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小袋成彬が語る新作「Zatto」と「ロンドンでの出会い」 「ジャパニーズ・ソウルって感じですよね」

PROFILE: 小袋成彬/ミュージシャン

PROFILE: (おぶくろ・なりあき)1991年生まれ。埼玉県さいたま市出身、ロンドン在住。立教大学を卒業後、プロデューサーのYaffleと共に音楽プロダクション「TOKA」を設立。2018年、宇多田ヒカルをフィーチャリングに迎えたシングル「Lonely One」でメジャーデビューを果たし、同年リリースのデビューアルバム「分離派の夏」は第11回CDショップ大賞2019にノミネートされた。19年、セルフプロデュースによる2ndアルバム「Piercing」、2021年には3rdアルバム「Strides」をリリース。19年以降、活動拠点をイギリスに移し、世界各国のミュージシャンとのコラボレーションを展開。J-WAVEの音楽番組「Flip Side Planet」のMCも務めている。

小袋成彬が、3年ぶり4枚目となるアルバム「Zatto」をリリースした。これまでもアルバムごとに作風を変えてきた彼だが、本作を聴いて分かる通り、今作の進化はかなりラディカルなものになっている。ロンドンで暮らしはじめて5年という月日が経過した今の小袋成彬だからこそ生み出せる、現地で出会ったミュージシャンたちと作り上げた結晶のような音。ロンドンでの生活と、そこで見聞きし考えたことが何なのか、詳しく訊いてみた。

「デジタルプラグインも一切使ってないし、全てが生の楽器」

——アルバム「Zatto」を聴きました。正直、かなり驚いています。これはどういう音楽かと聞かれたら、「音楽的にはジャズでソウルミュージックで……」って答えるんだけど、そんなものでは言い表せない小袋さんのソウルが鳴っています。

小袋成彬(以下、小袋):ジャパニーズ・ソウルって感じですよね。ちあきなおみや和田アキ子あたりの。

——何があってこんな境地にたどり着いたのか。

小袋:最初はハウスミュージックのアルバムを作ってたんですよ。でもコロナになって、ブラック・ライブズ・マターもあって、ウクライナやガザの戦争も起きて、日本に住んでたら関係なさそうな出来事が一気に身近になっていった。いつも行くパブで働くウクライナ人の女の子がどんどん憔悴していく感じとか見てると、もう無関係じゃないなって思えてきて。ハウスミュージック作ってる場合じゃないかも、って。それでハウスミュージックのアルバムは完成半ばで諦めたんですよ。
※その時に制作された楽曲のうち3曲はアルバムのリリース前に配信された。

次第に、ブルースやジャズが響くようになってきた。ロンドン生活が長くなってきて黒人の友達も増えてきたので、彼らが日々考えてる悩みも実感レベルで分かるようになってきたんです。そうすると、ダニー・ハサウェイががっつり入ってくるようになった。フリーダムっていう概念も、正直それまであまりピンと来てなかったんですよ。別に俺は生まれながらにフリーダムだけど、って思ってたし。でも、ロンドンは生まれながらに抑圧されている人たちがいっぱいいるんですよね。そういう延長線上で、今作は生まれていきました。

——世相の変化を受けて、踊っている場合じゃないという心境になってきたと。

小袋:踊ってても、戦争の映像とかがちらつくんですよ。なんか違うな、って思えてきた。

——そこからなぜジャパニーズ・ソウルに?

