YKKが主催する、2001年にスタートした学生向けファッションデザインコンテスト「YKKファスニングアワード」が25周年を迎えた。11月18日には25周年イベントを行い、東京・恵比寿 ザ・ガーデンホールで今年度の授賞式に加えて、審査員の廣川玉枝デザイナーの「ソマルタ(SOMARTA)」や館鼻則孝氏、過去受賞者の丸龍文人デザイナーによる「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」、石田萌デザイナーによる「ホウガ(HOUGA)」、Kokiブランドディレクターによる「コッキ(KHOKI)」などのファッションショーが盛大に行われた。
「YKKファスニングアワード」は、YKKが開発するファスナーやバックル、面ファスナー、スナップ&ボタンの副資材を使うことを条件とした、世界的にもユニークかつ注目度の高い企業コンテストだ。ファッションアイテムには欠かせない副資材を主役に、斬新な使い方やクリエイティブな表現方法を基準としたアパレルとファッショングッズを、デザイン性と機能性、独創性、完成度の4軸で審査。学生の創造力が、副資材の多様な可能性を引き出してきたことから、若手クリエイターの登竜門としても広く知られ、これまでに多くのクリエイターを輩出。これまでの累計応募総数は14万7304点に達している。
今年はさらにリユースやリサイクル、リメイク、アップサイクルなどに観点から「サーキュラーデザイン特別賞」を新設。サーキュラーエコノミー実現を目指す「YKKサステナビリティビジョン2050」にも通じる、資源の持続的な利用を促進するモノ作りをサポートしていくYKKの新たな挑戦でもある。グランプリと「サーキュラーデザイン特別賞」をダブル受賞した文化服装学院の今野奏さんの作品「Re Tree」について、審査員でデザイナーの藤田恭一氏は「木の樹皮をYKKのファスナーとテクノロジーを使い、膨らみや縮み、歪みを丁寧に表現した技術と感性は、自然の力強さもリアルに感じる。これからAIと人、自然の共存が求められていく中で、彼女の繊細なこだわりが未来へのメッセージとなり、この『YKKファスニングアワード』にふさわしい作品になっている」と評した。
「YKKファスニングアワード」の特徴は、YKKの副資材を“いかに機能的かつ創造的に生かすか”というミッションにある。創造力だけでなく、現実の制約を踏まえながら形にしていく実践的なプロセスが求められ、学生はメンター制度を通じてYKKスタッフと対話しながら素材理解を深める。入選者はショー演出家と作品の見せ方を直接やり取りし、トップクリエイターから講評を受けるなど、学校だけでは得られない経験を積むことができる。
11年に優秀賞を受賞した「ホウガ」の石田デザイナーは、「副資材をメーンとした制作は学生時代では貴重な経験だった。また大舞台でのショー発表もデザイナーとして大きな夢の実現にもなり、今もその機会を積めたことに感謝している」と振り返った。
30年にわたり国内外のファッションショーの演出を担ってきた辻井宏昌氏は、「YKKファスニングアワードには9年前に審査員でアーティストの舘鼻則孝さんとデザイナーの廣川玉枝さんから依頼を受け、ずっと続けてきた。これまで培ってきたショーのノウハウを全注入した。アワード参加学生には卒業してプロになったときにこのショーを超えてほしいし、ショーを見る側にとってもいつかここでショーを披露したいと憧れられるようなステージにしたい、そんな気持ちでやってきた。卒業後にデザイナーとしてブランドを立ち上げたかつての学生から依頼を受け、ショーディレクターを務めたこともある。石田さんとも17年のYKKファスニングアワードのゲストコレクションで繋がりが生まれ、その後『ホウガ』のショーディレクターを担った。次世代を育てるこのアワードにライフワークとして取り組んでいる」という。
25周年を迎えた現在、YKKはアワードの国際的発信力を強化し、若手クリエイターの育成をより広い視点で推進している。松嶋耕一YKK社長は「YKKは昨年で創業90周年を迎え、今後も100年、150年を目指している。『YKKファスニングアワード』も日本のファッション業界の発展に寄与したいという思いで25年を積み重ねてきた。次の50周年を目指していく」と語る。