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ヨーカ堂「ファウンドグッド」終了で問われるアダストリアの正念場【小島健輔リポート】

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アダストリアがイトーヨーカ堂に供給する「ファウンドグッド(FOUND GOOD)」を2026年2月で終了することになった。自社運営の衣料品売り場から撤退したイトーヨーカ堂が、新機軸として打ち出したアダストリアとの取り組みだったがわずか2年で幕引きとなった。直接的な理由としてはイトーヨーカ堂が9月に米投資ファンドの傘下に入り、食品スーパーに経営資源を集中する体制になったためであるが、小島氏はどう見るのか。

イトーヨーカ堂はアダストリアが商品供給する「ファウンドグッド(FOUND GOOD)」を2025-26年秋冬商品を最後に26年2月で契約終了する。意外な組み合わせは業界の注目を集めたものの、当初から課題が山積して期待通りには売れず、24年2月の立ち上げから2年で幕を下ろすことになった。アダストリア自体の業績も勢いが衰えて手を広げ過ぎた弊害も指摘される中、真の実力が問われる正念場を迎えている。

子育て世代を取り込もうとしたが…

2024年2月のイトーヨーカ堂木場店などからスタートした「ファウンドグッド」は、直営衣料品からの撤退を発表したイトーヨーカ堂が子育て世代(30〜40代)を取り込むべく、商品企画・調達から売場構築・販促までアダストリアに委託した注目のプロジェクトだった。イトーヨーカ堂の総合量販店(食品スーパーだけでなく衣料品などライフスタイル部門も展開する大型店)に100坪から300坪まで64店に広がったが、シニア層に偏って久しいイトーヨーカ堂に子育て世代を取り込むのは「ファウンドグッド」だけでは限界があり、集客と売り上げが期待に届かず、食品スーパーへの特化を進めるイトーヨーカ堂が見切りを付けた。

「ファウンドグッド」は仕事と育児に追われる子育て世代の多忙なライフスタイルに焦点を当てて、「抜けて着回せる軽快で機能的なナチュラルモードカジュアル」を追求したから、イトーヨーカ堂の主力顧客であるコンサバなシニア層とはウエアリングも品質感もかみ合わず、マッチするはずの子育て世代もイトーヨーカ堂という「館」がイオン系などのライバル施設に競り負けて期待ほど増えず、継続を断念する結果となった。イオンの「キッズリパブリック(KIDS REPUBLIC)」みたいなキッズ狙いのカテゴリーキラーを併設したり、インテリア部門やドラッグ部門も連携して子育て世代対応を徹底すれば結果は違ったかもしれないが、現実には「ファウンドグッド」単体での挑戦だったから結果は見えていた。

露呈した商品開発力の限界

「ファウンドグッド」が子育て世代を捉えきれなかった要因は「館」の競り負けばかりではなかったと思われる。私はスタート当日の木場店以来、季節毎にいくつかの店舗を見てきたが、「子育て世代の軽快で機能的なナチュラルモードカジュアル」という立ち位置はともかく、個々の商品の完成度とお値打ちには疑問を拭えなかった。

各アイテムの価格は概ね「ユニクロ(UNIQLO)」のボリュームラインと大差なかったが(「しまむら」よりはワンライン高い)、コンサバなデザインや質感と確立されたスペック(パターンと縫製仕様)でミセス層を捉えていたイトーヨーカ堂のPB「ギャローリア(GALLORIA)」(クロスプラスが供給)に比べれば薄っぺらで安っぽい印象があった。子育て世代向けの今風に機能的な素材(大半が合繊系)とスペックの「ファウンドグッド」を、確立された素材とスペックで安心感があった「ギャローリア」と比較するのは酷かもしれないが、素材もスペックも完成度は疑わしかった(「ファウンドグッド」は終了しても「ギャローリア」は継続される)。「個人的な印象」と断りを入れるなら、ワンライン下の「しまむら」の商品と比較しても首を傾げたくなる商品もあった。