小袋:ダニー・ハサウェイみたいなカッコいいのを作りたいなと思うけど、やっぱり英語だと猿真似になっちゃうなって。試行錯誤していくうちにここにたどり着いたって感じです。でも、ロンドンの人たちに聴かせたらすごく自然に受け入れてくれてたから、日本語なんだけど譜割りやグルーブは西洋の影響を受けてるんじゃないかな。俺は普段は日本語を喋らないので。

——サウンドは、どのようなアプローチで生まれていったんでしょうか。

小袋:それぞれリファレンスはちゃんとありますよ。「Hanazakari」はボブ・マーリーの「Slave Driver」って曲があって、その弾き語りをずっと練習してたら生まれてきた。でも同じコードだとボブ・マーリーそのままになっちゃうから、いろいろ変えてみました。マイルス・デイヴィスに「All Blues」って曲があるんですよ。半音だけ転調する瞬間があるんですけどそれが手癖で出ていたり。今回はちゃんと楽器を手に取って作ろうという思いがあったので、デジタルプラグインも一切使ってないし、全てが生の楽器ですね。

ロンドンの多様なミュージシャンとの制作

——今作がすごく贅沢なのは、その演奏に集まっているミュージシャンが、今のロンドンのシーンを作っている活きのいい人たちばかりで。しかも、曲によってその座組みもバラバラです。これは、やりたいことに合わせてメンバーを変えていったということですよね。

小袋:まさにそうです。レゲエが弾ける人、チャーチミュージックが得意な人ってそれぞれに得手不得手があるので、特性を考えてバンドを組んでいます。だいたい1バンドにつき2曲で、4バンドで作ってますね。

——それぞれの演奏のアドリブについては、ミュージシャンにどの程度任せていたんですか?

小袋:アドリブもけっこう入ってますよ。でも、大きな設計図は自分が書きました。ここは誰々のソロです、ここのピアノはこういうリズムで弾いてください、というルールの中で遊んでもらってます。だから、今回は基本的にはジャズセッションのメンツを集めています。月曜、火曜にロンドンでフリージャズのセッションがあって、そこに通って出会った人たち。知った仲だし、ある程度どうなるかイメージは描けてました。

——出てきた演奏に対しては、小袋さんはどういったディレクションをされたんですか?

小袋:例えば「Shiranami」だと、英語で「White Waveだよ」って説明しても、ヨーロッパの人たちは南フランスのビーチとかを想像しちゃう(笑)。実際に日本の人たちが想起するのは、岩に打ちつける波しぶきや磯の匂いですよね。「違う違う、そんな弾き方しないでくれ!東映のロゴと一緒に出てくるあの波が日本のShiranamiだよ!」って言うと、理解してくれたり。

——なるほど(笑)。「Kamifubuki」も「Shiranami」と同じミュージシャンが集っていますけど、ニュアンスがまた全然違いますよね。だから、演奏については小袋さんのディレクションがけっこう入っているんだろうなと思いました。

小袋:一回バンドメンバーの前で英語で歌うんですよ。歌詞を理解してもらいたいから。「Shiranami」も、「旗を燃やして人の夢を照らす」っていうのを「Burning the flag to light up people’s dream」とか訳して歌うと、「yeah!!」って返ってくる。そもそも「Shiranami」に関しては、ダニー・ハサウェイがピンク・フロイドと一緒にやったらこんな感じになると思うんだけどって説明すると、あぁなるほどね! って。

——ロンドンのジャズシーンだと、そういったディレクションしながらのセッション&レコーディングは普通なんですか?

小袋:珍しいと思う。いろんなレコーディングに行きましたけど、こんなに明確なビジョンを持って入ることってそんなにない。だいたい皆、適当に入って適当に弾いて帰っていくから。今日のセッションって結局なんだったんだ? みたいなのも多いですよ。そんな感じだから、皆「これだけ分かりやすく説明してくれてありがとう」って言ってました。何をやればいいか理解できた、って。でも金払ってるの自分だし、もったいないことしたくないじゃないですか。だからこそ決めるところは決めつつ自由にやらせるところはやらせて、っていうのは意識しましたね。そういったアプローチや人間関係は、5年間ロンドンに住んで培ってきたもの。ほんと、いろんな人がいるから。そもそも時間通りに来ない人、昼飯行ったきり帰ってこない人……そういう奴に限って一番巧いからムカつくんだけどね(笑)。5年前だったら発狂してたけど、もう慣れました。

——ということは、今作は音楽性も演奏も含めて、小袋さんが5年間ロンドンに住んだ結果の集大成と言えるのかもしれないですね。5年前だったら絶対に生まれていないアルバム。

