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連載 齊藤孝浩の儲けの秘訣 第11回

欠品しているのに在庫が余るのはなぜか? 店舗と本部の信頼関係から生まれる発注精度の向上

WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回は、第11話を取り上げます。

欠品と余剰が同時に起こるカラクリとは

今回のテーマは「欠品しているのに在庫が余るのはなぜか?店舗と本部の信頼関係から生まれる発注精度の向上」です。

マンガ「在庫管理の魔術」の第11話は コチラ

チェーンストアにおいて、バイヤー(仕入れ担当者)は実際の需要よりも多めに商品を発注する傾向があります。その背景には、店舗で欠品が発生すると販売チャンスを逃すことになるため、多少多めに仕入れておこうという意識があるためです。また、店舗に商品を配分するディストリビューターや在庫コントローラーも、欠品によって営業側から指摘されることを恐れ、初回配分を厚くする傾向があります。

その結果として、一部の店舗ではよく売れて欠品を起こし、倉庫には補充在庫がなくなる。一方で、売れ行きが鈍い店舗には商品が過剰に残ってしまう。この在庫の偏りこそが、チェーン全体で在庫が過多になる大きな原因となっているのです。

さらに問題を深刻にするのが、欠品を起こした店舗からの「売れ筋が欠品しているので売上目標が達成できない」という苦情に対し、バイヤーが追加発注してしまうこと。こうして、チェーン全体として実需を上回る在庫が積み上がっていくのです。

そもそも、店舗の最重要ミッションは売上目標の達成であり、そのためには売れ筋商品を切らすことは避けたいものです。だからこそ、倉庫に在庫があると知れば、他店に取られる前に、自店の分を確保しようと多めに在庫を抱えがちになります。しかし、これが結果的に、各店の過剰在庫を生む原因にもなっています。

では、もし「売れた分だけが翌日に必ず届く」体制が整っていたらどうでしょうか。店舗側から見れば、必要な時に必要な商品が必要な分だけ届くという信頼があれば、不安からくる過剰在庫の確保は不要になります。言い換えれば、本部と店舗の間に「適時適量で在庫が補充される」という信頼関係が築かれていないからこそ、現場は自衛的に在庫を抱え込んでしまうのです。

仕入れ担当者の発注精度を高めるには

過剰在庫問題の解決には、まずこの信頼の土台を築くことが不可欠です。そしてそのためには、仕入れ担当者が発注量を高い精度で見極められることが求められます。仕入れ精度が低ければ、いくら配送体制を整えても、結局は欠品と余剰が同時に発生してしまいます。

仕入れ担当者の発注精度を高めるにはどうしたらいいのか?これはよく経営者の方々から受ける相談のひとつです。しかし、ここで誤解してはならないのは、「仕入れ精度の向上=担当者の経験や勘の熟練化」ではないという点です。実際には、店舗在庫が最適化されていなければ、正しい全体需要を把握することはできません。逆に言えば、店舗在庫が適正であれば、全店の需要と倉庫在庫から計算できる“本当に必要な量”をバイヤーが見極めやすくなります。実は、これが、仕入れの精度を高めるための第一歩なのです。

今回のストーリーでも、よく在庫管理のテキストに書いてある「安全在庫」や「リードタイム」に関する基本原則が登場します。たしかに理屈としては正しいのですが、実際の現場では理論通りにやっていても欠品や過剰在庫がなくならないことは多々あります。その背景には、担当者や現場が「欠品を恐れるあまり余計に在庫を持ってしまう」という行動心理があるのです。

欠品と過剰在庫を本質的に解消するためには、発注精度のスキルの向上だけでなく、それを支える店舗と本部の信頼関係と店舗在庫の最適化が必要です。まずは本部と店舗の相互理解を深め、現場に「安心して任せられる」環境を整えること。それこそが、発注精度を高め、在庫問題の本質的な解決につながる第一歩なのです。

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