
「発酵」は、いまや美容成分のトレンドを語る上で欠かせないキーワードだ。進化した発酵成分を配合した新製品やリニューアル品が相次ぐ一方、発酵をキー成分に掲げ、長年支持されるロングセラー品も多い。ここでは、「発酵」を軸にしたブランドや製品を紹介するとともに、酒蔵の知見を生かした独自の化粧品原料を手掛ける福光屋の福光太一郎社長に発酵ブームの背景を聞いた。
今年登場した新製品
「アーレス」
日本発ライフスタイル&ビューティブランド「アーレス(AHRES)」が12月26日に全国発売する乳液“スムージング BMB エマルジョン”(120mL、7150円)は、ブランド独自成分“二段仕立て熟成発酵液”(サッカロミセス/酒粕エキス発酵液)を配合している。3年以上の歳月をかけて熟成した酒粕を、さらに酵母で発酵させることで、580種類もの栄養成分を含有する。また、国産玄米を麹菌で発酵させた“玄米麹発酵エキス”(アスベルギルス培養物)を配合。発酵により成分が低分子化することで、角質のすみずみまで浸透し肌を潤す効果が期待できる。
「ハッコウパンダ」
エコトーンが9月16日にローンチした「ハッコウパンダ(HACCO.PANDA)」は、独自のコメ発酵液を使用した発酵スキンケアブランドだ。有機栽培米あきたこまちを白神山地産由来の天然酵母で発酵したコメ発酵液がキー成分となっている。NMF由来の保湿成分を11種類配合したコメ発酵液を、化粧品の基材としてメジャーな精製水の代わりに採用。主力の“発酵導入美容液”(10mL、770円/50mL、2200円)には、コメ発酵液を84%以上配合している。
「ミティア オーガニック」
マッシュビューティーラボとファミリーマートの協業スキンケアブランド「ミティア オーガニック(MITEA ORGANIC)」は4月15日、ブランド初の乳液“リペアミルク”(100mL、1991円)を発売した。キー成分は、油分・水分のバランスを保つナノサイズの発酵成分。肌の油分のもととなるセラミドの産生を促すコメ発酵液と、肌の回復力をサポートするネムリペア発酵液が角層の油分バランスにアプローチする。また、水分保持に寄与するハトムギ種子発酵液とデイリリー花発酵液が天然保湿因子NMFの生成を促し、角層に水分を抱え込む力を高めながら、潤いのある肌へと導く。発酵液をリポソーム化することで、角層深部まで油分・潤いを効率的に届けることを目指した。
「ソフィスタンス」
日本発の発酵スキンケアブランド「ソフィスタンス(SOPHISTANCE)」は、圧搾法でじっくり抽出された柚子エキスを主成分とし、さらに200年の歴史を誇る蔵元の杜氏(とうじ)職人の伝統発酵技法によって5年熟成したコメヌカ発酵液と美肌菌(皮膚常在菌)ケアの技術を組み合わせた、独自の“美活菌発酵液”を全製品に配合している。8月29日に発売した泡洗顔“コンフォート ムースウォッシュ”(150mL、3960円)は、天然由来成分を97%以上配合。角質のくすみ・毛穴汚れを落としながら肌のバリア機能をサポートし、潤いを守る。日本古来の発酵技術と自然療法を融合し、皮膚常在菌のバランスを整えることで揺らぎにくい健やかな肌へと導く。
今年リニューアルした製品
「SK-Ⅱ」
「SK-Ⅱ」の“ピテラ”は、特別な酵母の株から、独自の発酵プロセスで生み出したブランド独自の整肌・保湿成分。50 種類以上のビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、有機酸類などを含有している。同ブランドは9月20日、エイジングケアシリーズ“スキンパワー”を“スキンパワー リニュー”として刷新した。ピテラに加え、クマル酸やシャクヤクエキスを配合し、ふっくらとしたハリのある肌へ導く。
髙木麻衣SK-Ⅱ PRよると、リニューアルした4S製品のうち最も好調なのは“リニュー クリーム”(50g、1万8700円/80g、2万6730円※編集部調べ)だという。「“ハリの頂点”ケアというユニークなアプローチが支持されている。今まで主観的に捉えられてきた“ハリ”を、独自の動的肌解析によって数値化することに成功した。その結果、価値が直感的に理解しやすいと好評だ。さらに一新したパッケージのころんとしたフォルム、複数のインフルエンサーを起用した広告、アットコスメの口コミなどの相乗効果により反響が大きい」とコメントした。
「ドモホルンリンクル」
再春館製薬所が手掛けるスキンケアブランド「ドモホルンリンクル(DOMOHORN WRINKLE)」は1月8日、主力製品“クリーム20”【医薬部外品】(30g、1万4300円)をリニューアル発売した。同製品は1974年に日本初(TPCマーケテイングリサーチ調べ)のコラーゲン配合クリームとして誕生。4年ぶりの刷新では、07年から採用するハモコラーゲンの進化版“発酵マルチプルコラーゲン”を配合し、肌の潤いや弾力への働きかけをパワーアップした。海洋に棲む微生物ラビリンチュラでハモを分解・発酵させた同成分は保湿力が高く、ハリ効果が期待できる。同ブランドはまた、26年1月7日に基本4点“保湿液”(120mL、5500円)、“美活肌エキス”【医薬部外品】(30mL、1万1000円)、“クリーム20”、“保護乳液”(100mL、5500円)をリニューアル発売する。
