ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。三陽商会が新中期経営計画を発表した。3年後の28年2月期に売上高700億円、営業利益50億円を目標に掲げ、10年後となる35年には売上高1000億円、営業利益率10%の達成を目指す長期ビジョンを掲げる。しかし同社を長年ウオッチしてきた小島氏の見立ては厳しい。
2025年2月期決算では減収・営業減益に転じて投資有価証券売却益で当期純利益を盛った三陽商会だが、次の成長を図る中期計画でも既存事業の延長以外の具体策が見えず、なんとか「止血」はしたものの成長への展望が開けない状況が指摘される。
「止血」はしても「再生」には遠い
三陽商会は23年2月期に16年12月期来(20年から2月期に変更)の6期連続経常赤字から脱却したものの、25年2月期は売上高が605億2600万円と前期から1.3%減少し、営業利益も27億1500万円と同10.9%の減益、経常利益も28億2500万円と同11.3%の減益となった。売上高は15年12月期の974億1500万円と比べれば62.1%、経常利益も同70億3600万円の40.3%の水準にとどまるから、「止血」が完了して容態が安定しただけで「再生」には遠い。
減収・営業減益となる中、投資有価証券売却益(19億1600万円)などで補填し、親会社株主に帰属する当期純利益は40億700万円と43.7%の増益に持ち込んだが、それによる包括利益の減少や自己株式の取得(27億9800万円)、剰余金の配当(10億2600万円)で純資産は393億100万円と19億5600万円減少した。15年12月期と比べれば純資産は6掛けに減少し、分母の減少と投資有価証券売却益もあってROEは4.1%から11.7%に上昇したが、ROE経営に必須の成長戦略は見えていない。
真っ当な経営者がマネジメントして「止血」はできたが、再成長への戦線(販路)の再構築も新規の戦力投入(新規事業)もこれからで、装備(店舗やプラットフォーム、物流体制)や戦術(MDや在庫運用などのスキル)の刷新も試行錯誤を出ていないというのが実態ではないか。
25年2月期は主力の百貨店(構成費64.6%)が2%減、直営店(同5.9%)が3%減と低迷し、EC・通販(同13.6%)とアウトレット(同12.0%)がわずかに1%伸びても補えなかった。24年の衣服・履物消費者物価が2.4%上昇し、全国百貨店衣料品売上高が6.2%伸びた中での1.3%減収は明らかな「退潮」であり、オーガニック(既存戦力)のブランド力、マーチャンダイジング力の課題が露呈した。
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