デザイナーの中里唯馬が立ち上げたファッションアワード「ファッション フロンティア プログラム(FASHION FRONTIER PROGRAM、以下FFP)」はこのほど、2025年度の最終審査会およびアワード授賞式を東京・虎ノ門ヒルズで開催した。8人のファイナリストの中から、林ひかりがグランプリを受賞。準グランプリには、滝直とエミリー・ミサキ・ホン(Emily Misaki Hon)が選ばれた。
「FFP」は、社会的責任とクリエイティビティーを併せ持つファッションデザイナーを育成・支援するプログラムとして設立。今年で5年目を迎えた。エデュケーション一体型のプログラムで、第一次の書類審査を通過したセミファイナリストは2カ月間かけて、さまざまなクリエイターや識者による講義を受講しながら最終作品を完成させる。
既存のファッションの常識にとらわれないオルタナティブな評価軸を形成するため、審査員を多ジャンルから招へいしている点も特徴だ。今年は中里デザイナー、栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問、現代美術家の寒川裕人、五箇公一・国立環境研究所生物多様性領域特命研究員、宮田裕章・慶應義塾大学医学部教授、ファッションジャーナリストの渡辺三津子、サラ・ソッザーニ・マイノ=ソッザーニ財団クリエイティブ・ディレクター、ナニーヌ・リニング=オペラディレクターが審査員を務めた。
グランプリを受賞した林ひかりによる「外枠」
グランプリを受賞した林の作品「外枠」は、服の“枠組み”に着目し、「サイズ、流行、着方、他者評価といった誰かが決めた基準に合わせるための服」のあり方を問い直す作品だ。特に消費サイクルの速い子ども服を素材に、子どものTシャツを手作業でほどき、どんな体型にもフィットするドレスへと変化させた。プリントには、エプソンのデジタル捺染機「Monna Lisa」を活用した。林は最終プレゼンテーションで、織物を続けていた祖母との思い出にも触れ、「祖母の布のように、時間をかけ、効率から離れたものにこそ宿る魅力がある」と語った。
準グランプリの「Wrap me up」
準グランプリの滝の作品は「Wrap me up」と題し、ウエストが約4メートルまで伸びるニットパンツと、パネル状のニットトップ2枚を自由に巻き付ける構成で、サイズフリーかつ誰でも自由にアレンジして着られる服を提案。素材にはさまざまな場所から集めたミシン残糸を使用した。
準グランプリの「Relics」
ミサキ・ホンの「Relics」は、自身の祖父の遺品を織り直し、近隣で拾い集めたユーカリの落ち葉で染め直した作品。ただのリサイクルではなく、喪失と記憶といった情緒的価値を服に込めた。
中里デザイナーは、「これからの時代のキーワードは『エモーション』。今、クリエイターがモノを生み出す意義はここにあると思う。今回の審査でも、受け手が大事にしたいと思える物語やエモーションを、いかに上手くデザインのプロセスの中に込められるかという点を重視した」とコメント。さらにこの5年間を振り返り、「クリエイター同士が刺激し合い、協業するコミュニティーが形成されてきた実感がある」と語った。
「FFP」ではこれまで31人のデザイナーを輩出してきた。今年はアーティストマネジメントのエージェント活動も始動し、社会的責任の視座を持ちながら斬新な発想力を備えた卒業デザイナーと企業の橋渡しも行っていく。
また来年はJR東日本とパートナーシップを組む。高輪ゲートウェイシティに開館する文化施設「モン タカナワ:ザ ミュージアム オブ ナラティブズ」で、講義から授賞式までを一貫して実施する計画だ。
