ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回は日本の衣料品市場のマクロなデータをもとに、ファッションビジネスの置かれた状況を確認し、企業が打つべき手を考える。
日本繊維輸入組合が発表した「日本のアパレル市場と輸入品概況2025年版」と家計調査のアパレル消費支出、環境省のマテリアルフロー調査などからアパレルの供給と消費の最新構図を検証し、アパレル流通効率化の方策を探ってみた。
過剰供給は緩和されたが業界の利益は減少
24年の衣料品国内供給数量は34億301万点と23年からわずかに(0.65%)減少し、コロナ前19年からは14.6%減少した。輸入数量は33億5290万点(日本繊維輸入組合の輸入数量には「付属品」が含まれているので除外)と0.5%減少したが、国内生産数量も6001万点と6.6%減少し、輸出数量990万点を差し引いた輸入浸透率は98.5%と0.1ポイント上昇した。その一方、国内の小売市場規模は8兆5904億円と23年から2.8%拡大し、19年の93.6%まで回復したと推計される(矢野経済研究所の23年推計額×商業動態統計「織物・衣服・身の回り品小売業」売上前年比102.8%)。
供給数量が絞られたことで19年と比べれば消費に対する衣料品の過剰供給は9%ほど緩和された計算になるが、供給単価と消費単価の推移を見れば円安などによるコスト上昇を転嫁できず、業界とりわけサプライヤーの収益が圧迫されたと推察される。
19年から24年で対ドル為替は108.98円から150.51円へ38.1%も円安に振れたが、衣料品の輸入単価は低コスト生産地へのシフトもあって26.9%増、繊維製品の企業物価も16.1%増に抑制された。その一方、衣料品の消費者物価は9.5%の上昇にとどまり、衣料品の小売供給単価(推計小売市場規模÷供給数量)も9.6%の上昇と、両者はほぼ一致している。単純計算すれば、輸入コスト上昇分の卸価格転嫁率は91.5%、卸価格上昇分の小売価格転嫁率は94.4%になるから、それだけ業界の収益が圧迫されたことになる。
家計消費支出(2人以上世帯)は19年比102.3%(インフレ修正後実質93.0)と回復したが、食料品のインフレでエンゲル係数が跳ね上がる中、被服・履物支出は89.1%、アパレル(洋服+シャツ・セーター)支出は87.6と回復は鈍かったから、コスト上昇分の価格転嫁が進まずアパレル業界の利益が圧迫された。
もっと長期で見ても、衣料品の消費単価に対する供給単価の比率はジリジリと上昇し、業界の利益が細っていったことがわかる。100円割れの円高だった11〜13年頃の54〜55%から円安と共に上昇し、22年以降は60%を超えている(60.9〜62.6%)。消費単価に対する輸入単価の比率も14%前後だった11〜12年頃から円安と共に16〜18%と上昇し、22年以降は23%前後まで上昇しているから、OEM事業者や専門商社の利益が細っていったと推察される。大手商社が衣料部門、とりわけOEM事業の圧縮や撤退を進めたのは無理もなかった。
アパレルマーケット総体は回復が鈍く業界の付加価値も細っているが、若年世代(Z〜Y世代)や女性への所得移転が加速して消費意欲が高まり、フィルターバブルなスモールマーケットやカルチャーマーケット、機能的なライフウエアマーケットやエシカルなライフスタイルマーケットは盛り上がっているから、国内マーケットにもビジネスチャンスはあふれている。社会もライフスタイルも気候も変貌して求められる商品もマーチャンダイジングも一変しているのに、アパレル事業者の多くは旧弊にとらわれて対応が遅れているということなのだろう。
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