そんな品質やスペックに対する「お値打ち感」の弱さは量販店衣料部門の調達構造にも起因していたのではないか。小売価格の61%前後の掛け率で調達している「しまむら」のアパレル商品のサプライヤー生産原価は小売価格の48〜49%と推察されるのに対し、量販店衣料部門がロット調達するアパレル商品の納入掛け率は小売価格の48%前後だからサプライヤーの生産原価は小売価格の38〜39%と推察される。ゆえに小売価格は「しまむら」の方がワンライン下でも、両者の生産原価は大差ない。価格はワンライン安くても品質は同クラスというのが現実なのだ。

「ファウンドグッド」のイトーヨーカ堂への納入掛け率が如何ほどだったのかは知る由もないが、量販店衣料部門の水準にやや上乗せした程度でないとイトーヨーカ堂としては採算が合わないはずだから、小売価格はワンライン高くても生産原価は「しまむら」商品と大差なかったと思われる。量販店衣料のお値打ちを高めるサプライ革新を欠いたことも敗因の一つだったのではないか。

そんな背景もあって「お値打ち感」は今ひとつだったが、今風の軽快で機能的な素材とスペックは子育て世代に刺さると期待された。来店客が子育て世代ばかりだったら相応の成果が得られたかもしれないが、イトーヨーカ堂の主力顧客であるコンサバな価値観のシニア層に評価してもらうのは難しかったのではないか。

では子育て世代をカバーする低価格ブランドと比較して競争力があったかというと、それも大いに疑問だった。キャリア女性には素材の物性を効かせたデザインが魅力の「コカ(COCA)」の方が刺さるだろうし、メジャーなトレンドアイテムでは「ジーユー(GU)」に敵わない。結局のところ、素材の物性や機能性とデザインやスペックをマッチさせた商品の「完成度」という点では小売りチェーンのマーチャンダイザー開発の域を出ていなかったのではないか。デザイナーとパタンナー、生産管理の開発チームが工場ダイレクトに商品開発するメーカー型の開発体制とは距離があったと思われる。「コカ」や「ジーユー」と競うと期待された「グローバルワーク・スマイルシードストア(GLOBAL WORK SMILE SEE STORE)」も、23年3月の立ち上げ時に「5年で150店舗を目指す」と打ち上げながら、この8月で「グローバルワーク」に吸収されている。

「垂直統合型SPAへの転換」は実現したのか

アダストリアは25年2月期決算と同時に発表された「中期経営計画2030」で、10年の「垂直統合型SPAへの転換」に続く5番目の変貌たる「プラットフォーマーへの転換」をうたっているが、15年も前に決行したはずの「垂直統合型SPAへの転換」は実現したのだろうか。

アダストリアは素材開発部門やデザインチームも抱えているが、各業態のMDを店頭で見る限り、素材からの開発で完成度の高い「ユニクロ」のような「縦売り」商品を確立しているのは「グローバルワーク」など一部の大型業態に限られ(それもMDの一部にとどまるが)、大半の業態は売れ筋要件をリレーして追加企画する「横売り」MDを大きくは出ていない。

09年までの「バイイングSPA」(ODM企画仕入れ中心)とは一線を画した自社企画・開発体制に転じてはいるが、多くのブランドはマーチャンダイザー軸の商品開発を素材開発や仕様開発、生産管理のスタッフがサポートしているのが実態で、商社機能の取り込みを出ていないように見える。そんな体制で、テイストもMDも異なる多数の業態に開発スタッフのサポートが分散しては開発力が希薄化するのは必定で、「ファウンドグッド」や「シュカ(SHUCA)」など、他社の商品開発・調達まで手を広げる余裕はなかったのではないか。

実際、アダストリアは25年2月期末で物販68業態を国内に1302店(他に海外111店)展開しており、他に飲食47業態を76店展開している。物販業態の平均国内売上高は38億1000万円、平均店舗数は19.1店と限られ、最大の「グローバルワーク」でも526億6000万円、216店舗に過ぎないから、中小チェーンの集合体というのが実態で、商品開発機能のみならず非効率な分散とリソースの希薄化が指摘される。

