うMHD モエ ヘネシー ディアジオ(MHD MOET HENNESSY DIAGEO)にとってはベストイヤーで、シャンパンが驚くように売れた。日本には、まだまだ“お祝い”したい人がたくさんいる証拠だ。
WWD:今年は、すでに関西圏での出店攻勢を強める姿勢を発表している。
ルレ:心斎橋の角地の大規模複合ビルの商業フロアに「ブルガリ(BVLGARI)」と「フェンディ(FENDI)」「ショーメ(CHAUMET)」が出店予定。さらに大阪には、もう1ブランドが大規模店舗を構える予定だ。ローカルにも勢いがあり、京都や神戸、梅田も元気だ。
WWD:取り扱うブランドでは25年、デザイナー交代が相次ぎ、新しいコレクションが続々発売されている。
ルレ:ラグジュアリー業界は今、とても刺激的でエキサイティングな時代を迎えている。私たちは、レストランのような存在。定番も必要だが、メニューは時代に応じて定期的にアップデートしなければ、お客さまに飽きられてしまうだろう。消費者はきっと来店などのアクションを起こしてくれるだろう。実際、トラフィックは増加し始めている。今年の大きな望みは、買い上げ率もまた増加に転じることだ。
WWD:ラグジュアリービジネスの局面が変わった段階で、各ブランドが早々にデザイナー交代に代表される変革に挑んだのは驚きだった。
ルレ:LVMHは、変革を恐れず、一番大変な時こそ挑戦する会社だ。(ベルナール・)アルノー(Bernard Arnault)LMVH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン会長兼最高経営責任者(CEO)は、「クライシス(危機)は、オポチュニティー(機会)。LVMHは、クライシスがある時こそ、チェンジしなければならない」と説いている。実際、クライシスでの変革により、リーマン・ショックの後もアフターコロナも成長を遂げてきた。
WWD:引き続き日本市場に対して非常にポジティブだ。
ルレ:私が日本市場に対してポジティブであり続けられるのは、3つの理由によるもの。まず最初は、①素晴らしい国の、素晴らしい会社で働いているから。フランスの片田舎から19歳のとき、人口約1200万人の東京に来たときの気持ちは、忘れがたい。アルノーCEOという稀代のアントレプレナーと働けることも喜びの1つだ。そして②LVMHは、ファッションからコスメ、時計・宝飾、そしてお酒に至るまで、素晴らしいものばかりを販売しており、退屈するはずがない。最後に③どれだけ時代が変わっても決して価値を失わない人間を大事にする会社・業界だから。トップデザイナーが人のことを思って生み出したコレクションを、人に感動してもらうために作った店舗で、スタッフがそれぞれお客さまを考えながら接客・販売している。日本では昨年も、今年も、さまざまな施策で皆さんに夢を与えている。我ながら「日本って、すごくないですか?」と思う。