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小島健輔リポート 在庫問題を解決する決定打 DBからデジタルVMIへ

 ファッションビジネスのコンサルタントとして業界をリードする小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はアパレル業界を悩ます在庫問題について。デジタル化の進展は、この永遠の課題に光明を与えるのだろうか。

 企画から投入までのリードタイムも販売消化に要する期間も長いアパレルビジネスでは在庫のコントロールが難しく、在庫が不足すれば機会ロスが生じる一方、過剰になれば値引き処分のロスと資金負担が経営を圧迫する。究極の解決策は受注先行のC2M※1無在庫販売だが、それには受注から生産まで一貫したデジタル化が必要で、生産ラインを直接管理する工賃払いのアパレルメーカーはともかく、製品仕入れのSPA事業者やアパレル小売業者にとってはハードルが高い。多くのSPA(製造小売り)事業者やアパレル小売業者にとって現実的な解決策を考えてみたい。

※1.C2M(Customer to Manufactory)…ネットやショールームで受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産して“個客”に届けるパーソナル対応の無在庫販売手法

在庫は全ての源泉であり
元凶でもある

 在庫がないと売り上げが取れないから、ECではいまだ在庫を取り合っているし、ECに在庫が偏ると店舗在庫が薄くなって、てきめんに売り上げが落ちる。その相克を解決するのが、店舗在庫をEC受注に引き当て店舗で渡したり、店舗から出荷するC&C(クリック&コレクト)であることは言うまでもない。もとより販売と物流を分離するのがメリットのECが在庫を抱えたがるのも矛盾しており、店舗在庫も含めて最適(最速かつ最低コスト)な配分と引き当てが求められる。

 在庫は売り上げの源泉だが、需給のバランスが崩れると機会ロスや過剰在庫を招く。需要予測の精度とQR調達(追加とSKU※2バランス補正)の機動性が問われるが、生産地が遠隔化しロットが大きくなりリードタイムが長くなるほど難しい。需給ギャップはリードタイムに比例して大きくなるから、生産地を近づけロットを分割してリードタイムを短くするのが先決で、調達コストの上昇よりロスの圧縮効果が勝る場合が多い。

 適時適量か否かを問わず、在庫は全てのコストの元凶でもある。店舗や倉庫の賃料は在庫量に比例するし、店舗や倉庫の人件費も棚入れやピッキングなどマテハン作業量(在庫量に相関する)が左右する。倉庫や店舗間のB2B物流費やECのB2C物流費も販売量(在庫量にほぼ等しい)に比例する。ゆえにショールーミングストアやネット販売特化のD2C、受注先行のC2Mなど、最小在庫で最大売り上げを稼ぐ方法、販売と在庫を分離して費用発生を最小化する方法が模索されてきた。

 在庫はロスやコストの元凶である一方で売り上げの源泉でもあるから過度な圧縮もできず、需要予測・調達・DB※3・物流・販売を連係させコントロール精度を上げていくしかないから、ステップを追って解説したい。

※2.SKU(Stock Keeping Unit)…バーコード単品管理の最小単位だが、ICタグでは個品管理まで可能になる
※3.DB(Distribution)…配分・補給の在庫運用業務で、それを担う職種をDB(Distributor)という

適時適量のDBコントロール

 在庫コントロールが問われるとき、まず追求されるのがDB精度だ。調達の総量は同じでも各店舗への配分・補給を最適化し、在庫の偏在による需給ギャップの最小化を図る。AI(人工知能)によるDB精度向上も模索されているが、その前提となるアルゴリズムは直近の販売消化で変動するし、店舗布陣と配分・補給方式のロジックが確立されていないと実用化は難しい。まずは自社のMD展開と店舗布陣に見合ったロジックを確立するのが先決ではないか。

 DBは初期配分と補給配分、店間移動からなり、配分手法には「カセット方式」と「傾斜配分方式」がある。初期配分では陳列フェイスの統一を図る必要があるから「カセット方式」が基本で、補給配分では販売消化ペースに対応すべく「傾斜配分方式」が採られる。

 「カセット方式」は棚割りを組んで見えがかりを統一しながら、店舗規模によって標準型/ダブル型/ハーフ型などを設定し、販売効率によってフェイシング量を変える。それだけでは販売消化の格差を埋められないから、高効率店には補給頻度で対応し、DC※4在庫が枯渇すれば低効率店の未消化在庫を高効率店に移動する。

