
1日の乗降者数が約100万人の名古屋駅周辺の百貨店や商業施設は集客力があり、幅広い層を獲得。1カ月で34億円を売り上げる日本最大級のバレンタイン催事などポテンシャルの高い催事も数多く存在する。一方、再開発が進む栄地区はパルコが松坂屋名古屋店と連携して2026年に“高級パルコ”を開業したり、中日ビルの建て替えが進んだりと大型プロジェクトが進行中だ。これら店舗のほか、“髪7”と形容される注目の7つのヘアサロンや、三井不動産が再開発した公園一体型の商業施設、レイヤード ヒサヤオオドリパークなどを紹介する。(この記事は「WWDJAPAN」2023年8月21日号からの抜粋です)
01. ジェイアール 名古屋タカシマヤ
D2Cブランドや話題の催事など
新たな発見・驚きを提供
名古屋駅の1日の乗降者数は約100万人。駅直結の好立地に店舗を構えるのがジェイアール名古屋タカシマヤだ。2000年に開業し、17年には商業施設、タカシマヤ ゲートタワーモールをオープン。2拠点合わせて約10万㎡の売り場を有し、開業以来成長を続ける。20、21年度はコロナ禍で落ち込んだが、22年度の売上高は前年比21.7%増の1724億円と過去最高を達成した。5月から2施設などを統括する粟野光章ジェイアール東海高島屋社長は好調の一因を「駅ナカという立地の良さや百貨店と商業施設を有し、顧客層の山が20〜30代、50〜60代と2つあり幅広い顧客を取り込めていること、バレンタイン時期のチョコレートイベント(スポット12参照)やハワイフェア、北欧展などの催事を継続性をもって実現できているのが強み」と分析する。

粟野光章(あわの みつあき)ジェイアール東海高島屋社長 プロフィール
1957年7月大阪府豊中市出身。81年4月高島屋入社。2005年3月高島屋大阪店副店長、09年3月高島屋泉北店長、19年3月高島屋代表取締役専務取締役営業本部 長ライフデザインオフィス長などを経て、23年5月から現職
日本一の売り上げを誇るブランドも数多くそろえる。ファッションでは親子で共有する人も少なくなく、アイテム別売り上げではワンピースが圧倒的に高い。「小花柄のシフォン素材のワンピース、ピンクやフリルなどを好むエレガント系を選ぶ傾向が顕著だ」。そういった傾向もあり、「アンテプリマ(ANTEPRIMA)」は全国の中で売り上げ1番店なのもうなずける。そのほかラグジュアリーのアクセサリーブランドも全国1番店となっている。そんな中で今季はトレンドがマニッシュ系に傾いていることからパンツルックが動いている。「マスクオフで外出機会が増え、ビジネスシーンに対応するためジャケットやシャツ、パンツが好調」という。それらに対応する「アンタイトル(UNTITLED)」や「アイシービー(ICB)」も全国1位の売り上げを誇る。そのほか宝飾や時計も好調で、時計の売り上げは前年を上回っている。ビューティでは「ロクシタン(L'OCCITANE)」が全国1番店だ。1階と4階に売り場を設け、1階はギフトアイテムに特化し、ハンドクリームは“おもたせ”としても人気を集め、列をなすほどにぎわいをみせる。
若い世代を取り込むため、数年前からD2Cブランドの誘致も積極的に行う。バイヤーがインスタグラムのDMでコンタクトを取り地道にアプローチ。6月にインフルエンサーの田中彩子がプロデュースするアパレルブランド「アヤコ(AYAKO)」「ジプソフィア(GYPSOHILA)」のポップアップを実施したところ、1週間で約7000万円の売り上げを達成した。「店舗に行けば新しい発見や驚きを提供できる」ような新しい芽を取り上げる施策は今後も継続して実施する。
店舗の来店者数は平日が約15万人、休日には20万人以上に上る。しかし購買率はグループ店舗と比較するとさほど高くないのが課題だ。ポイントカードからクレジットカードへ移行するなどハウスカードのランクアップを図るための取り組みを強化する。そのほか食品フロアのテコ入れも計画する。「現在、食料品売り場にも8カ所ほどポップアップスペースを確保。D2Cブランドも導入している。コンコースがあり限られた面積となるが、お土産やお弁当、酒、総菜なども伸びしろがある」と期待を寄せる。