小袋:自分がディレクションする形でロンドンのミュージシャンと一緒にやったのは、宇多田(ヒカル)さんのセッションで「丸の内サディスティック」を演奏したのが最初だったんです。だけど、当時は英語も喋れないし、ミュージシャンの人たちのことを何も分かってないし、俺全然だめだわって思った。もちろん完成したものには満足してるんだけど、でもクリス・デイヴはじめいろんな人の特性や性格を分かってなかったから。未熟だった。今は一人ひとりのグラデーションが分かってきたし、そういう意味では今が集大成と言えますね。

日本語の歌詞

——そうやってロンドンのミュージシャンが集結して演奏していながらも、特に「Shiranami」あたりに顕著ですけど、演歌にも接近するような日本らしさが出てきているのはなぜでしょう。

小袋:やっぱり、日本語だからそうなっちゃうんだと思います。自分は、USラップを真似して英語っぽいラップをする意味が全然分かんなくて、日本語の良いところを出してこそだと考えてる。それこそ、洋楽の要素を取り入れつつ日本語の良いところを出す歌い方って、ちあきなおみや和田アキ子で完成したと思ってるんです。ラッツ&スターとかね。あの辺が、まだ日本語の響きを大切にしていた人たちなんじゃないかな。あの人たちのバックバンドって、すごく豪華だったりするじゃないですか。今作は、そういうことをやってるんですよ。で、そこにロンドンの多様性を入れた。

——洋楽の歌い方に影響を受けているんだけど日本語の良さを活かしたハメ方、ということですよね。そこに今のロンドンのミュージシャンに加わってもらうことで、1970年代の日本の歌謡曲・ポップスが、今の小袋さんでしか成し得ない音楽として表現されていると。

小袋:演歌って、譜割りを崩して歌うじゃないですか。このアルバムもかなり崩しているところがあるから、余計に演歌っぽく聴こえるんだと思う。でもそもそものメロディーの作りという点でも工夫していて、日本の歌って主音(音階を構成する最初の音。例えばラシドレミファソラというイ短調の場合、ラが主音となる)で終わる。サム・スミスとか聴いてると、英語だけどメロディーは主音で終わるし日本歌謡っぽいなと感じる。演歌っぽい。でも自分はそういったことはあまりしたくなくて、メロディーについては主音で終わらないようにしてます。だから、他の人には真似できないと思う。

——小袋さんはどんどん日本語を客観的に捉えるようになってきてますよね。だからこそ日本語の良さを活かすんだけど日本語っぽくない譜割りやメロディーを組み立てていくという独自の作風になってきてて、それが一周回って演歌っぽく聴こえるというのがすごく面白い。

小袋:そうですよね。演歌はコブシを効かせつつ、基本的にはオンでノるからグルーブがあまりないんだけど、そこが違うポイント。

——どちらが良いとは一概に言えないけれど、日本語ならではの発音と、洋楽の影響を受けたリズムや発声法のバランスという点では80年代は一つの完成と言えるかもしれないですね。

小袋:2000年代以降は、ドメスティックな方向にまた変化していますよね。スキマスイッチさんをはじめとした、ちゃんと日本語の歌を日本の譜割りで歌っていくんだという流れ。その一方で宇多田さんみたいに完全にニューヨーク仕込みの独自の譜割りで歌う人も出て来たけど。この前日本に帰ってきて紅白(歌合戦)を観てると、Mrs. GREEN APPLEさんは完全にオンでの歌い方でしたね。かえるの歌みたいな、日本語に合う形式の乗せ方。あれはあれで一つのドメスティックに進化した日本の歌だと思います。でも、ブルースはなくなってきてますよね。

「皆にカバーしてほしいし、教科書に載ってほしい」

——「Zatto」は、日本語の響きは大事にしつつも、小袋さんがロンドンで肌で感じているブルース的な心の痛みを歌っているのかもしれないですね。

小袋:ソウルを取り戻せ! ということですかね(笑)。今回参加してくれたミュージシャンたちに、曲の説明をする前にデモを聴かせた時点で皆が「やばいね」って言ってくれたんですよ。何かを歌っている、ソウルが出ている、というのが伝わったんじゃないかな。

