ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファッションビジネスの要となるマーチャンダイジング(MD)。今回は知っているようで知られていないMDの常識を整理してみた。MDの誌上セミナーをお送りする。
アパレルのマーチャンダイジングはトレンドや営業政策で破行しては顧客もデータも流動化してマネジメントの精度も上がらないから、ポジションを明確にして編成の骨格と年間の展開シナリオを確立する必要がある。亜熱帯化など環境の変化や営業政策で中身の商品や展開は相応に変わっていくとしても、顧客に見えるブランドや業態の立ち位置と編成の骨格は揺るがしてはいけない。そんなマーチャンダイジングの「新定石」を整理しておきたい。
マーチャンダイジングの骨格たる編成構造
気候変化や社会変化、トレンドや素材開発で商品は変わっていくにしても、マーチャンダイジング総体の編成構造(=顧客に見える売場の編成)はポジションを政策的に変えない限り変えてはいけない「骨格」だ。成功しているブランドや業態には一見してそれと判る「特有の編成構造」があり、行き詰まらない限り10年も20年も基本は変わらない。「ユニクロ」と「ザラ」のふた昔前の編成表を見れば、今日も骨格は変わっていないことが分かる。それはマーチャンダイジングの編成であると同時にVMDの様式であり、商品開発とサプライの仕組みも体現しているから、卓越したプロなら店頭の編成とVMDから商品開発やサプライの仕組みを推察することもできる。
大型のブランドや業態は「ターゲット→シーンまたはウエアリング」というブロック編成が多く、ブロックの組み方で性格が出る。アスレジャー革命以前の米国カジュアル業態は「メンズ/ウィメンズ×ジーニング/ワーク(チノ軸)/スエット」の6ブロック編成が定石だったが、大人向けのカジュアル業態ではワークがビジカジ化して6ブロック編成が維持された一方、若向けのカジュアル業態ではワークが消えアスレジャー化したスウェットが拡大して4ブロック編成になった感がある。「ビジカジ」があるか否かがY世代以上かZ世代以下かを分けており、それは「キッズ」の有無も同様だ。
Z世代以下のカジュアル業態ではジェンダーレスなウエアリングに対応して「メンズ/ユニセックスパーツ/ウィメンズ」という編成も見られるが、ユニセックスパーツの実態はメンズアイテムのサイズ展開である場合が大半だ。男性がウィメンズアイテムを選択するのはマイナーでも、女性がメンズアイテムの小さめサイズを好むのは以前からメジャーな習性だからだ(1990年代末の「ユニクロ」のフリースブームを支えたのは8割方が女性だった)。昨年の「ユニクロ」の都心店舗では「ユニクロ:C」(ウィメンズ企画)のアウターをメンズ売場に陳列してジェンダーレスな購入を訴求していたが、トレンチコートなどのメンズ由来アイテムをオーバーサイズで企画した例外的ケースと思われる。
ドレス系の大人ブランド/業態ではシーン別のブロック編成が定石で、「フォーマル/ビジネス/ビジカジ/カジュアル/インティメイト(下着とナイティ)」という編成が一般的だ。メンズの「ビジネス」ではウーステッドのテーラードスーツと機能性合繊のセットアップ、「ビジカジ」ではジャケット軸とカジュアルアウター軸の構成比率が性格を分ける。
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