アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。多くのブランドが若者のトレンドを追い続ける中、本明さんがニューヨークで目にしたのは、中高年層がけん引する一種のスニーカーブームだった。物価高騰と少子化が進む今、若者のパイを奪い合う戦略は本当に正しいのか。履き心地や機能性を重視する消費行動の変化を手がかりに、“夢を売る”か“合理性を売る”か。そのはざまで揺れる巨大市場の可能性に、“スニーカーラブおじさん”の本明さんが切り込む。(この記事は「WWDJAPAN」2026年3月2日号からの抜粋です)
本明秀文(以下、本明):今、ニューヨークに来ている。特に用事があるわけじゃないんだけど、グリーンカードを持っているから、定期的にアメリカに滞在する必要がある。前回来たのは昨年11月。仕事でなかなか来られないからレポートを出さなきゃだったりで大変なんだけど、それよりも大変なのが、物価がさらに上がっていること。たった3〜4カ月で「こんなに?」と思うくらい上がった。コーヒーは1杯6ドル近いし、スニーカーも日本の1.5倍くらいする。でも結局、ニューヨークでも「オン(ON)」や「ホカ(HOKA)」は、本当によく売れている。しかも目立つのは、おじさん・おばさんの購入が多いこと。店内がおじさんとおばさんのお客さんで溢れていて、体感では5分に1足くらいのペースで動いている感じ。「オン」も「ホカ」も、おじさん・おばさんのファッションのスイッチに火をつけたんじゃないかな。履きやすい機能性に加えて、「オン」のチューブ状のミッドソールや「ホカ」の厚いソールの存在感が、おじさんとおばさんのおしゃれの感覚にハマった。それを見ていると、成功の秘訣はもう、“ターゲットを変える”ことなのかもしれないね。
──なるほど。多くのブランドが「若者」をターゲットにしますが、少ない若者のパイを奪い合うより、人口も多く可処分所得も高いおじさん・おばさんを狙ったほうがいい、と。
本明:そう。物価が上がり過ぎているから、若い子はそもそも“普通の靴”を気軽に買いにくく、リセールすることが前提になりがち。でも「オン」や「ホカ」を買う人は、リセールの対象に見ていない。それに、これまでおじさんは革靴、おばさんはパンプスが中心だったわけでしょ。その人たちがスニーカーに履き替えるとなったら、新しいマーケットができる。昔は若者に「ヴィトン欲しい」って言わせる見せ方だったけど、今は“おばあちゃんがヴィトン持っているとかわいい”みたいな見せ方がいい。買い手の年齢を下げるより、上げる方が現実的な時代になっている。
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