ビジネス

近代日本を動かした「綿花」の系譜 「東洋棉花」の130年続く世界最前線

「東洋棉花」。日本の産業史を学んだことがあれば、必ず目にしたことがあるはずだ。明治以降に日本が近代化する過程で、シルクに次いで外貨獲得の重要な産業の一つだったのが綿糸の紡績産業だ。綿紡績の発展のために、良質な綿花の調達は、まさに国家的な課題であり、同時にそれは当時世界の覇権を握っていた英国との競争に勝ち抜く必要もあった。その重要な役割を担った企業の一つが、東洋棉花だ。明治および大正時代には、良質な綿花を求めて文字通り世界を駆け回り、英国の支配下にあったインドを筆頭に当時からアフリカにまで足を伸ばし、日本への綿花輸入を担った。

時代は変わり、日本の綿紡績産業は基幹産業の座を降りた。しかし東洋棉花は今なお、巨大な穀物メジャーと肩を並べ、世界中の衣料品の源流に立ち続けている。いまの「綿花ビジネス」とはどのような仕事なのか。現場の声を聞いた。

三井物産「棉花部」に始まる130年の系譜

東洋棉花の源流は1894年に設置された三井物産の「棉花部」にさかのぼる。その業務を継承する形で1920年に東洋棉花(後のトーメン)が設立され、米国、ブラジル、中国、インドなどに拠点を展開。同年には米テキサス州ダラスにも店舗を設立し、綿花の一大集積地「コットンベルト」に足場を築いた。

1970年代にトーメンへ社名変更し総合商社として発展、1990年にトーメンより綿花事業を引き継ぎ、再度東洋棉花として分社・独立。 2006年に豊田通商傘下に入り、2020年には設立100周年を迎えた。日本の近代化とともに歩み、形を変えながらも“綿花のプロフェッショナル集団”として生き残ってきた。綿花トレーディングの仕事について、 間瀬営業本部長は、「私たちのミッションは“安定供給”。品質の変動が激しく天候や政治リスクにも左右される綿花を、いかに確実に産地から消費地へ届けるか。そのために重要なのが『現地現物』。世界中の綿花畑を自分の目で確かめている」という。

綿花トレーディングの業務は大きく分けて、1)産地での買い付け、2)品質管理・値付け、3)出荷・納期管理、4)紡績・テキスタイルメーカーへの販売に分けられる。中でも綿花トレーディングに重要な役割を果たしているのが、「先物取引」だ。「先物取引」というとリスクの高い金融取引と思われがちだが、綿花の先物取引は農家と仕入れる紡績・テキスタイルメーカー側、双方にとってリスクを抑え、安定的に調達するための優れた仕組みの一つだ。

将来の受け渡しを前提に、あらかじめ価格を決めて売買することで、天候や政治、為替などの影響を受けやすく価格変動の大きい綿花において、先物は価格リスクを抑える重要な役割を果たしている。農家は収穫前に販売価格を確定でき、収入の見通しを立てやすくなる。一方、紡績やテキスタイルメーカーは原料コストを固定することで、安定した生産計画を組むことが可能になる。東洋棉花のようなトレーダーは、現物取引と先物を組み合わせ、価格変動による損失を相殺しながら世界中で綿花を流通させている。

その一方で、綿花は流通量が大きいため、動く金額も大きい。この先物取引を効果的に活用するのが、綿花トレーダーの役割だ。「先物取引では一回の取引が数億を超えることもザラで、動かす金額を考えると当然企業の規模が必要となる。もちろんトレーダーとしても現物の需給バランスやオプションなど駆使しながら、リスクをコントロールする必要がある。そのため1人前のトレーダーになるためには、10年以上かかる」(同本部長)という。いわば、文字通りの「専門家集団」なのだ。

買い付けは、机上では完結しない。生産者のもとへ直接足を運び、畑やジン(綿花加工施設)を確認する。主要産地は、米国、ブラジル、オーストラリア、インド、中国に加え、ギリシャ、トルコ、中央アジア、アフリカ諸国まで多岐にわたる。アフリカではタンザニア、ザンビア、コートジボワール、ベナン、ブルキナファソ、カメルーンなどが含まれる。

年間に1回、あるいは1〜2年に1回は必ず現地を訪問する。年間の取引規模はかなりのボリュームであるようだが、 同社の営業パーソンは全体で10人ほど(うち米ダラスに3人が常駐)。全世界に散らばる綿花畑をカバーするため、営業担当は常に世界中を駆け回っている。