栄地区の再開発が進むが「栄地区は面に広がる商業地区として理想的な街。一方、名駅は縦型商業施設で構成する。しかし駅西も発展すれば相乗効果が期待できるだろう。名古屋港に観光船が入港できるようになれば、インバウンド客を取り込める。栄地区と競うのではなく名古屋全体の魅力度を高めていきたい」。
02. ららぽーと名古屋みなとアクルス

名古屋人の大好物!?「愛知県初」で
イオンモールの牙城に挑む
三井不動産商業マネジメントが運営する「ららぽーと名古屋みなとアクルス」は2018年9月、営業面積5万9500㎡、217店舗で開業した。大型ショッピングモール「ららぽーと」業態で東海エリア初となった同館は、東海エリア初(当時)の「蔦屋書店」を筆頭に、「名古屋初」のテナントを導入し、2〜3年後に売上高300億円を計画していた。
名古屋は市内だけで7つのイオンモールがひしめく(スポット29参照)、いわばライバルの牙城。実際に直線距離で約6km、車で15分の距離に14年開業のイオンモール名古屋茶屋があるものの、同館の高谷紀明所長は「イオンモールは数ある競合先の1つにすぎない。重要なのは主要商圏と定めた3〜5km内のファミリー層をきっちりと掘り下げることだった」という。20年3月以降はコロナ禍で苦戦を強いられたものの、コロナ禍が収束しつつある「今年の4〜6月は開業後に掲げた目標の数字を上回って推移している」という。
好調テナントの双璧は、伊豆シャボテン動物公園プロデュースの動物と触れ合える「アニタッチ」、広大な店舗面積を持つ「アカチャンホンポ」の2つ。「4月に『ワークマン女子』、6月に『アニタッチ』をオープンし、いずれも愛知県初ということで地元テレビが取材するなど大きな話題になった。カード会員などを分析すると、20〜30代のファミリー層が厚い。きちんとミートさせると広域から集客できる」と語る。
また、武器の1つが、約900㎡の屋根付きの屋外イベントスペース「デカゴン」だ。「デカゴン」では地元の中学校や高校の吹奏楽のイベントを行うことで着実な集客施策を実施してきた。「ららぽーと名古屋みなとアクルス」は周囲10km圏内に名古屋駅や多数のイオンモールもひしめくこともあって、自動車社会といわれる名古屋にあってもコア商圏は3〜5km圏内とやや小さい。ただ、高谷所長は「繰り返しになるが、『愛知県初』のような話題性のあるテナントにはちゃんと反応がある。間もなくリニューアルの節目となる開業5〜6年目を迎え、どういった切り口にするべきか、現在検証しているところだ」。
03~09. 髪7サロン
(ユルク、ウィット、レス、シス、ローレン、ニール、テトヘアー)
狭いエリアに人気店が集中
連携して業界を盛り上げる
名古屋エリアのヘアサロンは、名古屋駅から栄地区の比較的狭いエリアに、人気サロンが集中しているのが特徴的だ。しかもそれらのサロンが連携しており、名古屋エリアのビューティカルチャーを盛り上げている。
連携を象徴するのが、大手美容ディーラーのガモウ関西が主催するフォトコンテスト「future」だ。2023年はトレンドをけん引する16サロンが参加。名古屋・栄エリアを代表する7サロン「ユルク(JURK)」「ウィット(WIT)」「レス(LESS)」「シス(SISU)」「ローレン(LOREN)」「ニール(NEELU)」「テトヘアー(TETO HAIR)」も全て参加しており、話題性の高さがうかがえる。
特徴的なのは、参加の16サロンしか作品を応募できないこと。クローズドにすることで参加人数は限られるが、互いのサロンを意識しつつ、いい意味での“ライバル意識”が盛り上がるため、23年は257作品もの応募があった。また、参加サロンのオーナーが審査員を務める美容学生部門もあり、全国から25校がエントリー。応募作品は21年が500点、22年が650点、23年が750点と右肩上がりに増えている。
そうした勢いやクリエイティブの姿勢からか、同エリアのサロンは美容学生からも人気だ。「最近の平均的な数値として、名古屋圏の1学年の美容学生数の合計が約2000人。うち約400人が東京を含む東海エリア外の美容室に就職し、約800人が名古屋・栄エリアのサロンに就職。約500人が愛知県内または東海エリアのサロンへ、という傾向がある」と、ガモウ名古屋の保谷尚俊・広域エリア営業部次長兼名古屋支店支店長は話す。全国的に見ると、就職先として都内の美容室の人気は圧倒的に高い。その東京も含めた東海エリア外に約2割しか出て行かないというのも、美容学生にとっての、名古屋圏の美容室の魅力の高さを示している。