愛され続けるロングセラー
「ライスフォース」
第一三共ヘルスケアダイレクトが手掛ける「ライスフォース(RICE FORCE)」は、「自立した肌を育む」という発想の下で生まれたスキンケアブランド。キー成分は、皮膚の水分保持能を改善する医薬部外品の有効成分“ライスパワーNo.11α”だ。従来の“ライスパワーNo.11”を3倍に濃縮したエキスを採用することで、より自由度の高い処方設計を実現した。エイジングケアライン“プレミアムパーフェクト”などに配合している。
「エトヴォス」
「エトヴォス(ETVOS)」は、最高峰スキンケアライン“ヴァイタルスペリア”のために独自の発酵アロマオイル成分“エフィセント358”を開発した。ローズ、サンダルウッド、カシスの3種の香調成分をベースに、24金でコーティングされた釜で発酵醸成し、モーツァルトの音楽を48時間聴かせ微弱な音波振動を与えることで微生物の活性を促進。豊かな栄養成分を壊さないように低温蒸留で抽出している。上品で落ち着いた香りが特徴で、艶とハリのある肌へ導く。
「メルヴィータ」
フランス発オーガニックスキンケアブランド「メルヴィータ(MELVITA)」が展開する“アルガン ビオアクティブ”は、発酵に着目し開発したライン。キー成分として、アルガンオイルを150時間かけて発酵させた“発酵アルガンオイル”を配合する。アルガンオイル(アルガニアスピノサ核油)を発酵させることで、含まれる脂肪酸が微細化されマイクロ脂肪酸に変化。さらに、通常のアルガンオイルと比較して、脂肪酸が22倍と高濃度になり、肌への浸透をサポートする。水分・油分バランスにアプローチし、生命力あふれるハリ肌へと導く。
発酵ブームの背景とは?
石川県金沢市で1625年に創業した酒蔵の福光屋は、日本酒に含まれる美容成分や米発酵についての知見と技術を生かし、肌本来の力を引き出すことを目指したオリジナルの化粧品原料を開発している。米を麹や酵母、乳酸菌で約1カ月発酵させ、半年以上熟成させて完成するコメ発酵液“FRS”には、天然保湿因子NMFの主成分である20種類以上のアミノ酸や、皮膚を健やかに導くビタミン、ミネラルなど100種類を超える美容成分が含まれる。そんな福光屋の福光太一郎社長に、近年注目を浴びている発酵ブームの背景を分析してもらった。
ーーさまざまなスキンケアブランドが「発酵成分」を打ち出す背景をどう見ている?
福光太一郎・福光屋社長(以下、福光):人間の力では到底及ばない、神秘ともいえる自然現象である「発酵」から生まれる成分の素晴らしさが、スキンケア開発者を魅了しているのだと思う。発酵は、水に成分を添加する方法とは異なり、米などの良質な植物性原料から微生物によって多種多様な成分が黄金比率で生成・含有される。人間の肌との親和性が非常に高いことが研究でも少しずつ解明され、注目を集めている。
ーー福光屋が基礎化粧品開発に至った経緯は?
福光:酒を仕込む中で、日々麹やもろみに触れる蔵人たちの手肌の美しさ・しなやかさに着想を得た。かつて日本酒造りは、杜氏を頭に季節雇用の職人集団の仕事だった。彼らは夏場、自身の土地で農業や漁業を営み、秋になると蔵元に赴いて約半年間かけて日本酒を造るという暮らしを送っていた。炎天下で真っ黒に日焼けし、首や手には深くシワが刻まれていた蔵人たちも、年が明ける頃には次第に肌の透明感を取り戻していった。こうした蔵人の手肌の変化に着目し、日本酒造りに欠かせない発酵の力をスキンケアへと応用する発想が生まれた。
また金沢では、「お茶屋の芸妓たちは白粉を塗る前に日本酒で肌の手入れをしている」「日本酒風呂に入ると肌がしっとり、すべすべになる」「日本酒を扱う料亭の女将の肌は艶々している」といわれ、昔から日本酒と美肌には深い関わりがあるとされてきた。当社は1990年代初頭に、これら経験値の科学的な解明に取り組み始め、スキンケアアイテムに反映している。
ーー「コスメキッチン(COSME KITCHEN)」と共同開発した「フレナバ ナチュラル アンド オーガニック(FRENAVA NATURAL & ORGANIC)」にもコメ発酵液“FRS-01”や、自社酵母“FT-15”のエキスを配合している。最も売れているアイテムは?
福光:“バランシングローション”(100mL、4840円)という化粧水だ。白山麓に自生するクロモジの蒸留水を軸にした神秘的でリラックスできる香りと、サラサラとしたテクスチャーが特徴。クロモジ蒸留水や有機酒粕エキス、有機コメ発酵液、日本酒酵母エキスといった美容成分による浸透力、保湿力、肌弾力回復、抗炎症・鎮静作用などの実感から好評を得ている。発酵と植物の力を掛け合わせた処方と、使い心地へのこだわりが、自然派志向の顧客のほか、敏感肌や美容家、美容感度が高い人など支持層の広がりにつながっている。