ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回の大手ECモール「ショップリスト」について考察する。今年2月から韓国メディコトス社の傘下に入る新体制となり、7月にはサイトをリニューアルしたばかり。その経緯はファッションEC専業企業の置かれた状況の一面を映し出している。
クルーズは今年2月、ファッション通販サイトを運営する連結子会社「ショップリスト」の全株式を韓国メディコトス社に譲渡したが、OMO※1.が広がる中でのファッションEC専業者の苦境を推察させる出来事だった。8月26日には経済産業省が2024年の「電子商取引に関する市場調査」結果を公表したが、ECの転機を窺わせる指標も随所に見られる。
※1.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略
「ショップリスト」売却の事情
「ショップリスト」はクルーズが2012年7月からサービスを開始したファッション通販サイトで、売上高(流通総額)のピークは2021年3月期の271.9億円だったが、以降はアパレル購入の店舗回帰とOMOの拡大、安価な中国系越境ECにも押されて2023年3月期は209.4億円(営業損失3000万円)、2024年3月期は175.1億円(営業利益2億900万円)、2025年3月期は157.5億円(営業利益4400万円)と売上高が減少し、損益も苦しい状況が続いていた。クルーズはそんな状況を鑑み、急成長する「ITアウトソーシング」事業を基幹事業に定め、「ショップリスト」事業を非継続事業として譲渡することにした。
振り返ってみれば、クルーズは2016年10月、大半のゲームタイトルをマイネットグループに譲渡し、ファッションEC事業に経営資源を集中すると発表。キュレーションメディア「マーブル」を運営するキャンドルを子会社化し、「ショップリスト」をファストファッションECを代表するブランドへ成長させると宣言した。
2017年3月期のクルーズ連結売上高285億円中、「ショップリスト」事業の売上高は190億5800万円と66.8%を占めていたが、営業利益は5億4200万円と連結営業利益21億500万円の31.3%に過ぎず、コンテンツ事業(ゲーム関連)の営業利益は16億500万円と76.2%(売り上げシェアは32.0%)を占めていたから、この決断は早計に過ぎたかもしれない。
当時はファッションECサイトの全盛期で、「ショップリスト」は16年3月期の売上高が49.8%も伸びて146.7億円、17年3月期も30.8%伸びて190.6億円に達していたし、靴中心のロコンドもそれに次ぐ勢いがあった。24年2月にジェイドグループ(ロコンド)がNTTドコモから買収したマガシークも2015年当時は売上高が21%も伸びて136億円に達していたし、ワールドのファッション・コラボも16%伸びて112億に達していた。そんな過熱した状況がファッションEC事業への経営資源集中を決断させたのだろう。
それから8年強が過ぎた25年1月、クルーズはシステムエンジニアを供給する「ITアウトソーシング」事業を基幹事業と定めて「ショップリスト」事業を非継続事業に位置付け、ファッションEC「nugu」を運営する韓国メディコトス社に譲渡することを決定した。ただし、成長著しいファッションセレクトEC「Ada.(エイダ)」事業はグループで継続する。
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