それは外部ウェブストア(国内合計売上高325億円)とて同様で、国内だけで113ストア(海外28ストア)に分散し、ウェブストア平均の国内売上高は2億8760万円に過ぎないから、在庫の分散や物流の非効率は想像に難くない。

こんな分散と希薄化を放置したまま属人的な営業努力で業績を拡張しているのだから販管費がかさんで利益が圧迫されるのは当然で、25年2月期は前期比6.4%増の2931億円を売り上げても、粗利益率は54.7%と0.6ポイント低下、販管費率は49.4%と0.7ポイントかさみ、営業利益は13.9%減の155億円、営業利益率は5.3%と1.2ポイントも低下した。26年2月期の第1四半期(3〜5月)も既存店が伸び悩んで(売上高1.1%増、客数1.1%減)、全店売上高は4.7%増にとどまり、粗利益率こそ56.6%と前年同期から0.4ポイント上昇しても販管費率が49.3%と1.3ポイントもかさんで営業利益率は7.2%と0.9ポイント低下し、営業利益は同6.8%、経常利益は同13.8%減少している。第2四半期は6月も7月も既存店売上高、客数ともに前年を割っており、属人的な営業努力は限界に近づいている。

15年間で売上高は6倍弱、営業利益は1.55倍になったが、「バイイングSPA」最盛期の営業利益率20.3%(06年2月期)に対して25年2月期は5.3%、在庫回転は13.11回(07年2月期)に対して4.75回、交叉比率は790.5(07年2月期)に対して259.7、ROEも37.8%(07年2月期)に対して13.1%と、ルビコンを渡ったはずの「垂直統合型SPAへの転換」は15年を費やしても期待された成果を得ていない。

多業態・多事業へのリソース分散が壁に当たった

では「垂直統合型SPAへの転換」が誤っていたのかというと、私はそうは思わない。逆に徹底できなかったことが飛躍を妨げたのではないか。

「バイイングSPA」の最盛期をもたらした国内産地活用のファストODM/OEM調達は国内産地の空洞化で成り立たなくなって、同様な調達手法で成長したカジュアルチェーンの多くが行き詰まり、自らデザインと仕様を開発してオフショア調達する「開発型SPA」がグローバルに覇権を争う時代となったことは言うまでもない。もちろんオフショア調達だけが回答ではなく、90年代に似たような国内産地の空洞化に直面したスペインでは、「ザラ(ZARA)」のインディテックス社が生産の前工程(素材の染色・後加工とマーキング・裁断)と後工程(プレス仕上げと物流加工)をカバーする域内生産のハブ・コンビナートを築いて覇権を確立した。

アダストリアは事業規模は大きくなったが、業態が分散するばかりで商品開発を担う人材も分散して「垂直統合型SPA」への深耕が中途半端になり、成長をけん引するメジャーな(千億円単位の)大型業態が育たなかった。業態の分散で様々なリソースが希薄化・非効率化する中、アパレルのブランド・業態のみならず雑貨や飲食、海外にも事業を広げていったのは果たして正解だったのだろうか。前述した経営効率の劣化を見る限り、リソースを分散しての成長戦略は壁に当たったと見るべきだろう。

集中か分散かの見極めが問われる

「分散」が非効率だからと言っても、すべてを「集中」するのが正解とは限らない。さまざまな顧客をカバーする多様な業態が全国各地域のみならずアジア諸国にも広がるアダストリアにとって地域(リージョナル)対応は不可欠で、業態やリソースを集約しながら顧客対応と店舗運営・在庫運用は地域密着を徹底するのが正解と思われる。地域の各商業施設に多数の業態を展開し、自社サイトのみならず多数の外部サイトでECを展開するアダストリアにとって、地域毎に店舗やECの顧客を統合管理して店舗とECを適正に配置し、人員や在庫などのリソースを的確に運用するリージョナルOMO※1.経営が必定で、地域の店舗を販売のみならず「物流」と「交流」の拠点と位置付けるべきだ。

