
ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、ファッション&ビューティと小売りの視点で中国専門ジャーナリストの高口康太さんが分かりやすくお届けします。今回は「中国スタバ苦戦の背景」です。中国事業の株式の4割を現地ファンドに売却したスターバックス。その背景を、消費トレンドの変化と現地の外食王「火鍋のハイディーラオ」の業績分析とともにリポートしています。
(この記事は「WWDJAPAN」2025年11月17日号の転載です)
米コーヒーショップ・チェーン大手のスターバックスは11月3日、中国事業の売却を発表した。中国投資ファンドの博裕資本(ボーユー・キャピタル)が株式の6割を取得、残る4割はスタバが保持する。2017年にマクドナルドが中国事業を現地資本のCITIC(中信集団)に売却し、業績が回復したという事例がある。スタバも業績回復には“中国流”が不可避との判断を下したわけだ。
スタバの中国事業はなぜ苦戦していたのだろうか。「中国地元ブランドとの競争激化」との解説を目にした人が多いだろう。確かにラッキンコーヒーやコッティコーヒーなど中国企業は、スタバよりも安く、バズりを目指して気になる新商品を続々投入し、デリバリー専門店舗など配送対応を強化して成長を続けている。特に目を見張るのが出店数だ。1999年に中国に進出したスタバの約8000店舗に対し、2017年設立のラッキンは2万6000店舗、22年スタートのコッティは1万3000店舗と圧倒している。デリバリー限定の小型店舗の展開や、内陸部や郊外での出店で差をつけた。スタバも今後は、中国流の改革を続けていくとみられる。数年後、中国のスタバを訪ねれば、看板だけは同じでも中身はまったくの別物になっているのではないか。
さて、苦戦の理由はもう少し深掘りできる。というのも10年代は低価格を求める消費者は中国ブランドに、高級感を求める人はスタバへとすみ分けができた。コロナ禍が明けた23年頃からデフレと消費低迷が始まった。節約志向が広がる中でスタバのファン層も低価格ブランドへと移行する人があらわれた。価格に敏感な消費者を食い止めるために割引クーポンなどの発行で対抗したが、それが客単価の下落につながったという流れだ。実は売り上げ自体は横ばいから微増で推移しているが、注文単価は23年以降マイナスが続いている。北米事業も不調だが、こちらは来店客数の減少が主因で、米中市場ではスタバ低迷の要因は異なる。つまり、中国ブランドとの競争は表面的な理由で、真相は経済トレンドに伴う消費者の変化にあるのだ。その荒波にさらされているのはスタバをはじめとする外資企業だけではない。「外食の王」火鍋のリーディングカンパニー、ハイディーラオ(海底捞)も今、苦しんでいる。
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