アトモスの創業者・本明秀文さんの独自の目線と経験から、商売のヒントを探る連載。商売は短距離走ではなく、長い距離を走り続けるマラソンに例えられてきた。ランニングブームが世界的に広がる今、その熱気は単なるスポーツトレンドにとどまらず、商売のあり方そのものを映し出している。履かれることで初めて価値が生まれるランニングシューズは、近年、投機的価値に左右されてきたスニーカー界にとってもカギになるだろう。今回は商売に置ける“続ける力”の重要性について。(この記事は「WWDJAPAN」2026年2月2日号からの抜粋です)
本明秀文(以下、本明):先日、パリのランニングショップ「ディスタンス(DISTANCE)」が主催するランイベントで、僕のやっているおにぎり屋の「まんま」がケータリングを担当させてもらった。春頃には「まんま」もパリに出店する予定。それにしてもランイベントはすごく盛り上がっていた。その日は2人1組で400mずつ走る50組のトーナメント方式。沿道いっぱいにギャラリーが詰めかけて、おにぎり300個もあっという間になくなった。スポーツメーカーにとっても、ランニングシューズは最新テクノロジーのお披露目の場としてだけじゃなく、大きな売り上げを占める重要な商材になっている。ナイキも売上高の10分の1くらいはランニングカテゴリーだと思う。そもそも、これまでのスニーカーバブルは靴を“傷つけたくない”から大事に履いて、飾ったり、“寝かせ”たりする人までいた。でも履いてもらわないとスポーツメーカーは儲からない。結局、走ってもらうのが一番シューズを消耗する。
──今はランニングクラブがたくさんありますけど、一人でもできるランニングでわざわざ集まる理由ってなんでしょう?
本明:朝晩に一人で走っている人も多いし、人によって理由はさまざまだと思うけど、ブームだよね。コミュニティーを作って、ランニングした後に一緒にカフェに行ってコーヒー飲んで。「ディスタンス」では走った後にみんなでパスタを食べるみたい。仕事はノマドワーカーが増えて、自宅とかで1人でするのに、走るときはわざわざ誰かと走るんだから、そのギャップが面白い。僕的には、昔のスニーカーの並びに似ていると思う。わざわざ早起きして誰かと並びに行ったり、そこで知り合った人と仲良くなったり、当たっても外れても、終わったら一緒にメシ食って帰るみたいな。そういうコミュニケーションからカルチャーが生まれるんだよね。
──最近はスポーツメーカーやスニーカーショップも、ランニングクラブやグループランを主宰していますね。
本明:そうだね。でもランニングだけで押しすぎるのも違うとは思う。結局、“健康とカジュアル”のミックスが今っぽい。走る人だけの市場じゃないから。
──“ナイキ マインド(NIKE MIND)”は、片足ごとに配置された22個の突起で足裏感覚に働きかける設計が特徴ですが、まさにそこに着目したシューズですよね。
本明:今の世の中は、とにかく集中できない。スマホにいつでも通知が来て、SNSが気になって。今の人たちって、本当に空を見上げることがないというよね。それで、誰でもできるランニングをして、心をリセットするのがブームの背景。マインドを整えるとかアフタースポーツとかは、今多くのスポーツメーカーの目指すところでもある。“ナイキ マインド”は面白いコンセプトだよね。
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