1993年から上海在住のライターでメイクアップアーティストでもあるヒキタミワさんの連載「水玉上海」は、ファッションやビューティの最新トレンドや人気のグルメ&ライフスタイル情報をベテランの業界人目線でお届けします。今回はこの1〜2年で上海屈指の最旬スポットとなった「コロンビアサークル」について。新旧の建築やライフスタイルが交差する上海を満喫できるスポットを紹介します
この1〜2年で最旬スポットに躍り出た「コロンビアサークル」
上海のトレンドスポットにも流行の波がある。ここ10数年にわたり人気を維持してきたのは「ブランディ・メルビル」が店を構える安福路(アンフールー)周辺だが、個人的に2009年頃から注目していた「コロンビア・サークル(上生新所/シャンシェンシンスオ)」エリアが、ここ1~2年で一気に脚光を浴び始めた。2024年5月の労働節の連休中には、多くの観光客が訪れ、大変な賑わいを見せていた。
コロンビア・サークルは1920年代にアメリカ人向けの社交クラブとして誕生し、その後は研究施設として使用され、現在は文化・商業の複合施設として再生されている。歴史と現代が美しく調和する空間として、建築・都市再生・ライフスタイルの各分野から高い評価を得ている。
始まりは1924年、アメリカ人建築家エリオット・ハザードによる「コロンビア・カントリー・クラブ」の設計だ。当時、多くの外国人が居住していた上海では、社交や運動を楽しむための高級クラブが求められており、このクラブも屋外プールやジムを備えた社交施設として機能していた。
1930年には、ハンガリー出身の建築家ラースロー・フデックが自邸として設計した邸宅が完成。後に孫文の息子・孫科の手に渡り「孫科別墅」となったこの建物は、スペイン様式、イタリア・ルネサンス、バロック、中式庭園など多様な建築要素が融合したユニークな意匠で知られる。外観・内装共に緻密な装飾が施され、建築と歴史の調和が見事に表現されている。通常は開放されていないが、2024年春には「グッチ(GUCCI)」のバンブーシリーズの展示が行われ、ファッションピープルにも人気のスポットとなった。
1952年、この一帯は「上海生物製品研究所(SIBP)」の研究キャンパスとして再編された。敷地内には研究棟、製造工場、包装施設、倉庫、オフィスなどが建設され、以後50年以上に渡り科学研究の拠点として使用された。旧建築の一部は保存され、時代の痕跡を残したまま現代に受け継がれている。
2016年に大手不動産デベの万科がOMAと組み
大型の再開発プロジェクトを始動
転機は2016年。中国の大手不動産デベロッパーの万科(Vanke)が再開発プロジェクトを始動し、オランダの建築事務所OMAとランドスケープデザイン会社West 8の協力のもと、歴史的建築の保存と現代建築の融合を目指した。2018年には第一期が完成し、中国発のコーヒーブランド「Seesaw coffee」や多国籍のレストラン、上海発のアウトドアブランド「アンコール(An Ko Rau)」や韓国発の「コーロンスポーツ(KOLON SPORT)」などのブティック、そしてオフィスなどを含む複合施設として一般公開された。
「蔦屋書店」や人気のアウトドアブランドが出店
特に注目すべきは、1924年に建設されたクラブ本館(現在の「7号」)と、プール・ジムを含む「5号」エリアである。「7号」建物は現在「蔦屋書店」として活用されている。建物は左右対称の構成を持つスパニッシュ・ミッション・スタイルで、緩やかな勾配の屋根、アーチ型の出入口、黄砂混じりのモルタル外壁が印象的で、多くの訪問者がその美しい建築を背景に写真を撮影している。
「5号」には、現在上海で唯一残る英国規格の屋外プールがあり、当時のモザイク模様が鮮明に残る貴重な存在である。プールの周囲には太いコンクリート柱廊が四方を囲み、上部は傾斜のあるガラス屋根で覆われている。現在では、プールを囲むようにレストランやバーが並び、そのガラス屋根の下のスペースはテラス席として活用され、多くの人が水辺での食事や会話を楽しむ様子が見られる。
24年から第二期エリアもオープン
「Go Wild」なども
2024年には第二期エリアもオープンし、ブルーボトルコーヒーやアウトドアブランド「去野(Go Wild)」などの人気店舗が加わり、さらに注目を集めている。
静けさと歴史が息づくこの緑溢れる空間は、建築に関心のある人々のみならず、カフェ文化や都市再生に興味を持つ人にとっても見逃せないスポットだ。所在地は上海市長寧区延安西路1262号。上海を訪れるなら、ぜひこの都会のオアシスに足を運んでいただきたい。