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有力書店が相次ぎ閉店、「中国映え書店」の夕暮れ

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ネット通販やライブコマース、スマホ決済、ゲームなど、次々と世界最先端のテクノロジーやサービスが生まれている中国。その最新コマース事情を、中国専門ジャーナリストの高口康太さんがファッション&ビューティと小売りの視点で分かりやすく解説します。今回のテーマは、「中国映え書店」について。中国でまるで映画のセットのような美しい書店が次々とオープンし、日本でもSNSなどで大きな話題を振りまきました。その「映え書店」が相次いで閉店しています。その理由に迫ります。(この記事は「WWDJAPAN」2025年1月20日号の転載です)

「最も美しい」と話題になるも
わずか3年で閉店した「西安蔦屋書店」

西安蔦屋書店が、2024年10月に閉店した。21年3月のオープン当時は「中国で最も美しい書店」の一つと称賛され、大きな話題を呼んだものの、わずか3年半で幕を閉じることとなった。この閉店は、中国の書店業界が直面する苦境を象徴する出来事であると同時に、“映え”を武器に成長してきた大型商業施設のビジネスモデルが、転換期を迎えていることを示唆している。

出版・書店業界が苦境に立たされているのは、もはや世界的な潮流だ。スマートフォンで無数の無料コンテンツが溢れる時代、人々がわざわざ書籍を購入する動機は薄れつつある。特に中国は、他国以上に厳しい環境に置かれていると言えるだろう。理由の一つにECでの過度な価格競争が挙げられる。2023年の「618セール」(毎年6月18日に開催される大規模ネットセール)では、大手のJDドットコムが例年を上回る大幅値引きを敢行した。最大で7割引きという驚異的な価格設定は、再販制度(出版物の定価販売)が存在しない中国ならではの現象だが、これではビジネスが成り立たないと、50社を超える出版社が抗議声明を発表する事態に発展した。中国の出版調査企業の開巻が発表した「2023年図書小売市場年度報告」によれば、書籍の値引き率は前年比5ポイント増の39%に達した。発行部数は増加傾向にあるものの、過剰な値引きが直撃し、販売額は7.4%減とマイナス成長に転落している。

さらに、電子書籍の急速な普及も、紙の書籍の売り上げを圧迫している。中国のIT大手テンセントは、月額わずか19元(約400円)で、原則読み放題という破格のサブスクリプションサービスを提供。さらに、割引キャンペーンや優良読者ポイント制度などを組み合わせれば、実質月額100円程度で利用可能になる。コストパフォーマンスで、電子書籍が紙の書籍を圧倒しているのだ。

このような状況下、10年代に中国で巻き起こったのが、いわゆる“映え書店”ブームである。13年の「鐘書閣」を皮切りに、14年に「言几又」、15年には台湾の「誠品書店」が上陸するなど、斬新なデザインを売りにした大型書店チェーンが次々と誕生した。20年に中国初進出を果たした蔦屋書店は、このブームの最後尾に位置しながらも、日本での知名度を背景に大きな注目を集めた。これらの新興書店チェーンが支持を集めた最大の要因は、圧倒的な“映え”度だ。映画「ハリー・ポッター」の世界観をほうふつとさせるヨーロピアンテイスト、中国の伝統的な建築様式を取り入れたデザイン、近未来的なSFの世界を体現した空間など、まさに「美しすぎる書店」が中国各地に出現。「網紅打卡」(SNS映えするスポット)として、若者を中心に絶大な人気を博した。

“映え”の限界と
「書店+X」戦略の失敗

ただ、この“映え書店”ブームには、当初から根本的な課題が内在していた。人々は“映え”る写真を撮るために書店を訪れるものの、肝心の書籍の売り上げは伸び悩んでいたのだ。では、どのようにして収益を確保するのか?そこで打ち出されたのが、「書店+X」という戦略だった。「書店+X」とは、“映え”をフックに集客し、書籍以外の収益源を確保するビジネスモデルである。具体的には、カフェやレストランなどの飲食スペース、自習室、楽器などのカルチャースクールを併設するほか、大型商業施設がテナントとして“映え書店”を誘致し、集客の目玉とするケースも増えた。そもそも、中国のショッピングモールはデザイン性の高さを競い合ってきた歴史がある。“映え書店”は、その延長線上にある存在として受け入れられていった。

この「書店+X」戦略は、本当に持続可能なビジネスモデルだったのだろうか?“映え”を目的とした来店は、せいぜい1~2回で飽きられてしまうのが常だ。飲食スペースであれば、内装を定期的にリニューアルすることで鮮度を保てるかもしれないが、大型書店の場合はそう簡単にはいかない。果たして、どれだけの期間、集客力を維持できるのか、疑問が残る。

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