ファッション
連載 ヒキタミワの水玉上海 第17回

上海の「巨艦ルイ・ヴィトン」店舗に潜入【ヒキタミワの水玉上海】

1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は上海に出現した巨大な船形の「ルイ・ヴィトン」店舗である「ザ・ルイ」について。上海っ子でもなかなか予約が取れない同店舗の中をリポートしちゃいます。

上海に突如降臨した「巨艦店舗」

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は6月、上海・南京西路の複合施設「興業太古匯」に、世界でも類を見ない船形の旗艦店「ザ・ルイ(The Louis)」をオープンした。高さ約30m、延べ床面積1600㎡の船体は、外観全体を金属製のモノグラム装飾で覆い、まるで街の真ん中に巨大な船が停泊しているような姿を見せている。船首を思わせるシャープなフォルムは、19世紀に航海用トランクの製造から始まったブランドの伝統に敬意を払い、港町として発展してきた上海の歴史とも重なる。建物そのものが「旅」を象徴し、新しいランドマークとして街に強い存在感を放っている。

実際に現地を訪れると、外には船を背景に記念撮影をする人々が絶え間なく集まっていた。私はある週末の午後、予約が難しい「ル・カフェ ルイ・ヴィトン」に、ようやく入ることができた(娘と友人と一緒に)。カフェのエントランスを入ると、席へと続く通路の壁全体にトランクが並び、歩くだけでブランドの歴史をたどる旅が始まるようだった。席に着くと、テーブルには「LV」の刻印が入ったプレートや整えられたテーブルウェアが置かれ、特別な時間の始まりを感じさせた。

大人たちはワインやカクテル、娘はアフタヌーンティーセットを注文した。小さなケーキやサンドイッチにはルイ・ヴィトンのシグネチャーが丁寧に施され、見ているだけでワクワク、味わう前から幸せが溢れ出すその演出に、ため息さえこぼれた。さらにバルコニー席に出ると、白と青を基調にした空間が広がり、ギリシャのリゾートを思わせる開放感に包まれた。そこで口にしたカクテルは、まるで旅先にいるような気分を味わわせてくれた。

カフェの後に向かったのが、《非凡之旅(Visionary Journeys)》と題された「ルイ・ヴィトン」の精神を直接体験できるよう企画された特別な展覧会場だ。1835年、14歳のルイ・ヴィトンが生まれ故郷ジュラを離れ、徒歩でパリを目指した旅に始まる物語。1854年の創業を経て、旅行鞄からスポーツ、ファッションへと広がり、卓越した技術と革新の精神を守り続けてきた歩み。そのすべてを一つの空間でたどれる構成になっている。

展覧会の入口は狭い回廊から始まる。その先に現れたのは鏡を使ったインスタレーションで、進むと無数のトランクに囲まれているような感覚に包まれた。さらに進むとライブラリーやパフュームルームが続き、ブランドが培ってきた知識や香りの世界が広がっていた。歴代のトランク展示では、クラシックなデザインから最新のものまでが並び、その変遷から技術と美意識の積み重ねを実感できる。職人が実際に作業する工程を紹介するコーナーもあり、手仕事の正確さと緻密さに驚かされた。加えて、過去に限定販売されたユニークな形のバッグも展示され、進むごとに目を引く発見があった。足を止める暇もなく展示を巡り、ブランドの歴史と革新を一度に体験することができた。

やがて航海の終着点に着いたかのように階段を上がると、その先にはバッグやトランクをはじめ、ウィメンズやメンズのウェア、レザーグッズ、シューズ、アクセサリー、トラベル製品まで幅広いコレクションが並ぶショップ空間が広がっていた。上海限定アイテムやラゲージタグの刻印サービスも用意され、訪れる人はブランドの物語を実際に手に取れる形で持ち帰ることができる。

「ザ・ルイ」は、展覧会・ショップ・カフェを一体化した世界唯一の船形旗艦店である。上海の航運史とルイ・ヴィトンの伝統が重なり、都市の中心で世界観を丸ごと感じられる新しいランドマークとなっている。巨大な船体そのものを上海という街に持ち込んだ建築は、ブランドと都市、過去と未来を結びつけ、ルイ・ヴィトンの物語をさらに広げている。
最後に、展覧会及びカフェの予約方法はWeChatのミニプログラム「MY LV」より予約可能。カフェは満席と出ることが多いものの、時として空いているタイミングがあるので、こまめにチェックすることをお勧めする。

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