NNDタライエ氏「循環の実装には“マインドセットの転換”が必要」
冒頭、ファラ・タライエNNDファウンダーは、イベントの目的を「マインドセットを変えること」「実務者が経験を共有できる場にすること」「対話から予期せぬ発見を生むこと」と示した。講演を聞くだけでは変化が起きない、その認識のもとワークショップ形式を中心に設計したという。続けて、同ファウンダーは日本の建材循環の現状を分析。建材由来の温室効果ガス排出は全体の約30%を占め、2035年には建材廃棄物が32億トン増えると予測されることや、リサイクルはわずか5%である現状、資材データ整備は国際順位29位、企業間の協働やDX化の指標は59位などと、先進国の中でも最低水準にあることに触れ、「大企業が“自社だけ”で解決しようとしては諦めるサイクルを繰り返したことが、イノベーションを止めてきた」と問題提起した。
続いて登壇した早稲田大学の石田航星准教授は、日本の建設業が抱える根源的な課題として「標準化アレルギー」を挙げた。外装材も天井材も特注が当たり前になっていることで、建材の取り外しや再利用が極めて難しくなっている。特注品が値引きを避ける手段としても活用されてきた背景もあり、循環の阻害要因として構造的に固定化されてきた。「建材・設備は“最後のシェア領域”。社会実装の条件は整った。いまこそ循環型建築を実現する絶好のタイミング」と述べ、2026年から早稲田大学で立ち上がる「サーキュラー不動産コンソーシアム」では実証棟を建て、循環前提の設計モデルを構築する計画を明らかにした。
“経済合理性 × コミュニケーション × 未来視点”が循環実装の鍵
続く鼎談では、米倉誠一郎 一橋大学名誉教授、ファラ ファウンダー、のぞみエナジーの日比保史社ヘッド・オブ・サステナビリティが、循環型建材の実装を進めるためのディスカッションを行った。米倉名誉教授は、循環が進まない最大の理由として「経済合理性の理解不足」を挙げた。新品の建材が未使用のまま廃棄される現状に対し、「壊すビルの資材を近隣へ回すだけで、CO₂も輸送距離もコストも確実に下がる。サステナは“儲かる”からこそ広がる」と強調。循環を進めるには、コスト削減効果と利益配分まで具体的に可視化することが欠かせないと語った。ファラ ファウンダーは、技術以前に「コミュニケーション断絶」こそが循環の障壁だと指摘した。部門間の対話が閉じ、意思決定が遅れることで、建材循環は進まない。「日本には“もったいない”という最強のサステナ文化があるのに、それが活かされていない」と話し、スタートアップと大企業の“速度差”を埋める必要性にも触れた。日比氏は、建築の専門家が素材そのものには精通している一方で、CO₂フットプリントや輸送距離といった環境負荷を瞬時に判断する文化がまだ弱いと指摘し、「未来視点の欠如」が循環の実装を遅らせていると述べた。
これらのトークを経て、第2部では、参加者がグループに分かれ、建築資材の循環に向けた課題と解決アクションを導き出すワークショップを実施した。建設業に関わる多様な立場の参加者が、具体的な課題に対して意見を交わし、協働の可能性を探った。
「matinno」は、NNDが展開するサステナブルな建築資材のためのプラットフォームだ。ファラ ファウンダーはイベントの中で、本プラットフォームを生かし、大阪万博パビリオン3棟で発生した5トンの資材を協力会社とともに1週間以内にリサイクルにつなげた実績を紹介。資材情報のアップロードからマッチング、再利用先の可視化、解体前のAI予測までを一気通貫で担うかなど、“どこに何があり、どこへ流せるか”をDXで示すことで、日本が長年抱えてきた「資源輸入 → 使い捨て → 再輸入」という非循環型の構造を変える起点としたいビジョンを示した。
