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特集 AIでゲームチェンジ 第13回 / 全15回

慶応医学部の23歳現役学生起業家が仕掛ける「ギャルでもできるAI在庫管理」 ハイクリ兼松洋輔

PROFILE: 兼松洋輔/ハイクリ代表取締役

兼松洋輔/ハイクリ代表取締役
PROFILE: 2002年11月9日生まれ、埼玉県出身。現在、慶應義塾大学医学部5年生。24年5月にハイクリ創業。準備金を含む資本金は2800万円で、大半は今年3月に発表したVCのANOBAKAからの資金調達によるもの。ハイクリは現在、社員数15名(業務委託など含む)

AI特集の取材を進める中で、未知の企業を探ろうと「AI 在庫管理」で検索したとき、目に留まったのがハイクリだった。ホームページの問い合わせフォームから取材を申し込むと、すぐに返信が来た。指定された井の頭線・池ノ上駅近くのアパートの一室を訪ねると、出迎えたのは若い男性で、名刺には「兼松洋輔/ハイクリ代表取締役」とある。「若いですね」と声をかけると、「まだ23歳で、慶應医学部5年生です」と朗らかに返された。現役大学生が立ち上げたスタートアップだった。(この記事は「WWDJAPAN」2025年12月1日号から抜粋・加筆しています)

ハイクリは2024年5月に創業したスタートアップで、AIを駆使したアパレル特化の在庫予測SaaSサービス「ベストリー(VESTORY)」を展開している。難易度の高いアパレルの在庫管理を、AIと組み合わせることで「ギャルでもできる在庫運用」をモットーにする。日本最難関かつ名門大学の現役学生が仕掛ける「ギャルでもできるAI在庫運用」という、強烈なバズワードだらけのハイクリとは一体何者なのか。

死屍累々の「AI×在庫予測」に挑んだワケ

だが実は、ファッション分野でのAIと在庫予測の相性は最悪だ。これまでも大手/スタートアップにかかわらず、多くの企業がAIと在庫予測を組み合わせたサービスを開発し、話題を振りまき、ことごとく失敗してきた。AI×在庫管理でうまく行っているのは、すでにある在庫をどう適切に運用・管理するかといったサービスで、海外ではイスラエル発のワンビート(ONEBEAT)が、日本ではフルカイテンが展開している。その点は兼松代表も認める。「ファッションは型やサイズが膨大で、さらにはトレンドといった定量化しにくいパラメータもある。だから在庫予測が難しい。でも僕らのようなスタートアップなら、誰もやってない方がいい。学生だし、ダメだったらまあしょうがない。そんな気楽さはどこかにありましたね」。そこから導き出されたのが「ギャルでもできるAI在庫管理」というキャッチフレーズだったという。「SNSを通じてファンやコミュニティを作ることは、僕らのようなZ世代ならそれほど難易度は高くない。好きなものを共有してそれがビジネスになるファッションの醍醐味ってそこだと思うんです。在庫管理をクリアできれば、もっとブランドの立ち上げが身近になる。やるなら、これだと思ったんです」。

だが、「ベストリー」は、思いのほか成果を上げた。要因は販路をデータが豊富な「ゾゾタウン」に絞ったこと。加えて「名前は明かせないけど、大学や研究機関に所属する同世代の優秀なAI研究者やエンジニアの協力を得られた事が大きい。とにかく色々なツテを辿って声をかけた。AI自体の進化と予測不能と言われてきたファッションの組み合わせが、同世代の研究者たちの好奇心にマッチした」。

「ベストリー」の特徴は「他のAI在庫管理ツールに比べて圧倒的に使用料が安く、しかも使い勝手がいいこと。しかも精度も高い」。この点ではアンティローザと組めたことも大きい。同社はカテゴリやトレンドとインフルエンサーを自在に組み合わせることで、スピーディかつ多彩なブランドを立ち上げており、すでに数十ブランドを運営している。「ベストリー」は、こうした小規模で小回りを聞くブランド運営にフィットする形で磨き上げられていった。

「ベストリー」を採用している企業は現時点で約100ブランド、「来年には500ブランドを狙う」と意気込む。安価で使い勝手のいい在庫予測サービスは、年商数千万円〜数億円から次のステップを狙うブランドにとって、まさに喉から手が欲しいほどサービスだ。そうしたブランドの多くは、インフルエンサーがSNSを駆使して認知度とファンダムを形成し、大半がネット通販を通して販売するネット専業のブランドになる。「システムの完成度はかなり上がった。これからは営業をかけて採用数を増やすフェーズ。一気に駆け上がりたい」という。そんな兼松代表が注目しているのは、yutoriだ。「僕らの世代でアパレルで起業している人間なら誰もがそうだと思います。yutoriの片石貴展社長からはブランドの運営手法や経営哲学まで、常にインスピレーションを受けまくっています」。

起業のきっかけは「父の背中」

兼松さんは5年生なので、来年には医師の国家試験が控える。「来年は事業成長のためのいいタイミング。休学を検討している」という。しかし、そもそもなぜ起業したのか。「実は起業するまでは和光市(埼玉県)の実家から通学してたんです。父は大手企業から脱サラして会社を経営しているんですが、苦労する姿を見たこともあった。医学部なので学費は他の学部よりもずっと高い。そんな父の姿を見てきて、3年生のときに自分は今まで何も考えず、苦労もせず学生をやってきたけど、これでいいのだろうか。自分でもお金を稼いでやろうって思ったんです」。最初に参画してもらったのは、高校の同級生やバイト先の先輩・後輩とその友人、知り合いの知り合いなど。「とにかく必死でした(笑)。ビジネスをやっている、興味があるという人がいれば紹介してもらって話して、そんな感じで仲間を集めました」。

いろいろと挑戦し、「学費くらい自分で稼いでやろうと思っていたのに結局はダメでした。やっぱり父はすごい。でも、せめて起業して形になるまでは諦めるもんか、学業と両立しながらできるところまでやってやろうって」。今年ようやくVCから資金を得られ、サービスの精度も上がった。「今も一番尊敬しているのは父です。医者の道ももちろん全然諦めてないけど、来年1年は思いっきりやってみようと思ってます。父の背中をもう少しだけ追ってみたいんです」。

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