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アパレルの在庫問題を解決する「ロジスティクス革新」【小島健輔リポート】

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ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。今回はアパレルビジネスにおける在庫問題を取り上げる。アパレル企業の成否を握るといっても過言ではない在庫コントロールでだが、需給ギャップの解消は多くの経営者にとって頭痛の種である。突破口はどこにあるのか。詳しく解説してみた。

アパレルビジネスに付きまとう欠品・残品の在庫問題の解決へ、調達や配分・補給から陳列訴求、店間移動や売価変更までさまざまなアプローチがなされ、近年はアルゴリズムやAIも活用されているが、DX活用・産直越境ECのタイムマシン・マジックを除けば決定的な「解答」は見えていない。オフショア生産依存でタイムマシン・マジックが使えない国内のアパレルチェーンにとっては、「ロジスティクス革新」こそ突破口になるのではないか。

在庫問題の本質とオンデマンド・サプライの限界

アパレルビジネスの在庫問題はトレンドや天候による流動性、地域や世代による需要の偏りに加え、需要に生産・調達が先行するリードタイムがもたらす需給ギャップが大きい。数週間ならともかく何カ月も先の需要をSKU別の数量まで予測するのは極めて困難だが、リードタイムを短縮するほど予測精度が高まって需給ギャップを圧縮できる。その究極がファストなオンデマンド・サプライと言われたのは一昔前のことで、今やDXを駆使した産直越境ECは需要(受注)が先行して生産が後追いするタイムマシン・マジックさえ可能にしている。

後出しジャンケンが可能なら需給ギャップは解消され、アパレルビジネスの在庫問題も解決するが、国内産地が崩壊してオフショア生産が98.4%(23年)に達した我が国では、アイテム特化の受注ビジネスを除いてタイムマシン・マジックは非現実的だ。タイムマシン・マジックは無理でも、CAD/CAM連携のパターンオーダーなら7デイズ・サプライも可能だし、オンラインPDM※1.プラットフォームを活用すればオフショア生産でも仕様の擦り合わせと見積もり、前工程を大きく短縮できる。

大ロット計画生産と実需とのSKU在庫ギャップを埋める短サイクル補正生産も行われているが部分的な補正にとどまり(不足はカバーできても過剰には対処できない)、需給ギャップを埋め切れるわけではない。DXによるリードタイム短縮効果は大きいが、それだけで需給ギャップを解消できるわけではなく、多くの国内アパレルビジネスにとってオンデマンド・サプライによる需給ギャップ解消は理想論を出ないのが現実だ。

オンデマンド・サプライが難しいなら、調達した在庫を各販路・店舗の需要に即して的確・迅速・低コストに供給・補給し、移動・集約して売り切っていく「ロジスティクス」(戦略的物流運用)が問われるのではないか。

※1.PDM(Product Data Management)…企画と生産のCADデータ連携、コスト&納期見積り、ワークフロー管理の調達実務マネジメントシステムで、欧米アパレルとアジアの工場の間ではクラウドベースのプラットフォームが普及している

ロジスティクスの基本スタンス

ロジスティクスは的確・迅速・低コストに需要に応えるべく「前進分散配備」と「後方集中配備」を使い分けるのが基本。迅速・低コストを志向すれば「前進分散配備」になるが、在庫が分散して状況一変時の集約・再展開に手間取る。全方位な状況対応を志向すれば「後方集中配備」になるが、前線との距離がある分、対応に手間取りコストもかさむ。

アパレルチェーンのロジスティクスでは「前進分散配備」してローカルテザリング(地域内在庫融通)で補正し、基幹商品の補給を「後方集中配備」するのが基本だが、店舗数が限られてドミナントエリアを形成できない場合はローカルテザリングが成り立たないので「後方集中配備」するしかない。お手頃価格のナショナルチェーンやリージョナルチェーンは「前進分散配備」と「後方集中配備」を組み合わせるが、顧客も店舗も限定されドミナントエリアを形成しない中高価格のブランド直営店は「後方集中配備」一択になる。

単純化すれば「前進分散配備」は各展開地域にTC※2.を配してテザリングするリージョナル・ロジスティクス、「後方集中配備」は全国区をカバーするDC※2.を中央に配して補給するセントラル・ロジスティクスになる。ユニクロのように同一商品を継続して量販するケースでは「前進分散配備」で店舗に在庫を積み上げるだけでは賄い切れないから、「後方集中配備」のセントラル・ロジスティクス(リージョナルDCとの併用と推察される)が要になる。シーズンの初期から実需期へ在庫が店舗へ移動していくが、初期では店舗に3割、消費地DCと生産地の出荷倉庫に7割のバランスと見られるから、数量的にも「後方集中配備」の性格が強い。

EC専業から店舗展開したケースやEC比率の高いチェーンはセントラル・ロジスティクスだが、OMOを効率運用するにはドミナントを形成した大都市圏にテザリングを取り入れる必要がある。

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