——いやはや、ソウルって何なんでしょうか。小袋さんがロンドンで生活して感じたもの、としか言いようのない何かがある。

小袋:汚い屋台のケバブばっかり食べてないと、この音は出なかったかもしれない。前みたいに深夜にコンビニ行く甘ったれた生活じゃなくて、カチカチの寿司と、空っぽの冷蔵庫と……なんで33歳にもなってこんな生活してるんだろうっていう……食ってるもので出る音が違いますから(笑)。

——グルーブには、関わっている人や食べているものが出るって言いますよね。生活そのものだと

小袋:絶対にあると思いますよ。ロンドンで暮らしてると、ビザがなくて1年間ずっとつらい思いをしている人もいるし、親父が戦争に行かされちゃったって言ってる人もいるし、そういった嘆きや苦しみが音に出ることでユニバーサルなソウルとして響くんだと思う。今回参加してくれたピアノのライル・バートン(Lyle Barton)も、ガイアナにルーツがあるって言ってて。ガイアナってどこ?! ってなるじゃないですか。ベースのロゼッタ・カー(Rosetta Carr)もイタリア生まれ、ロンドン在住という経歴だしね。本当にいろんなバックグラウンドの人がいるから。

——歌詞は、固有名詞がどんどん減ってきていて、今作は抽象的な言葉遣いが増えた印象です。

小袋:前とは英語の習熟度が違うというのも大きいと思います。あと「Zatto」のように日本語なんだけど言葉の響きが独特なもの。俺は、作ったらまず日本人じゃない人に聴かせて、そこで歌ってもらえたら勝ちじゃないですか。

——今作はそうやってロンドンでの小袋さんの生活そのものが音としてにじみ出ているんだけど、でもそれを極限まで突き詰めていった結果、ちょっと近寄りがたいものとして完成していますよね。俗世間にまみれたところから生まれたものではあるんだけど、どこか聖なるものに聴こえるというか。たぶん、音が削ぎ落とされ過ぎていて、完全に小袋さんという人間の骨格しか残っていないシンプルさゆえ、なのかもしれないですけど。

小袋:今回って、何も変わったことはしていなくて、全然難しくない。だから、皆にカバーしてほしいし教科書に載ってほしい。音も削ぎ落としてあるし、コードも本当に難しくない。日本の音楽って、コードにうるさいじゃないですか。「ここのコード進行が素晴らしい」とかよく言いますよね。日本はやっぱり、協調性を大事にしてるんだと思う。それぞれのリズムを奏でるよりも、ハーモニーを重視するから。西洋は全然そんなことない。コードなんてAマイナーとEマイナーだけで曲ができちゃうし、リズムとグルーブを重視する。J-POPの価値観は、ハーモニー重視で次にメロディー、そしてリズムは最後。メロディーの在り方も、ハーモニーの中でいかに自分を表現していくかという考え。それで言うと、今回の作品は「Shiranami」の最初とかマジでB♭マイナーしか弾いてないから(笑)。子どもでも弾けます。

——例えば最近の宇多田さんの作品を聴いていても、どんどん楽曲の骨格が際立ってきていますよね。スケルトン化している。小袋さんの今作も、ある意味で共振しているように思います。

小袋:宇多田さんはどんどんミニマルになってきてますよね。まあ、もともとあまりコードがどうって人ではないけど、ロンドンの良いプロデューサーと出会ったことでその傾向がさらに出てきてると思います。

——ちなみに、小袋さんは宇多田さんの「BADモード」についてはアルバム全体としてどう受け止めましたか?