かつてはテレックスやFAXが主流だったが、1990年代後半からコミュニケーションデバイスはEメールに移行。共通言語は英語だ。情報のスピードと精度が、勝敗を分ける。仕入先は大規模農場から中小生産者まで幅広い。売り先も固定ではなく、年ごとに変化する。現在の主な販売先は、ベトナム、トルコ、中国、インドネシア、タイ、韓国、パキスタン、インド、台湾、メキシコなど。かつて多かった中南米向けは減少傾向にある。またかつては主要販売国であった日本向け輸入は同社で取り扱う中でも現在は全体の7〜8%程度で、三国間取引が中心。 取扱高は、綿花相場にも左右されるが、数百億円規模に達する。

27年秋冬向けは「買いやすい環境」

綿花相場は直近1年で63〜70セント/ポンドと過去5年間のうちでは低水準で推移。同平均(約90セント)を大きく下回っている。2〜3月デリバリー分は、26年秋冬向け原料に相当する。

生産量の拡大と、世界的なドル高とブラジル・レアル安を背景に、ブラジルは輸出競争力を高め、2024年度に史上初めて綿花輸出量世界一となった。相場安の状況下、需要側は在庫を極力絞る動きが強く、結果として「買いやすいが量は慎重」という局面だ。原料の買付量が絞られる分、衣料品価格への影響は限定的と見られる。

米中貿易摩擦や新疆綿問題は、綿花貿易の構造を大きく変えた。主要原綿消費国である中国は報復関税が発動されると、米国産からブラジルやオーストラリア産へ需要がシフトした。この結果、ベトナム、トルコ、パキスタン、バングラデシュが米綿の主要需要国になっている。調達先の多様化は不可逆的だ。

遺伝子組み換え種子やスマート農業の導入も、国ごとの嗜好やその需要差を広げている。米国、オーストラリア、ブラジルは大規模投資が進む一方、アフリカでは公的支援の有無が生産量や価格競争力の成否を分ける。

なぜ東洋棉花は生き残ったのか

日本の綿花輸入量は1989年の約350万ベールをピークに減少し、産業の空洞化と円高が進んだ。それでも東洋棉花は国際綿花トレーダーとしての地位を維持している。理由は明確だ。現地現物主義、徹底した品質検品、そして長年積み重ねた信頼関係にある。

日系顧客比率は20〜25%にとどまるが、香港、韓国、台湾、中国、ベトナムなどアジアの主要プレイヤーと深くつながっている。近年はテキスタイル・アパレル顧客が希求するトレーサビリティやサステナビリティ原料供給にも対応している。

タンザニアではオーガニックコットン、コットン・メイド・イン・アフリカ認証とともに各国で広がりつつあるリジェネラティブ農業認証綿花にも積極的に取り組み、これまで直接会話することのなかったビジネスパートナーにまで様々な付加価値綿花を紹介し取引を広げていく活動をすすめている。「私たち東洋棉花の根底にあるのは“Be the original”。歴史に甘えるのではなく、常に現場に出て、オリジナルであり続けること。綿花は受け渡しから仕事が始まる。今後の100年も専門家集団として世界のアパレル産業を支えたい」。

関連タグの最新記事

最新号紹介

WWDJAPAN Weekly

売り上げでも知名度でもない、熱狂を生むブランドの条件とは 世界のデザイナーズブランド最前線

「WWDJAPAN」1月19日発売号では、「熱狂を生む世界のデザイナーズブランド」を特集します。世界各国のファッション・ウイークを取材する記者たちが、「いま、面白い」と感じるブランドを掘り下げました。キーワードは、「エモーショナル・コネクション」。売り上げ規模や知名度では測れない、感情的で本質的なファンコミュニティーを築き上げているブランドたちに光を当てました。

詳細/購入はこちら

CONNECT WITH US モーニングダイジェスト
最新の業界ニュースを毎朝解説

前日のダイジェスト、読むべき業界ニュースを記者が選定し、解説を添えて毎朝お届けします(月曜〜金曜の平日配信、祝日・年末年始を除く)。 記事のアクセスランキングや週刊誌「WWDJAPAN Weekly」最新号も確認できます。

ご登録いただくと弊社のプライバシーポリシーに同意したことになります。 This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.

メルマガ会員の登録が完了しました。