 「傾斜配分方式」は直近の販売消化速度にスライドして配分するものだが、店舗間の販売消化速度の差は10倍では収まらないから、計算通りに傾斜配分すると高効率店では陳列フェイスに入りきらず、低効率店ではスカスカになってしまい、販売消化の格差を一段と広げてしまう。ゆえに初期配分では配分量に上限と下限を設け、高効率店には補給頻度で、低効率店には店間移動で対応する。補給配分は販売消化による欠品を防止するのが第一義だから、計算通りの数量をストレートに傾斜配分すればよい。

 補給配分の精度を上げるには補給頻度を上げて物流時差を圧縮するのも有効で、高効率店に対しては消費地デポや近隣店舗からのルート便による短サイクル補給(テザリング※5)も活用される。

※4.DC(Distribution Center)…棚入れ保管してピッキング出荷する物流倉庫で、仕分けてスルー出荷するTC(Transfer Center)とは区別して使う
※5.テザリング…ITではデバイス間のネット接続をいうが、流通の世界で店舗間の商品供給をいう

値引きロスを
最小化する店間移動体制

 販売消化の店舗間格差を解消するには配分精度だけでなく、売価変更や店間移動も必要だ。店間移動は期末に限って同一店内の売価変更(キックオフや値下げ)で消化を図る方法と、投入後一定期間が過ぎたらエリア内で店間移動して消化を図る方法に分かれる。

 前者の場合、ピッキングの手間や店間移動の物流費は抑制できるが、売り場の鮮度を維持できず値引きロスが嵩んでしまう。後者の場合、移動してから売価変更するのが定石で(全店不振商品はこの限りでない)、SKU別値引きと連係すれば(売れ残りそうなSKUの売れ残りそうな数量だけ店間移動する)値引きロスを半減できるし、売り場の鮮度を保つ効果も大きい。

 店間移動には期中のエリア内移動と期末のエリア間移動がある。エリア間移動はDCに集めて仕分けてから移動先店舗に出荷するという二重の手間を要するから、期中のエリア内店間移動(店舗間直行)で消化を進めておくべきだ。エリア内店間移動もテザリングも、ルート便を使ってルーチン化すれば低コストで機動的に運用できる。

 エリア内店間移動やテザリングを効果的に運用するには店舗布陣が問われる。販売力ある旗艦店(高家賃大型店)、衛星店舗、期末消化力のある量販店、テザリングの基点となる母店(低家賃大型店)を計画的に配置し、効率的な補給と移動消化を図る。C&Cを軸としたOMO※6戦略をこの店舗布陣と連携すれば、EC注文品の店渡しや店出荷による速くて低コストなローカル宅配はもちろん、衛星店舗のショールーミングストア化も可能になる。

 売価変更に頼っていては値引きロスがかさんで利益が残らないばかりか、顧客が値下げを待つようになって「ギャップ(GAP)」みたいに正価販売が成り立たなくなってしまう。正価でもう一押しする再編集運用に加え、エリア内店間移動とテザリングのルート便体制を確立すれば、消化回転も歩留まり率も格段に高まるはずだ。

※6.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた融合を意味し、モバイルフォンをキーツールとしてウェブルーミングとショールーミングを駆使するニューリテール戦略

ダム型サプライから
脱却しないと解決しない

 店舗へのDB精度をいくら高めても根本的な解決には遠い。短サイクルにトレンド商品を回すファストなアパレルチェーンはともかく、大ロットで調達して売り減らすアパレルチェーンは自社の帳簿に計上しているか商社や物流業者に抱えさせているかは別として、国内の倉庫や生産地の倉庫に店舗を上回る在庫を積み上げているからだ。

 店舗在庫と倉庫在庫の割合は、スルー物流で100%前進配備(EC向けを除けば全て店舗在庫)という「ザラ(ZARA)」のようなケースは極めてまれだ。かつては店舗在庫と倉庫在庫の比率はトレンドを追うタイプで75対25、定番比率の高いタイプでも60対40ほどだったが、近年は調達ロットの拡大にECの拡大が加わって倉庫在庫比率が高まっている。

