ビューティ

元カリスマホスト、年商20億円の社長になる 目指す頂は「ビューティ業界のLVMH」

2010年代に歌舞伎町のトップホスト“神7”に名を連ねた男がいた。源氏名は縁賀希蓮(えんがきれん)。ホストクラブでは誰よりも早く出勤し、誰よりもストイックに努力を重ね、シャンパンタワーの夜を駆け抜けた。

お金、名声、地位ーー欲しいものはすべて手に入れた。だが、心は空っぽだった。ふと蘇ったのは、かつて生死をさまよった交通事故の記憶と、44日かけて歩いた四国八十八箇所、そして“森翔太”(本名)という素の自分だった。

「人に支えられてきた人生だからこそ、恩返しをしたい」。そう決意した森が次に選んだ舞台は、美容業界。2018年、イスラエル発のスキンケアブランド「クリスティーナ」の日本総代理店としてクリスティーナジャパンを創業。またたく間に、年商20億円に迫るまで事業を成長させた。

「美容業界のLVMHを作る。誰も見たことのない景色を見せる」。ビューティビジネスの頂を目指す森は今、その挑戦への意志を自ら証明するかのように、世界最高峰・エベレストへの登頂に挑んでいる。

イスラエルの過酷な環境が生んだ
本物のコスメを“人の手”で届ける

WWD:まず、クリスティーナジャパンという会社について教えてください。

森翔太クリスティーナジャパン社長(以下、森):「クリスティーナ(CHRISTINA)」は、イスラエル発のスキンケアブランドです。砲撃や極度の乾燥といった過酷な環境で傷ついた兵士の肌を治すために生まれた製品には、科学と哲学が詰まっています。僕たちが届けたいのは、単なるスキンケアではありません。肌が変われば、自信が生まれ、未来が変わる。僕らは“人生に自信と希望を持てる未来”を売っているんです。

クリスティーナジャパンは、2018年に日本総代理店として事業をスタートしました。僕らが大切にしているのは、お客さま一人ひとりの悩みに寄り添い、その人生に伴走する存在であること。そのために、僕らは“カウンセリングコスメ”として専門のスタッフによる接客を徹底しています。

生死を分けた事故
「人に恩返しをしたい」

WWD:森社長は元ホストと聞きました。

森:はい。隠すことは何もありません。源氏名は縁賀希蓮(えんが・きれん)。大阪・心斎橋のホストクラブでナンバーワンになり、東京へ進出。“神7”と呼ばれる全国トップホストの一人に選ばれました。

WWD:それまでに、どんな紆余曲折が?

森:実は小学校時代は学級委員を務めるような真面目な子どもだったんです。ただ、中学に入って環境が一変しました。ラグビー部に入部したもののいじめに遭い、家庭でも両親が家庭内別居状態。家にも学校にも、自分の居場所がどこにもないと感じていました。そんなとき、姉の彼氏がヤンキーで、いつも僕を守ってくれた。その姿に憧れ、自分も暴走族に入り、バイクを乗り回すようになりました。

18歳で車の営業職に就いたんですが、超ブラック企業でした。朝7時集合、夜は10時〜12時まで勤務。片道1時間半をバイクで通う日々。ある日、疲労困憊の中で車で帰宅する途中、居眠り運転でトラックと衝突してしまったんです。

車は大破し、顔面にフロントガラスが突き刺さり、20〜30針を縫う大怪我を負いました。意識不明の重体で、警察には「生きているのが奇跡」と言われるほどの事故でした。

WWD:それは……壮絶ですね。

森:この事故で、自分の中に強烈に刻まれたんです。「この命は“生かされている命”なんだ」と。だったら人のため、社会のために使わないといけない。価値観が一気に変わりました。

事故の1カ月後、僕は四国八十八箇所の遍路に出ました。普通は車やバスで回る人が多いのですが、僕はあえて歩くことを選びました。44日かけて、路上やバス停、公園で寝泊まりしながら、自分の罪を償い、自分自身と徹底的に向き合う旅でした。

その旅の中で、やっぱり最後に気づかされたのは“家族”の存在でした。どれだけ反抗しても、どれだけ迷惑をかけても、最終的に自分を支えてくれたのは両親や兄弟でした。この人たちに恩返しがしたい。そのためには、世の中に貢献できる人間にならなければ。そう心に決めました。

“当たり前のこと”を実践
歌舞伎町のトップに

WWD:ホストという仕事を選んだ理由は?

森:当時の僕は、ほぼ中卒同然。社会に出たとき、選べる仕事は限られていました。けれど負けず嫌いな性格もあって、「どうせやるなら、ナンバーワンになってやる」と腹を括ったんです。僕にとってホストは、あくまで経営資金を貯めるための“手段”でした。

大阪・心斎橋でホストとして修行を始めたときは、とにかく“当たり前のこと”を誰よりも徹底しました。誰よりも早く店に入り、キャッチに立ち、トイレ掃除をして。そのスタンスで働き続け、入店からわずか1年でナンバーワンになったんです。大阪でも知らない人がいないほどの知名度を手に入れることができました。

WWD:それほどの短期間に、結果を出すことができたのはなぜ?