小袋:やっぱりフローティング・ポインツ(Floating Points/サム・シェパード)の曲は良いなって思いました。真似できないしね。そういえば、ロンドンの店で飯食ってたらなぜか隣に偶然サムがいて。うわーって思って、「自分でミックスした段階の曲で、良かったら聴いてもらえない? あまり自信ないんだけど」って「Shiranami」を送ったんですよ。そしたら「自信ないなんて言うなよ」って言われて、しかも聴いてくれて「良かった」って返信が来て。あまりそういうこと言わない人だからめっちゃテンション上がりました。友達と「サムから良かったって返信きたよ!やばっ!」って盛り上がった(笑)。

レコーディングメンバーについて

——すごくレアな体験!(笑) ロンドンのミュージシャンとの交流についてもっと詳しく聞きたいんですけど、今作に参加しているジャズ・シーンの人たちはどういった方が多いんですか?

小袋:「Zatto」と「Tangerine」は、サンファ(Sampha)のバンドでベースを弾いているロゼッタ・カーという女の子で。彼女は歌も歌えて、しかも素敵なので、そこにココロコ(Kokoroko)のドラマーのアヨ・サラウ(Ayo Salawu)を呼びました。アヨは後ろ目でリズムをとる感じなので、ロゼッタと絶対合うなと思って。ピアノのアマネ・スガナミ(Amane Suganami)は知らなくて、今回ギターのティージョー・マン・チェン(Tjoe Man Cheung)に紹介してもらいました。

——アマネさんはイギリス生まれなんですよね。

小袋:ドラムのジェローム・ジョンソン(Jerome Johnson)は教会でずっとドラムを叩いてた人で、ソリッドな音を出すしめちゃくちゃ巧い。「Shiranami」にすごく合うだろうなと思ってティージョーが紹介してくれました。ピアノのローリー・レッドファーン(Rory Redfern)はモデルもやってる人。Daichi Yamamotoがイギリスに来た時にジャズセッションに連れてって、そこで弾いてるのを観て「あいつ巧くない?!」ってなって声をかけた。

——それが、「Kagero」と「Hanazakari」になるとまたガラッと音楽性が違いますよね。

小袋:その2曲はラテンとレゲエなので、また違うメンバーを集めています。ドラムのサム・ジョーンズ(Sam Jones)は、去年東京にいた時に彼がちょうど日本に来てて、一緒に「すしざんまい」に行きました(笑)。それで仲良くなってセッションすることになった。彼にピアノでいい人いない? って聞いたら、ヌバイア・ガルシアのバンドで一緒に演奏してるライル・バートンを紹介してくれて。あとはダブルベースを探してたんだけど、ティージョーにベン(Benjamin Crane)のことを教えてもらってライブを観に行って仲良くなった。それぞれの特性と関係性があって、全部詳しく説明すると長くなっちゃうけどそんな感じかな。

——ちなみに、エンジニアのこだわりは?

小袋:ミックスはディアンジェロの「Voodoo」をやっているラッセル・エレバド(Russell Elevado)という人で。一回、ペトロールズの「乱反射」という曲でお願いしたことがあって、今回もお願いしました。あとレコーディングをしてくれてるアンディ・ラムゼイ(Andy Ramsay)はステレオラボ(Stereolab)のドラマーなんです。

——そのスタジオ(Play Studio)は、アンディ・ラムゼイが所有してるんですか?

小袋:いや、これはアンディというよりステレオラボのスタジオなんですよ。キング・クルールやマウント・キンビーといった、俺ら世代のバンドが皆使ってますね。

——「Zatto」と「Kagero」の一部は日本でレコーディングしてますよね?

小袋:そうなんです。弦だけは向こうでレコーディングできなくて。お金かかるし、俺がスコアを書けないので、それだけはリモートで日本でやってもらいました。

「自分のアートを持つのが夢だった」

—今日の小袋さんの話を聞いていると、ロンドンで本当にいろんなミュージシャンと交流しているのが伝わってきました。その中でも、最もコアに関わっているコミュニティーというとどこになるんですか?

