WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回も、第13話を取り上げます。
初回配分は当たらない? 物流費を惜しんで値下げ損?
前回は「“個店売れ筋”軽視に眠る売上拡大の伸びしろ」をテーマに解説しましたが、今回は「店間移動」について掘り下げます。
マンガ「在庫管理の魔術」の第13話は コチラ 。
第13話では、ある店で欠品している商品の68%は他の店でダブついていて、その過剰在庫を必要な店舗に取り寄せれば欠品率は10%まで下げられるという話がありました。
多店舗展開するチェーンストアでは、ある店舗でダブついている商品を、欠品しているあるいは欠品しそうな別の店舗に在庫移動させることを「店間移動」と呼びます。
仕入れた商品の店舗への在庫配分は、小規模事業であればバイヤーが自らが、中規模になるとディストリビューターや在庫コントローラーなどの担当者が販売予測に基づいて行いますが、未来の需要は、どんなに時間をかけて、根を詰めて計算しても、はたまた最新AIを持ってしても、正確に当てることはできません。
しかし、多くのチェーンストアの話を聞くと、担当者がこの初回配分、つまり予測精度を高めようと躍起になっているのが現実です。
さらに、倉庫に在庫が残っているのなら、他店に取られる前に確保してしまおうと、店舗が追加要望して過剰に自店に在庫を抱え込んでいるケースもあります。すると、発売間もなく倉庫に残した補充用在庫が底をつきます。
ある店舗では欠品、ある店舗では過剰という現象は、そんな予測できない需要に対して、配分担当者が欠品させまい、と多めに在庫を積み込んだり、店舗が自店に抱え込むことの積み重ねで起こっているのです。
その対処として行われるのが店間移動です。
店間移動にはもちろん、輸送コストがかかります。そのため、その在庫移動は本当にコストをかけてまでやる必要があるのか?が問題になり、物流経費だけを見ている管理部門からストップがかかったり、一方、店舗が他で売れる商品なら自店に置いておこうと、移動指示に従わないこともあります。その結果、せっかくプロパーで売れる販売チャンスを逃しているケースも少なくありません。
参考にすべき、しまむらの割り切り
この店間移動の是非は多くの会社で議論されていますが、業界の中には、積極活用している会社があります。その一つがファッションセンターしまむらを展開するしまむら社です。同社では、初回配分の予測なんて当たりっこない、であれば売り始めてから、店舗間で在庫の過不足を調整すればよいと割り切ります。
初回配分はほぼ一律同数を全店に配分しそして、商品ごとの実際の売れ行きを見て、すぐに売れて欠品する店に、売れずに滞留している店から在庫を店間移動(同社では店間移送と呼ぶ)させて需要にあわせて在庫を最適化することをルーティン業務にしています。
この業務は仕入れを行うバイヤーと二人三脚で、入荷後の在庫の売り切りの責任を持つ在庫コントローラーが行いますが、彼らは商品を入荷後約1カ月で、売り切るためにデータを見ながら適品適所適量を実現し、できるだけ値下をせずに売り切るのがミッションです。
独自で設計したシステムと自ら地域ごとに張り巡らせたトラック便網のインフラをフル活用し店間移動を頻繁に実施します。当然、物流費はかかりますが、同社では店間移動は無駄なコストではなく、それにかかる物流費はプロパー販売チャンスを逃すことで被る値下げロスに比べたら断然安いと考えます。
店間移動の賜物で、同社は、日本のアパレル企業の中でも最も値下率が低い、つまりプロパー消化率の最も高い会社の1社になっています。
さて、みなさんの会社では、店間移動をどう考えているでしょうか?