ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回のテーマは、アパレルの店間移動。文字通り在庫を店舗と店舗間、店舗とEC間などで行き来させることだが、この精度は最終消化率や粗利益率に直結することになる。基本的なことから応用まで詳しく説明しよう。
在庫運用で課題となるのが「店間移動」だが、広義にとらえればテザリングであり、MDの組み方や補給方法、ロジスティクス体制や運用権限の組織分担などで手法も手順も大きく異なる。さまざまなケース毎に最適な手法を選択する必要があるが、突き詰めればリージョナル経営に行き着くのではないか。
店間移動には2つのケースがある
アパレルチェーンで「店間移動」と言われるものには2つのケースがあり、目的も手法も次元が異なる。1つは「欠品回避を目的とした店間移動」、もう1つは「消化促進を目的とした店間移動」だが、どちらもテザリング※1.の一環と捉えられる。
日常的に行われるのが「欠品回避を目的とした店間移動」で、自社DC※2.やベンダーからの補給が切れた後(蒔き切り商品では投入直後から)、販売によって店舗のSKU在庫が「最小陳列数量」を割り込めば自動発動され、通常は一点単位に移動されるから「客注対応」と同様な手順になる。低単価の雑貨や下着・靴下などは相対的に移動コスト負担が大きいから、DCやベンダーからの補給と同様、「半ダース」などバンドル単位に移動するルールになっているケースもある。
「欠品回避を目的とした店間移動」では補給と同様、「最小陳列数量」の設定と「データラグ」「物流ラグ」の見極めが要となる。「最小陳列数量」は補充商品が到着するまで欠品しないよう設定するから、販売消化ペースが速く「データラグ」「物流ラグ」が大きいほど積み上げる必要があり、補充や移動を自動発動する「最小陳列数量」が多くなって在庫回転が落ちてしまう。
在庫効率からはラグを短縮して高頻度に補充・移動し「最小陳列数量」を最小化するのが理想だが、物流費を抑制しようとすれば移動頻度を抑制して「最小陳列数量」を積むという選択もある。どちらの場合も「データラグ」「物流ラグ」は短いほど「最小陳列数量」を抑制して在庫効率を高めることができる。
「データラグ」はトランザクション頻度を上げれば短縮できるしリアルタイム化すれば解消されるが、「物流ラグ」はロジスティクスの仕組みを変えないと短縮が難しい。「データラグ」が数分〜数時間で収まるのに対し、「物流ラグ」は数日という単位になり、物流システムに拘束されるからだ。
販売消化に店舗や地域による偏りが生じたり、売り切り段階で色・サイズの欠落が目立って来たときに行われるのが「消化促進を目的とした店間移動」だ。特定の品番に限定して行うならともかくテイストやアイテムをまとめて大規模に移動するなら、店舗毎の特性や在庫バランス、在庫枠やタイミングを総合的に勘案しなければならないから、AIやアルゴリズムに原案を算出させるにしても、現場に通じた営業センスのある人材が仕組んで決裁する必要がある。
蒔き切りで補給のない「横売り」商品は色・サイズの欠けた残品の「澱(おり)」が蓄積してくるから、類似アイテムを集めて色欠けのトップスは色別に、サイズ欠けのボトムはサイズ別に編集して売り切っていくが、店舗によって売れ方が偏る場合は複数品番をまとめて店間移動することがある。補給が切れて色・サイズの棚が欠けてきた「縦売り」商品は目に見えて売れ行きが鈍るから、販売力のある店舗に集約して色・サイズをそろえて売り切っていくのが定石だ。
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