ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。ファッション業界でもAI(人工知能)を活用する企業が増えている。最も期待されるのが、個人の経験値に委ねられがちだった在庫運用だろう。各社が頭を痛めてきた在庫運用は、AIの発展によって改善に向かうのか。小島氏はその前に解決しておかなければならないことがあると話す。
AIの進化は加速度的でアパレル業界では在庫運用まで任せてしまう段階に来ているが、その前に根源的な要件を決断する必要がある。在庫運用システムはアルゴリズム設定型からAIによるアルゴリズム学習型へと進化しているが、根源的要件を見極めないまま導入しては期待する成果が得られないからだ。
在庫運用のプロセスとロジスティクスを見極める
1月21日掲載の 「アパレルの在庫問題を解決する『ロジスティクス革新』」 で詳説したように、アパレルチェーンのロジスティクスは(1)初期配分、(2)DC※1.からの自動補充、(3)ローカル※2.テザリング(在庫融通の店間移動)、(4)売り切り店舗への集約と売価変更――以上の4段階で売り切っていくのが定石だが、事業体制によってプロセスは異なる。
「ファッションセンターしまむら(以下、しまむら)」のような「横売り」※3.型ではTCからの蒔き切りで(2)DCからの自動補充はなく、TCを軸としたルート便による(3)ローカルテザリングで欠品を回避して消化を進める。「縦売り」型のような奥行きのある配分はせず(外衣は高効率店や定番パッケージ商品を除きSKUあたり1〜2点)店内後方にも補充在庫は持たないから、(3)ローカルテザリングも客注移動的な1点単位で、同一店内での集約編集が基本となっており、(4)売り切り店舗への集約も例外的と思われる。
「ユニクロ」のような「縦売り」型では「欠品防止」が至上だから、奥行きの深い売場在庫(SKUあたり6〜12点)と補充用の店内後方ストックに加え、消費地DCにも店舗在庫の1.5倍ほどを積んでいる。BS(バランスシート)に計上される在庫はそこまでだが、計画生産して消費地倉庫への出荷を待つ在庫が生産地倉庫に積まれており、シーズン直前からシーズンピークにかけて消費地倉庫に移送されていく。(1)初期配分、(2)DCからの自動補充、(4)売り切り店舗への集約と売価変更が基本で、DCに十分な補給在庫を積んでいるから(3)ローカルテザリングは例外的運用と推察する。
単価の高いブランドビジネスはもちろん、アパレルチェーンでも店舗数が少なく全国にドミナントを形成していない場合は中央のDCから補給する「セントラルロジスティクス」が選択されるが、物流のリードタイムが長く物流費もかさむから、在庫運用の機動性には限界がある。中〜低価格で全国にドミナントを形成しているアパレルチェーンでは、各リージョナルにTCやDCを配して配分・補給・テザリングを行う「リージョナルロジスティクス」が選択されるが、こちらの方が物流のリードタイムが短く物流費も格段に抑制できるから機動的な在庫運用が可能になる。
かつては高価格な百貨店ブランドでも支店軸で機動的に在庫を振り回すローカルテザリングが行われていたが、地方百貨店の凋落とともに支店が廃止されていき、ECの拡大もあって今日では大手アパレルでも「セントラルロジスティクス」に集約されている。その一方、従来は「しまむら」やコンビニなど全国に千店前後から数千店、数万店を展開するチェーンに限られていた「リージョナルロジスティクス」も、物流費の高騰やOMO※4.の拡充で数百店展開のチェーンでも遠隔地商圏にDCやTCを配して部分的に取り入れるケースが出てきている。
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