リージョナルOMO経営においては地域顧客を店舗・EC一体に捉えて店舗と在庫を適正に配置し(OMOマーケティング)、EC受注に近隣店舗の在庫を引き当てて店渡しに徹し、宅配を希望する顧客には地域のテザリング※2.母店やリージョナルTC※3.からローカル出荷する。顧客の利便が高まり物流のタイムラグもコストも圧縮され、在庫効率も格段に高まり、店受け取り客による追加購入も期待できる(「アンドエスティ」のオープン・プラットフォーム化も店受け取りなら新たな顧客を店舗にもたらす)。これは「物流」のことで、店舗運営スタッフの地域内シフト(人員のテザリング)とSNSのローカル化(店舗スタッフの投稿による地域店舗への顧客誘導)が「交流」だ。

地域の店舗布陣は販売力(同時に店舗スタッフの採用力でもある)ある好立地の旗艦店や集約売り切り店、賃料の安い大型路面店(テザリングとローカル出荷の拠点)など役割を分担して配置するのが鉄則で、地域内のエリア特性と「物流」「交流」を熟慮したい。

リージョナルOMO経営で効率化するには物流もリージョナル軸に徹するべきで、欠品防止のテザリングや消化促進の集約移動を機動的に行うなら、しまむらのようなTC軸のリージョナル・ロジスティクスを選択するのが合理的だ。ならば、ECもローカルの店在庫引き当てを原則にFC(ECの出荷倉庫)もTC化することになるのではないか( 7月29日掲載の「店間移動を突き詰めればリージョナル経営に行き着く」https://www.wwdjapan.com/articles/2172489を参照されたい)。

アダストリアは多業態・多サイト・多拠点に事業を分散して属人的な営業努力で業績を伸ばし、業態を横串して地域の運営を効率化する支店制度にも注力してきたから「分散」マネジメントのスタンスが強いが、物流に関しては効率化を志向して東西の自動化大型センターに集約する動きが見られる。集約・自動化すれば倉庫の運営効率は画期的に高まるが、中央倉庫からの一次物流(初期配分と補給)は効率化出来ても地域店舗間の二次物流(テザリングや集約売り切りの店間移動)は非効率・高コスト化してしまう。業態のMD特性による一次物流と二次物流のバランス、OMOの進展度で判断すべき課題だが、リージョナルOMO経営を目指すなら答えは見えているのではないか。

アダストリアは多業態の分散を集約しリソースを集中して開発力を高め、多サイトの分散も集約して在庫運用と物流を効率化する一方、リージョナルOMO経営で地域顧客に寄り添って販売効率も在庫効率も物流効率も高めていくべきだと思うが、如何だろうか。その是非はともかく、一度、立ち止まって陣容を立て直すべき局面であることは間違いないだろう。

※1.OMO(Online Merges with Offline)…ネットと店舗の垣根を超えた連携を意味し、ショールーミング(店舗からネット)による情報取得で店舗やネットの購入を促進したり、ウェブルーミング(ネットから店舗)による店取り置きや店渡し(BOPIS)、店出荷で顧客利便と在庫効率を高め物流コストを抑制するリテール戦略
※2.テザリング…店舗間で在庫を融通して在庫効率を高めるローカル・ディストリビューション手法で、サイズ在庫負担の大きいABCマートや紳士服チェーンでも活用されており、近年では修理加工の集約やOMOの店出荷・店受け取りと連携されるケースも見られる
※3.DCとTCとFC…入荷した商品を棚入れしてからピッキングして出荷する保管型のDC(Distribution Center)に対し、棚入れせず仕分けして送り出す通過型の物流施設がTC(Transfer Center)で、FC(Fulfillment Center)は通販の出荷用DC

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