一方、ファッションとのコラボレートへの積極性も特徴の1つだ。毎年、名古屋・栄エリアを代表するサロンが共同で、複数のアパレルブランドや百貨店とコラボレートし、「YABAコレクション」(通称、ヤバコレ)というヘア&ファッションショーを開催。今年も10月16日に開催予定で、久しぶりにコロナによる制約がないという点でも盛り上がりそうだ。
また、「ユルク」はファッションのセレクトショップを構える複合店を展開。「ヘアーアイス」は7月、8店舗目の新店としてアート・アパレル・飲食・美容の複合ショップをオープンした。業界全体の課題の1つである“ファッションとビューティの垣根を取り除く”取り組みが、一番進んでいるのは名古屋かもしれない。
10. 繊維商社(豊島、瀧定名古屋)
アパレル産業の大動脈、
繊維商社のルーツは名古屋
名古屋には、豊島や瀧定名古屋、タキヒヨーなどの大手繊維商社が本社を構える。名古屋は日本の毛織物産地である尾州(名古屋に隣接する一宮市とその周辺)や、かつて一大縫製拠点だった岐阜県と隣接しており、日本のアパレル産業におけるモノ作りのハブを担っていたためだ。激動の時代を生き抜いた繊維商社の多くは、事業領域をアパレルOEM(相手先ブランドの生産)やアパレル卸、産業資材へと広げ、今はDXなどにも力を入れている。
11. ヒサヤオオドオリパーク

アパレル、飲食など35店舗を展開、
公園も再整備
「レイヤード ヒサヤオオドオリパーク」は栄エリアを南北に縦断する久屋大通公園を、三井不動産が名古屋市から委託を受け再開発し、2020年9月に開業した公園一体型の商業施設だ。「スノーピーク(SNOW PEAK)」「タトラス(TATRAS)」、カフェを併設した「ポロ ラルフ ローレン(POLO RALPH LAUREN)」などのアパレルのほか、軽井沢の人気カフェレストラン「エロイーズカフェ(EROISE's Cafe)」、イタリアの老舗チョコ「ヴェンキ(VENCHI)」などの飲食店、全35店舗が並ぶ。開業時には35店舗のうち、22店舗が「名古屋初」、5店舗が新業態だった。
三井不動産は南北に長く広がる久屋大通公園のうち、栄地区エリアの1km、敷地面積で5万4000㎡を整備。約4000㎡の芝生広場や、周囲をケヤキで囲んだ芝生空間、名古屋市の象徴であるテレビ塔の足元に水辺を整備し、その周囲にアパレルや飲食を並べ、公園全体にさまざまな彩りを加えた。商業デベロッパーが自治体と組んで公園を再開発するプロジェクトとしては当時、日本最大級の規模。同社の担当者は「公園を軸とした街の活性化の成功事例として、多くの自治体からも高い評価をいただいている」と語る。三井不動産が自治体と組んで公園を再開発する「レイヤード」業態では、20年7月開業の東京・渋谷の「ミヤシタパーク」もある。
12. アムール・デュ・ショコラ
テーマパークのような
熱量高い催事で34億円を達成
ジェイアール名古屋タカシマヤが全国の百貨店に先駆け、2001年に催事会場で実施したバレンタイン催事「アムール・デュ・ショコラ」は日本最大級の売り上げを誇り、注目を集めている。23回目を迎えた今年は、1カ月(1月19日〜2月14日)の会期中で売上高が前年同期比42%増の34億円と過去最高を更新した。世界各国から初登場15ブランドを含む約150ブランドが集まり、約2500種類(うち限定商品は約100種類)がそろい、70万人以上が来店した。「東京の百貨店の著名なチョコレートイベントはボンボンショコラに圧倒的な強さがある。その中で『アムール・デュ・ショコラ』はボンボンショコラ、生チョコ、チョコレート菓子と多彩なアイテムをそろえ、チョコレートの祭典のようなワクワク感があるのが支持されている」と佐藤慎也ジェイアール名古屋タカシマヤ販売促進部催企画グループマネジャーは語る。同店の中でも売り上げ、規模、影響力が別格の催事となっている。
