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連載 齊藤孝浩の業界のミカタ 第79回

「ユニクロ」グローバルブームの真相 旗艦店×ECが引き起こす“売上高3兆円の方程式”

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企業が期ごとに発表する決算書には、その企業を知る上で重要な数字やメッセージが記されている。企業分析を続けるプロは、どこに目をつけ、何を読み取るのか。この連載では齊藤孝浩ディマンドワークス代表が、企業の決算書やリポートなどを読む際にどこに注目し、どう解釈するかを明かしていく。今回はファーストリテイリング最新決算のハイライトを紹介する。(この記事は「WWDJAPAN」2025年11月17日号からの抜粋です)

2025年8月期のファーストリテイリング決算が発表されました。これまで柳井正会長は業績が良くてもあまり手放しで喜ばない感じでしたが、今回はうれしそうな印象を受けました。

さて、売上高に相当する売上収益は、前期比9.6%増の3兆4005億円、営業利益が同12.6%増の5642億円で過去最高売上高および最高益の更新です。いい結果だと思います。

注目したのは、4期連続で過去最高業績を更新した国内ユニクロと、欧米市場の躍進です。

ユニクロ事業 地域別売上収益の推移

まず、国内ユニクロは、シーズン末でも利益を出せる体質が確立しました。長年、「秋冬(特に第1四半期:9~11月期)で儲け、夏(第4四半期:6〜8月期)、つまり期末で利益を減らす体質」と指摘してきましたが、「もう誰にも文句は言わせないぞ」という域にまで到達しました。24年8月期で営業利益率13.3%まできていましたが、25年8月期は15.5%まで上げてきました。値下げを抑えたことと、販売効率と生産性を高めたこと、その結果、販売管理費率が改善したことがその要因です。引き続き店舗数を減らしていますが、売り場面積を拡大し、販売効率と1人当たりの売上高を上げることによって販管比率が人件費を中心に1.2%下がりました。

前年も話題にしましたが、夏物を売りさばけなかったとしても、東南アジアやオーストラリアなど、夏物が売れる場所に持っていけばいいので、最後の最後まで値下げせず、しっかり利益を稼げています。また、戦略的にシーズンをまたいで売れる商品を強化しています。それも売り切るための値下げが減った要因です。

販売効率においては、まず店舗を減らして、売り場面積を拡大し、1店舗年間11億円を売るようになりました。24年8月期から10%ほど伸びています。同時に平均稼働従業員数を減らしており、1人当たりの年間売上高が4200万円に10%も伸びています。24年8月期の3800万円でもびっくりしたのに、驚異的です。レジの無人化が一番効果があったでしょうが、少ない人員で回せるオペレーションの努力を続け、さらに生産性を上げたと思われます。

ユニクロ事業 地域別売上収益と営業利益の変化

もう1つの北米と欧州市場の躍進は、3年前と前期の地域別の売上高と営業利益、そしてその割合を比較すると明らかです。

この3年間の年平均成長率は日本が8.5%、グレーター・チャイナが7.3%ですが、欧州は56.0%、北米は43.2%です。韓国・東南アジア・インド・豪州も36.7%と高いですが、欧州と北米の伸びが際立っています。引き続き国内ユニクロの売上高と利益が突出していますが、海外については、グレーターチャイナ、東南アジアその他、欧米でちょうど3分の1ずつとバランスの取れた収益構造になりました。

決算会見で、柳井会長は、「国内で売上高が1000億円から3000億円になった時に『ユニクロ』のフリースブームがあった。その後に、そこから1兆円になる時には“ウルトラライトダウン”や“ヒートテック”などのヒット商品がありました。そして今、1兆円から3兆円になる時にはグローバル旗艦店を核にしたブームが起こっている」というようなコメントをしていました。つまり今、第3次ブームが来ていると。

北米では3年間で22店舗と一気に店舗を増やしたことで「ユニクロ」の知名度が上がったようです。会見でも「旗艦店を出すとそれに付随して、その周辺地域でのECもものすごく伸びる効果があるので、この政策を進めていく」とし、カリフォルニアなどでのオープン時のにぎわいを盛んにアピールしていました。投資家からは低調な中国に関する質問が多かったですが。

「成長期」と「ブーム」の違い

一般的に、前年対比の伸び率が25%を超えるのが2、3年ぐらい続くと、そこからが「成長期」とされます。「成長期」と「ブーム」は何が違うかというと、前年対比25%増の成長だったら、ある程度想像がついて調達などもできますが、それを大きく上回っているということなんですよね。
 基本的に最初から計画の50%増で商品の仕入れをするなんて無茶をするわけがないので、ブームの時は在庫が追いつかなくて店頭では欠品が起こっているものです。欠品が起こるときは、値引きする必要がないわけで、そうすると計画よりも利益率が上がります。つまりブーム時は予想以上に利益率が高い成長が続いている状態ということなんです。

ただ、ブームが来ると、フリースブームの時のように、反動が来るわけですよね。一気にアクセルを踏むと、在庫過剰になり、値下げしてブランドの価値が落ちる―みたいなことが反動としてやってきます。「ユニクロ」はすでに、国内で体験済みですよね。だからあえて「ブーム」という言葉を使っているのかもしれません。浮かれているのではなく、「あの時と同じことが起こるから気をつけろよ」と社員に対して言っているふうにも聞こえました。

欧州の店舗は3年間で5店舗しか増やしていません。北米と同じような対応をするか、今後の動きが興味深いです。中国については景気の要因が一番大きいと思いますが、ユニクロの本質である「個店経営」と「SKU管理」を徹底するために日本から優秀なスタッフを送り込んで対応すると言っていました。欧米含め海外事業がバランスよく利益も稼げるようになってきたので、ある意味、課題である中国にフォーカスはしやすくなったのではないでしょうか。

日本国内も少ないスタッフで店舗を回せるようになってきているので、選抜チームが中国に行って活躍するような構図をさらに推し進めていくと予想します。

国内がダメなのを海外でカバーするのではなく、国内が最も強いというところが、「ユニクロ」の底力だなと感じた決算発表でした。

最近気になっているのは
大学ラグビー優勝争い

対抗戦は例年、帝京、早稲田、明治の三つ巴ですが、今年は筑波の仕上がりが良く4校が優勝争いをしています。12月の早明戦まで目が離せなくなりそうです。これまで、ユーチューブのハイライトを見ることが多かったですが、とうとうJSPORTをサブスクし始めました。年明けの大学選手権も楽しみです。

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表

齊藤孝浩/ディマンドワークス代表 プロフィール

PROFILE:1988年、明治大学商学部卒業。大手総合商社アパレル部門に勤め10年目に退職。米国のベンチャー企業で1年勤務し、年商100億円規模のカジュアルチェーンへ。2004年にディマンドワークス設立。ワンブランドで年商100億円を目指すファッション専門店の店頭在庫最適化のための人材育成を支援。著書に「ユニクロ対ZARA」「アパレル・サバイバル」「図解アパレルゲームチェンジャー」など。「ユニクロのファストリは世界2位目前です。ユニクロはグローバルでは国内と違った戦い方をしていますが本質は国内ユニクロ事業にあります。あらためてユニクロの基本を拙著『ユニクロ対ZARA』から学び直していただければ幸いです」

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