ビューティ・インサイトは、「WWDJAPAN.com」のニュースを起点に識者が業界の展望を語る。今週は、アパレルブランドが手掛けるビューティラインの話。
【賢者が選んだ注目ニュース】
「ザラ」からコスメラインが誕生130色以上、価格は1190〜3590円
アダストリア「レプシィム」初のコスメライン“センアム”登場
「シャネル(CHANEL)」「ディオール(DIOR)」「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」を例に挙げるまでもなく、国内外のファッションブランドがビューティの分野に進出するケースは珍しくないが、近年では「エルメス(HERMES)」「スナイデル(SNIDEL)」「ジーユー(GU)」など、ハイブランドからカジュアルブランドまでビューティラインを立ち上げるブランドの裾野がずいぶん広がってきた。
5月に誕生した「ザラ(ZARA)」のコスメライン「ザラ ビューティ(ZARA BEAUTY)」は、「ヴォーグ(VOGUE)」など多くのファッション誌やランウエイのバックステージでキャリアを築いているダイアン・ケンダル(Diane Kendal)をクリエイターに起用し、16品目・130色以上のカラーバリエーションをもつ。ファッションブランドが作るメイクアップとしてはかなりボリュームのある品ぞろえだ。カラーバリエーションはスキントーンの延長にある“間違いない”色と、ポップでビビッドな色の両極端。旬のデザインを早いペースで提案する「ザラ」のスタンスとマッチしている。
「ザラ ビューティ」は現在、公式ECサイトと新宿店のみで展開されている。新宿店は2階の奥にコーナーを配置し、タッチアップやテスターの使用を制限していることもあり、試したい色があったらスタッフに声をかける形。店内は入店客がそこそこの入りようだったにもかかわらず、ビューティのコーナーに立ち寄る人はいなかった。現状では「ザラのコスメを見る」という明確な目的を持っていないと、なかなかコーナーに足が向かないようだ。テスターを手に取ることができないため、どうしてもスタッフとのコミュニケーションが必要になる。本来の「ザラ」が接客をほとんど伴わない販売スタイルであるため、ビューティとシームレスな展開を行うのは現状では難しいかもしれない。しかし、ファッションのポップな色展開が得意な「ザラ」だけに、服とコーディネートできるカラーメイクのアイテムを併せて陳列したり、マスクを着用しているスタッフにもネイルやアイメイク製品を積極的に使ってもらうようにしたり、ファッションを見ている来店客にもアピールできる余地があると感じられた。
今後「ザラ」がどこまでビューティカテゴリーを充実させるつもりなのか未知数ではあるが、一般的なコスメブランドにはあまり見られないカラーがそろう点で、肌トーンや印象など“顔”の部分に限られてきた既存のメイクにとどまらない提案が行える可能性は十分にある。
ファッションの世界観を生かしたアダストリアのコスメブランド
一方国内のアパレル企業で、ビューティカテゴリーを積極的に強化しているのがアダストリアだ。2018年秋にナチュラル志向のスキンケアやメイクアップ、フレグランスをそろえる「カレイドエビーチェ(CALEIDO ET BICE)」でビューティカテゴリーに参入したのち、20年末には「ニコアンド(NIKO AND…)」のメイクアップライン「ティニーティニー(TINY TINY)」を展開。さらにこの5月には40代以降向けの女性をターゲットにしたブランド「レプシィム(LEPSIM)」から、天然繊維に着目したコスメライン「センアム(SEN AMU)」を立ち上げた。「ティニーティニー」「センアム」はいずれもファッションとビューティを同じショップ内で販売しており、「レプシィム」のECサイトではショップスタッフが「センアム」の製品を紹介しているほか、メイクとファッションをリンクさせてコーディネートを紹介しており、ブランドの世界観に沿ったシームレスな提案を行っている。
「化粧品フロア」ではできない、服とメイクのコーディネート提案
ビューティ、特にメイクカテゴリーは、百貨店の化粧品売り場のようにコスメだけを扱う場に収まりきらなくなってきている。パッケージやカラーバリエーションにはそろそろ限界があり、正直なところ既視感を感じるブランド・アイテムもたくさんある。そもそも、服を買うのが好きなファッションコンシャス層であっても、化粧品を選ぶ行為はまた別の面倒さを感じるものではないか。わざわざ化粧品を買うためだけに出掛け、ビューティ特化型のECサイトをじっくり買いまわる“美容高感度層”は、実はなかなかにニッチな存在になりつつある。
ファッションブランド発のコスメは、好きなブランドやショップで服を買うついでに、いまの気分に合ったメイクをもっと気軽に選びたいというニーズに沿うものだ。化粧品ブランドが作るメイクアップは、どうしても「首から上」の発想になってしまう。肌トーンやブルベ・イエベというこれまでのルールにとらわれず、ファッションとトータルでその人のスタイルを作る提案ができれば、ファッションとビューティの境界線はもっとシームレスになっていくはずだ。