小袋:俺がいるのは、バイナルオンリーで自分たちでサウンドシステム作ってDJやる人たちの界隈です。東ロンドンでやってるんですけど、自分はもうそのクルーの一部なので、日曜にそこに行ってお酒飲んで遊んで。あと、演奏する人たちのコミュニティーは南ロンドンにあるので、新しいミュージシャンと交流しながら、「いいねぇ……!」って言って帰る(笑)。同じジャズでもシャバカ・ハッチングスとかのコミュニティーは年上で、声をかけるにはちょっと恐れ多い。ヌバイア・ガルシアとかヤズミン・レイシーの周りの人たちは歳が近いから声かけやすいんですけど。ロンドン・ジャズは一口に語れないグラデーションがありますよね。ロックも盛り上がってて、ブラック・ミディを一回観に行ったんだけどめっちゃ良かった! 詳しくないけど、あの界隈も熱いんでしょうね。

——アートワークは、Zatto=雑踏の中にいる小袋さん、というシチュエーションを表現しているんですか?

小袋:人ごみの中で、世界情勢について話している絵にしたかったんです。新聞読みながらコーヒーを飲んでる感じの。都会に埋もれている人間の苦しみじゃないけど、それについて考えつつちょっとユーモアもあって、みたいな。フォトグラファーのPiczoさんと土日のマーケットに出かけて、そこに面しているカフェで撮りました。

——今回、自主リリースになった経緯は?

小袋:ソニーをやめたんです。そもそもこれまでも全部自分で仕切って作ってたので、もう自分でできるじゃんってなって。でも、今回は打ち込み音を使ってないし、今までで一番お金かかりましたけどね。レーベルに属するとなんだか外注されてる気分になるけど、自分のアートを持つのが夢だったので、そういうありがたいことができて良かったです。全部自分でお金払ってるんで、全力注ぎましたよ。そもそもこんなにロンドンでたくさんレコーディングしたことなかったし、ブッキングもスタジオの予約も全部自分でやって。マジでDIYです。もらったデータも、今までならエンジニアに任せるけど全部自分で編集した。ミキシングもゼロからYouTubeで勉強して。へぇ、こうやるんだ! って。歌の編集も自分でやったんですけど、ピッチ直したら負けだなって思ったからデジタル処理はせずに作ったし。でも、ここまで全部自分でやるのはもう嫌かな(笑)。1年間これしかやってないから。33歳独身じゃないとできないですよこんなの(笑)。

——3月~4月には日本でアルバムのツアーがありますね。楽しみにしています。

小袋:さすがに向こうの人たちを全員は連れてこれないので、日本のミュージシャンでバンドを組みます。同期なしで、一発のセッションで。技術だけでいうと、日本のミュージシャンも演奏は巧いんですよね。だから全然心配してないです。良いライブになると思います。

PHOTOS:MAYUMI HOSOKURA

「Zatto」

■小袋成彬 4thアルバム「Zatto」

Tracklist
1. Zatto

2. Tangerine

3. Shiranami

4. Shigure

5. Kamifubuki

6. Kagero

7. Sayonara

8. Hanazakari

<デジタル配信>

リリース : 2025年1月15日
レーベル : Nariaki Obukuro

<CD盤>

リリース : 2025年2月26日
初回仕様限定ケース+オリジナルポスター
価格:3300円
購入リンク: https://erj.lnk.to/vASidK

<アナログ盤>

8曲40分
予約開始:2025年1月15日
【通常盤】歌詞カード、2L写真付き。
価格:4400円
購入リンク: https://shop.nariaki.jp/

■Nariaki Obukuro Japan Tour 2025 "Zatto"

<日程・会場>
3月15日(土)【大阪】 味園ユニバース

3月16日(日)【愛知】 名古屋CLUB QUATTRO

3月22日(土)【東京】 恵比寿リキッドルーム

3月29日(土)【福岡】 BEAT STATION

3月30日(日)【福岡】 BEAT STATION

4月3日(木)【北海道】 札幌ペニーレーン24

4月6日(日)【東京】 Zepp Diver City (TOKYO)
※追加公演 4月11日(金)【東京】 恵比寿リキッドルーム

https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2556500

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