デザイン、品質、サービスなどあらゆる面で、従来のスポーツブランドにはない付加価値を提供する“プレミアムスポーツ/アウトドア”ブランドというあり方に、世界のスポーツメーカー各社が可能性を見出している。市場として本丸と目されているのは、政府がスポーツ・アウトドア産業振興を進める中国だ。ラグジュアリーブランドの売り上げが急減速する中国市場にあっても、スポーツメーカー各社は好調を続けている。北京在住約30年で、変化著しい中国市場に精通したライターの斎藤淳子氏に、以下寄稿してもらった。(この記事は「WWDJAPAN」2025年8月11&18日号からの抜粋です)
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「アークテリクス」に絶大な支持

斎藤淳子/北京在住ライター
近年、中国では“プレミアムアウトドア”市場が急成長を遂げている。なかでも、中国のアンタスポーツ(ANTA SPORTS)が主要株主であるアメアスポーツ(AMER SPORTS)の「アークテリクス(ARC'TERYX)」は、プロ仕様×ハイエンドの価値をSNSで巧みに訴求し、20代後半から中高年層の絶大な支持を獲得した。また、2024年の巨大ECセール“ダブル11”では「ナイキ(NIKE)」「アディダス(ADIDAS)」を含む12ブランドが瞬時に1億元(約20億円)を達成。新規参入ブランドの勢いも顕著で、中国発の「ペリオ(PELLIOT)」は前年比で記録を大幅に更新、「サロモン(SALOMON)」「ウイルソン(WILSON)」(共にアメアスポーツ)や「オン(ON)」も前年比40〜60%増以上の成長を示した。
この急成長の背景には、いくつかの社会・文化的変化がある。第一に、世界と並行した自然回帰傾向がある。中国でもパンデミック以降、「精緻露営」(グランピング)や、「山系」「戸外風」(アウトドア風コーデ)などのキーワードが浮上し、中でも、「アークテリクス」のシェルジャケットはステータスシンボルとなってブームをけん引している。二つ目は中国独特の動きだ。この国ではスポーツやアウトドアアクティビティーが普及して日が浅い分、発展プロセスも圧縮型で、日本では時期を分散して起きたブームが一気に押し寄せている。日本に約30年遅れて11年にGDP5000ドルを突破すると、まずランニング領域が急成長。20年代にはマイカーレジャーが大衆化し、22年にはアウトドア人口が1億3000万人を突破。この間、日本の1980年前後のマイカー+家族キャンプブームや、バブル崩壊後の低コストの自然レジャーブーム、コロナ前後の登山やグランピングブームなどに相当する多様なブームが起きている。
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