同店を代表する催事になるまでは地道な努力を積み重ねてきた。これまで百貨店のバレンタイン商戦は地下の食料品売り場や婦人服フロアにスペースを設けて開催するのが一般的だったが、同店が初めて催事会場で開催。しかし「第1回の売り上げは5000万円未満。誰も見向きもしないイベントだった」ところから、魅力的なブランドの出店交渉に必須の冷蔵ケースを大量確保し人気ブランドの招聘に成功したり、売り上げランキングを公表したりするなど独自性の高い取り組みを推進し、30億円を超える催事を実現した。
催事の規模が拡大する中で、「お客さまからどのブランド、商品を購入したらよいか分からない」という声が増えたため、12年から売り上げランキングボードを設置した。前日の売り上げ順を更新することで、人気商品が明確になるとともに、各ブランドの競争にもつながり、人気ショコラティエが連日来場したり、限定商品を打ち出したりと盛り上がりに拍車をかけた。また、毎年カタログを制作し、限定商品を中心に掲載する。カタログに付箋を貼って何度も来場する人やカタログのコレクターもいるほど、カタログの需要が高い。10〜20代女性の来場も多く、「コロナ禍以降は、買い物の仕方に変化があった。以前は狙い撃ちの1品を購入する人が多かったが、自分のためのご褒美として複数購入する人が増えた。連日来場するショコラティエにサインをもらったり、撮影してもらったりとテーマパークにいるような感覚で楽しんでもらえている」。客単価は6000〜7000円をキープする。
今年から、売り上げランキングボードを進化させ、「お客さまの推しブランド投票数と売り上げを組み合わせた総合得点トップ10を掲出した」。そのほか、9、5、4、3、1階にサテライト会場を設け展開ブランド数を前年の2倍に拡大。期間中は週ごとに商品を入れ替えたり、日替わり商品を投入したり、飽きさせない工夫を凝らす。「お客さまの期待値は高いがスタッフも熱量は負けないので、次回は新ブランドのお披露目なども含めて新しい仕掛けを考えている」と攻勢は続く。
13. ナナちゃん

名古屋のシンボル!
巨大マネキンのナナちゃん
1972年に開業した名鉄百貨店セブン館(2006年にヤング館に改称、11年に閉館)の1周年を記念して設置された巨大マネキンのナナちゃん。百貨店と縁の深いものを探している中で、東京で行われたマネキンの展示会でインパクトのある大きな人形を見つけて採用したそう。身長は6m10cmで体重は600kg。名古屋の待ち合わせ場所としても有名で、毎週のように変わるファッションも話題に上る。ナナちゃんを活用した広告メニューなども用意する。
14. 松坂屋名古屋店&名古屋パルコ
再開発で盛り上がる
栄エリアの新名所に
松坂屋名古屋店と4万㎡を超える営業面積を持つ名古屋パルコを擁する栄地区は長い間、名古屋のファッション、飲食の中心地だった。だがジェイアール名古屋タカシマヤを筆頭に名古屋駅及びその周辺の再開発が進み、今では主役の座を奪われた。
ここに来て大型の再開発がいよいよ本格化する。三菱地所やパルコ、中日新聞などは、2026年夏ごろの開業を目指し、栄地区の名古屋三越の向かいに建設を進めているのが「錦三丁目」の高さ211mに達する複合ビルだ。パルコは地下2階〜地上4階に、同じJ.フロント リテイリング傘下の松坂屋名古屋店とも連携し、高級ブランドを集積した「高級版パルコ」となるべく開発を進めているほか、上層階には高級ホテル「コンラッド・ホテルズ&リゾーツ」が入居する。斜め向かいには、建て替え中の中日ビルが24年に物販や飲食、ホテル、オフィスなどの複合ビルを24年春に開業予定。これまで、ジェイアール名古屋高島屋や高級ホテル「マリオット」などの名古屋駅前開発に押されがちだったが、大型プロジェクトが相次ぐ栄地区の巻き返しが始まりそうだ。
15. MTG

累計出荷数は1000万本超
美容ローラーの先駆者MTG
累計出荷数1000万本以上を誇る美容ローラー「リファ(REFA)」などを展開するMTGは、創業者の松下剛MTG社長が小学5年生で起業を志したことからはじまる。日本で一番の会社がある土地で勝負したいと、担任の先生に「日本一の企業は?」と尋ねたところ「トヨタ自動車で愛知県にある」と教えられ、起業するなら愛知県と決めたそうだ。ファブレスメーカーのため、日本の真ん中に位置する名古屋は、東西に移動しやすく海外へのアクセスもよくモノづくりに最適な環境という。