WWDJAPAN.comは4月までマンガ版「ザ・ゴールシリーズ 在庫管理の魔術」を連載していました。在庫過剰に陥ると、つい値下げセールに頼ってしまう――。しかし、本当にそれしか方法はないのか? 利益を高め、最大化するための解決策を、アパレル在庫最適化コンサルで「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」等の著者である齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、同マンガを読みながら、解説して行きます。今回は第15話を読んでの業界裏話のエピソードその2です。
小ロット短サイクルが生み出す恩恵
外部とのミスマッチを解消するために、サプライヤーと交渉中に、小ロットを短納期で発注することがサプライヤーのWINにつながることに気が付いて目から鱗が落ちた、あい。
「店舗が増え、発注量が増えるほど、バイイングパワーが強まり、サプライヤーに対して有利になる」ーーアパレル業界の多くの経営者が疑わない、この“常識”。しかし、それは本当に“得”だったのでしょうか?
売り上げは上がっているのに、在庫は回らず、キャッシュも苦しい。本当に得していたのは、一体誰なのか?この問いをきっかけに、バイヤーのあいが気づいた発注の本質と、サプライチェーンを変える鍵を探ります。
今回のテーマは 「本当に得しているのは誰?――バイイングパワーの落とし穴」です。
マンガ「在庫管理の魔術」の第15話は コチラ 。
店舗が増え、会社の規模が大きくなればたくさん発注できる。バイイングパワーが大きくなれば仕入先との交渉は優位進めることができ、安く買える。これはバイヤーも経営者も、誰も疑わないことでしょう。
メーカーの営業も、価格交渉には応じなければなりませんが、1回でビッグオーダーを得ることができれば、上司から褒められ、生産工場のキャパを埋めることができてひと安心。工場長も、まとめ生産で稼働率も生産効率も良くなりそうで、良いことずくめに聞こえます。
ところが裏を返すと、バイヤーがすぐに売れない大量在庫を引き取ることで、会社は市場が変化した時に、柔軟に対応できない在庫リスクを抱え込むことになります。いつの間にか、在庫回転率は悪化し、値下げや在庫処分による利益率低下のリスクにさらされます。
メーカー側にとっても、まとめ受注、まとめ生産ができる一方、まとめて納品をしなければならず、納品が完了するまで、工場や倉庫には仕掛品や出荷待ち在庫が積み上がります。まとめて納品しなければ、お金は払ってもらえず、キャッシュフローが悪化するリスクをはらみます。
アジアの新興国で生産工場が欧米から10万、100万単位のオーダーを受けても、縫子さんの給料の未払いの問題が起こるのは、実はこういった事情もあるのです。
ビジネスが上手く行く、キャッシュフローを良くするのは、実は大量生産ではなく、小ロット、短サイクルのQR生産。そんなことを口にしたら、いまどきメーカーいじめ?サステナブルではない、と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、それは、とんでもない誤解です。
実は、つくった分だけ、小分けにして、すぐに引き取ってもらえ、代金を支払ってくれるなら……サプライヤーは非常に助かるのです。なぜなら、経営者が経営で一番困っているのは、資金繰り=キャッシュフローだからです。
「ザラ」や「シーイン」に学ぶ
世界一のアパレルチェーンである「ザラ(ZARA)」は、多品種小ロット短サイクルで生産を行います。デザインはもちろん、型紙づくり、縫製サンプルも自ら行い、裁断した生地を付属と一緒に、縫ってもらえればよい状態にして、縫製工場に持ち込み、数週間以内に縫って納品してくれと依頼します。縫いあがった商品は自ら回収し、仕上げをして、世界の店舗に配送します。
今や「ザラ」を抜いて世界一の売上高になったと目される、中国発越境ECの「シーイン(SHEIN)」は、1オーダーたった100枚単位の発注を素材や付属品の指定調達先と引き取り期限を明記した上で、サプライヤーには、約1週間で納品するように求めます。
「ザラ」にしても、「シーイン」にしても、規模が大きくなるにつれて、商品あたりの発注数量を増やしたかというとそうではありません。「ザラ」は店舗を増やしている時は、店舗増加分は増やしたようですが、1店舗あたり3週分の発注量はけして増やしていません。「シーイン」に至っては、むしろ、当初100枚だった標準生産ロットを、100枚でも売れ残る商品があるからと、初回は60〜80枚しか発注しない商品が増えているそうです。
彼らがやっていることは、単にロットを小さくすることが目的ではなく、サプライヤーに速く納品してもらい、速く店頭やサイトに並べて市場に問い、速く売って、代金を速くサプライヤーに支払うことを考えます。
この話をアパレル業界の方々にすると、みんな驚くんですよ。規模が大きくなった会社は発注量を増やすかわりに、バイヤーはサプライヤーに対して横柄になり、無理難題を押し付けているのではないか?と考えてしまうからです。
ところが、実態はその逆なのです。そんな話を、異業種のTPS(トヨタ生産方式)やリーンやTOC(制約理論)と呼ばれる手法が普及している業界の方々と語りあうと、この「ザラ」や「シーイン」のやり方こそが、製販が共存するための持続可能な常識であると告げられます。それは、小ロット、短サイクルで生産を回すことがサプライチェーン全体の流れを良くすることと、分かっているからです。
かつてのアパレル業界の常識は非常識なのでしょうか?小ロット短サイクル生産で在庫とお金の流れを良くすることが、製販WIN-WINの秘訣であることを知って、そんな取引条件を広げるハンナズのあいたちの未来には、これから、どんなことが待っているのでしょうか?