
1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回は中国で数々の話題スポットを手掛ける商業デベロッパーである新天地のイベントについて。中国の有力デベは、どう都市開発に向き合っているのでしょうか。
9月13日に上海の新天地東台里で「CREATIVE X 創意大会 2025」が開催された。主催は大手商業デベロッパー新天地/XINTIANDIとクリエイティブコンテンツプラットフォームの「TOPYS」で、テーマは「境界破り」。在地文化・公共空間・創意イノベーションを軸に、500名以上の都市クリエイターが参加した。
イベントの核は、国内外の優れたクリエイティブ人材が集い、業界の課題とトレンドについて議論し、多領域での創意的行動を推進することだ。「TOPYS」 はこれまで、クリエイターや企業担当者が集まり、業界の最先端や未来のクリエイティブ動向を議論する「MINDPARK 創意大会」を通して新しい知見を探ってきたが、今回は「都市共創者」として、より広い視野での挑戦に踏み出した。「新天地XINTIANDI」も20年以上にわたり都市商業と文化を牽引し、多くの創意集団と共に先鋭的なコンテンツを生み出してきた。

3部に分けられた「X FORUM テーマフォーラム」の第一部では「在地文化の開放と統合」では「大地芸術祭中国プロジェクト」の孫倩(スンチエン)や中国発のスペシャルティコーヒーブランド「三頓半(サンドゥンバン)」CEO呉駿(ウーシュン)、などが事例や創作を紹介。第二部「公共空間の無限と制限」の前半では、現代写真の文化発信拠点として注目されるフォトグラフィスカ(Fotografiska)総経理Christian Devillersと、英国の著名建築事務所ヘザウィック・スタジオ(Heatherwick Studio)の中国地区責任者クレイグ・ミラー(Craig Miller)らが、公共空間が経済性と市民交流を両立する新しいメディアになり得ることを論じた。後半にはコミュニティデザインや都市空間の設計に携わる「studio-L」の出野紀子さんが壇上に立ち、公園や広場などの伝統的公共空間に新たな解釈を与え、未来都市における人々の交流の可能性を示した。
私が会場に着いたのは第二部終了時で、フォーラム会場横の広間スペースには上海で人気の雲南料理屋やハンバーガーショップ、日本酒やワインなどのスタンドが並び、参加者たちが登壇者たちと楽しそうに団らんをしていた。こんなコミュニケーションができるのもこのイベントのユニークな点ではないか。
3部目の「創意イノベーションの喚起と制約」セッションでは、日本で展開を広げる「NOT A HOTEL」と、現地密着型のバーだがシェアハウスも始めた「跳海酒館(ティアオハイジウバ)」が、業態は異なるものの「オープンシェア」という共通理念を核に、地域と都市に新たな交流の場を生み出す実践を示した(「跳海酒館」は私の家の近所にあるが、まさかこんなに大きな組織だっただなんて知らなかった!)。そして最後に300年の歴史を誇る中川政七商店と新鋭コスメブランド「東辺野獣(ドンビエンイエショウ)」は「伝承」と「革新」に対する異なるアプローチを提示した。
フォーラム以外にもマーケットスタイルで展示と販売を実施。「X PART 未来街区」は未来の都市生活を試行する実験場だ。新聞スタンドでコーヒー、バス停でビール、薬局でワイン、冷ややかなはずおの金物店で布の温もりを感じる体験など…40以上のブランドが集まり、日常と商業、機能と感情の境界を破った新しい都市体験を提供した。そして、終了後のアフターパーティーでは創意とインスピレーションが絶え間なく行き交う場となった。
CREATIVE X 創意大会は、参加者にとっては体験の場、主催者にとっては挑戦、業界にとっては刺激の場となっている。この「境界破り」を出発点に、今後はアジアのイノベーション実践者を結集し、日本・韓国・タイなど各国ブランドの参加を目標としている。