 EC比率が高まった分、倉庫在庫比率が高まるわけで、EC比率が5%から15%になれば、倉庫在庫が10積み上がって店舗在庫は10減る。もとより倉庫備蓄比率が高かったユニクロなどは、EC比率が10%に迫った直近では倉庫在庫が60まで肥大している。それを放置しては店舗在庫が薄くなって機会ロスで店舗売り上げが減少するから、「ザラ」が店舗在庫を引き当てるC&Cに踏み切る引き金になった。

 店舗在庫と倉庫在庫の比率を公表している「無印良品」の良品計画(国内直営事業)でも、店舗在庫比率は15年2月期の49.4%から年々落ちて直近の19年2月期では37.0%まで減少しているが、国内直営事業におけるEC比率は9.05%から9.39%とほとんど変わっておらず、坪当たり店舗在庫も増えていないから、在庫の店舗分散を避ける後退配備政策、あるいは滞貨在庫の積み上がりと推察される。

 その良品計画の連結決算では単体決算に比べて在庫が2.18倍に増えるが、これはソーシング子会社が抱える在庫(多くは生産地在庫と思われる)で、海外向けを差し引いても良品計画の店舗在庫率は25%ほどになる。ユニクロとて商社が抱える生産地在庫を同率とみれば、国内ユニクロの店舗在庫率は27%ほどと推計される。

 製品仕入れでオリジナル調達するアパレルチェーンは「直貿」をうたっても生産地在庫の管理と国内倉庫までの物流は大なり小なり商社に依存しており、定番型の継続補給商品が多いと似たような在庫率になる。短サイクル生産トレンド商品中心のアパレルチェーンだと生産地在庫はほとんどないから、EC比率が15%になっても店舗在庫率は60%近くを占め、発注数量と店舗向けDBの精度を高めれば在庫の圧迫は避けられるが、大ロットで調達して売り減らすアパレルチェーンは商社依存のブラックボックスをこじ開けてダム型サプライを脱却しない限り、在庫問題は解決しない。

デジタル生産と
VMIコントラクター

 ブラックボックスを開けてサプライチェーンを自分でコントロールするには、品質管理のみならず商社に任せていた素材・付属の調達や生産プロセス管理を自ら行う必要があるが、リードタイムを短縮してオンデマンドに短サイクル分割生産するには一貫したデジタル化が不可欠だ。それにはデジタル企画と3Dモデリングに始まってパターンメイキング、グレーディング、マーキング、裁断、縫製、仕上げを一貫するCAD/CAM投資が前提になるが、やり遂げれば初期生産のリードタイムは半分以下になり、追加生産は週サイクルも可能になる。

 アパレルのアナログなモノ作り感覚は一気にデジタル化され、スピード感覚は倍速どころか4倍速になるから、生産地の仕上がり在庫も消費地倉庫の補給在庫も半分以下に圧縮できる。ダム型サプライの売り減らし型SPAもトータル在庫が半分になって店舗在庫率は50%前後に跳ね上がり、2〜3回転にとどまっていた在庫回転も倍に加速するはずだ。

 アイテム特化のデジタル化という突破口もあるが、そこまで踏み込めないアパレルチェーンにはVMI※7という選択もある。デジタル化して短サイクル分割生産でオンデマンド供給できるベンダーとリアルオンライン連係し、サプライを委任するというものだ。ストッキングや肌着などパッケージ・ガーメントでは珍しくない取り組みだが、アパレルでもデジタル化によって一般化すると期待される。おそらくは数年のうちに下請け分断のアナログな商社流通に代わり、オンデマンド・サプライを受託するデジタルVMIコントラクターがアパレル流通の寵児に躍り出るのではないか。

※7.VMI(Vendor Managed Inventory)…あらかじめ定めた棚割に基づいてベンダーに補給と在庫管理を委任する取引形態

小島健輔(こじま・けんすけ):慶應義塾大学卒。大手婦人服専門店チェーンに勤務した後、小島ファッションマーケティングを設立。マーケティング&マーチャンダイジングからサプライチェーン&ロジスティクスまで店舗とネットを一体にC&Cやウェブルーミングストアを提唱。近著は店舗販売とECの明日を検証した「店は生き残れるか」(商業界)