中国市場の縮小を背景に、アジア各国で新たな成長機会を求める日本の化粧品企業が増加している。中でも東南アジア市場に進出する企業が拡大戦略を展開し、それぞれの市場特性に応じた製品開発や販売チャネルの構築が進んでいる。(この記事は「WWDJAPAN」2025年10月27日号付録「WWDBEAUTY」からの抜粋です)
THAILAND
タイ
日本と同様に超高齢化と人口減少が進む中、購買力の高い中間層が拡大すると予測し、最重要市場の一つに掲げられている。タイの人々は美容感度も高いことから、百貨店ではプレステージ、ドラッグストアはプレミアムマスの価格帯に期待が寄せられている。
2024年化粧品・パーソナル市場規模:
約1兆2855億円(前年比19%増)
グローバルデータ調べ
人口:
7166万8011人
(2024年)

Background of entry:
ASEAN拡大の起点としてのタイに注力
花王は、「中間層の拡大・美容意識の高まり・流通の整備の三位一体がそろっている状況にある」(山口聡一・花王 執行理事 化粧品事業部門 副事業部門長)として、成長が期待できるエリアにタイを中心としたASEANを掲げる。1962年に参入したタイは「進出から60年を超える販売の歴史があり、現地のニーズや生活習慣を敏感に捉えマーケティングできる組織・機能も整っていることから、中期拡大エリアの“雛型国”として選定している」。現在、「カネボウ(KANEBO)」「キュレル(CUREL)」「ケイト(KATE)」を中心に展開し、百貨店やモール、EC、タイの若年層が集まる化粧品専門店イブアンドボーイ(EVEANDBOY)、ドラッグストアなど幅広い販売網を持つ。
こうした花王の長期的な市場構築に続き、84年に進出したコーセーもタイを東南アジア戦略の中核に位置づけている。人口増加や規制の緩やかさ、中間層の購買力上昇といった点から、タイを「第3の柱として位置づけ、東南アジアのハブ拠点としても重要視する」(松本秀樹コーセータイランド マネージング ディレクター)。40年近く展開する中で中心顧客層が40代になったこともあり、2024年にはターゲット層を20〜30代の若年層にシフトした。主力ブランドはこれまで「雪肌精」「インフィニティ(INFINITY)」で店舗起点のマーケティングだったが、タイ発ECプラットフォームのラザダ(Lazada)やティックトック(TikTok)などに出稿し、「雪肌精」と「コスメデコルテ(DECORTE)」で若年層へのリーチを強めている。
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一方、13年に参入したACROは、現地の大手代理店セントラルグループからのオファーをきっかけに進出した。「スリー(THREE)」は、「精油の香りが特徴的なクレンジングを中心に人気を集め、セントラルグループが得意とする百貨店販路で初年度に3店舗、5年で31店舗へと拡大した」(山根香葉ピーオーグローバル 育成ブランドチーム スリー&ディセンシア担当)。現在は37店舗で展開し、ECプラットフォームのラザダやショッピー(SHOPEE)、セントラルグループが運営するECサイトでも販売。主力顧客層である20〜40代の支持を得ている。スキンケアが売り上げの7割を占め、メイクアップが3割とバランスの取れた構成だ。さらにマンダムも海外事業のけん引役としてタイ市場を重視する。1990年に合弁会社を設立し、「ギャツビー(GATSBY)」を中心にドラッグストアで販売網を拡大。「現地生活者の需要に適したウオータークレンジングをいち早く販売し、現地でカスタマイズしたマーケティング活動を継続して行うなど、スキンケアが好評だ」(高田真一マンダム NSI事業部 部長)。このように各社はいずれも早期からタイ市場の可能性に着目し、現地の生活者理解を軸にブランド価値を築いている。
Local ambassador:
現地タレント起用で売り上げ・認知拡大
タイ市場におけるローカルアンバサダーの起用は、現地での認知拡大と売り上げ向上に大きく貢献している。花王の「カネボウ」は今年初めてタイのローカルアンバサダーを採用。若年層に人気の俳優・アーティスト、ターウー・ピタヤ(Daou Pittaya)とオフロード・ガンタポン(Offroad Kantapon)をブランドの思想や世界観を伝えるプレゼンターとして起用し、キービジュアルやプロモーション動画を制作。9月10〜15日には、主力クリームの体験イベントを開催した。約9000人にサンプリングを行い、SNS上ではトレンド1位を獲得するなど大きな話題となった。期間中、タイ国内約60店舗の売り上げは前年同期比で2倍以上、特にサイアム・パラゴンの店舗では前年の9.5倍以上と大きく伸長した。
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