森:当時、僕が何度も読み返していたのが「夢をかなえるゾウ」と「7つの習慣」という本です。これは今でもクリスティーナジャパンの“バイブル”にしています。

この本に書かれている「求める前に与える」「靴を大事にする」「人が嫌がることを率先してやる」といった価値観は、ホスト時代に徹底的に自分に叩き込みました。先輩たちに「1年以内にナンバーワンになります」と宣言し、それを本当に実現したのも、こうした哲学を実践し続けた結果だと思っています。

大阪でやり切ったあとは、自然と次の舞台が見えてきました。それが東京。ホスト業界において、大阪と東京は「日本のプロ野球とメジャーリーグ」くらいの差がある。全国区で名前を知られるには、東京で結果を出すしかないと覚悟を決めました。東京でも一つ一つ実績を積み上げ、“神7”と呼ばれる全国トップホスト7人に選ばれるまでになりました。同じく神7に選ばれていたのが、今でも有名なローランドさんや櫻遊志さんです。

“全て”が手に入り
思い出した原点

WWD:ホストをずっと続けるという選択肢もあったのでは。

森:もちろんありました。実際、僕は“ストイックな自分”が大好きだったんです。人が遊んでいるときに働き、人が休んでいるときに努力している。そんな自分に酔っていたし、それが自信にもなっていた。

ホストとして、街を歩けばちやほやされる。お金も、地位も、名誉も手に入った。歌舞伎町では「会えるアイドル」を自称して、自己顕示欲も満たされていました。

でも、それでも心のどこかは満たされなかったんです。夜の世界で競い合い、勝つことだけに夢中になる日々。人生が狂っていくお客さんたちも目の当たりにしていました。自分は何のためにお金を稼ぎたかったんだろう。そんな問いが、ふと頭をよぎるようになりました。

WWD:そのとき、原点を思い出したんですね。

森:はい。交通事故で死にかけ、四国遍路を歩きながら、自分が決めた人生の目的。それは「恩返し」であり、「人の役に立つこと」だったはずだと。ホストとして、女性に支えられ、応援されてきた自分が次に挑戦すべきなのは、女性の人生を豊かにする仕事。そう思ったとき、自然と“美容”という答えにたどり着きました。

ホスト時代の後輩2人と一緒に、3人で会社を立ち上げました。最初は、妻が経営していたクリニック事業を手伝いながら、事業の土台をコツコツとつくっていきました。

その中で出合ったのが「クリスティーナ」でした。製品の背景や理念に共感し、日本でこのブランドを広げたいと強く思った。ちょうど日本総代理店権があると知り、「これを軸に勝負しよう」と決めたんです。

2018年、青山に借りたオフィスは、机もパソコンもない空っぽの部屋。社員は3人だけ。まさにゼロからのスタートでした。でも、届けたいものがある。叶えたい未来がある。そこだけは最初からブレていなかった。

経営に生きたホスト経験
「求める」前に「与える」

WWD:どのように事業を軌道に載せましたか?

森:正直、経営のことなんて何もわからなかった。完全に素人。でも、やりながら学ぶしかないと思って、とにかく行動し続けました。5億円、7億円、10億円と右肩上がりに伸びていき、現在は日本で1000以上のクリニック・サロンでお取り扱いいただき、年商は20億円に迫る規模になっています。

WWD:成長を支えたものは?

森:間違いなく、製品そのものの力です。創業時に僕らが大きな広告を打ったことは一度もありません。それでも、有名な芸能人やモデルの方たちが「クリスティーナ」を自分で購入し、SNSで自然発信してくれたんです。

これはPRで仕掛けた“演出”ではありません。本当に使って、良いと思ってもらえたからこそ起きた現象でした。だからこそ、製品の説得力が世の中に伝わったのだと思います。

WWD:会社の組織づくりで大切にしていることは?

森:どれだけ商品が良くても、それだけでは限界がある。最終的にブランドを支えるのは“人の力”です。だから僕は、社員教育に特に力を入れています。僕たちは“カウンセリングコスメ”として、専門家による丁寧な接客を徹底しています。単に商品を売るのではなく、お客さまの肌と人生に寄り添う存在でありたいと思っているからです。

WWD:ホスト時代の経験は経営にどう生きていますか?

森:たくさんありますが、まずは「絶対にナンバーワンになる」という意識。大阪でホスト修行をしていたとき、僕は誰よりも早く出勤し、キャッチに立ち、トイレ掃除まで自ら進んでやっていました。当たり前のことを、誰よりも徹底する。これはビジネスの本質でもあるはずです。

もうひとつは、先ほども触れた「求める前に与える」という考え方。お客さまに対しても、社員に対しても、思いを先に読み、先に価値を提供するようにしている。すると信頼が生まれ、関係が育ち、もっと大きいものが返ってくる。

ホスト時代、僕は7年間、無遅刻・無欠勤で働きました。誰かに言われたからじゃない。自分との約束を守るためです。ストイックにやり抜く姿勢は、いま経営者としての僕の“芯”にもなっています。

誰よりもまず先に「自分が」挑戦

WWD:だからこそ、山に登る?

森:そうです。言葉だけで「挑戦しろ」と言っても、説得力はない。僕は“背中で語る”タイプなんです。だからこそ、自ら動き、実践する。昨年には標高8163mのマナスルに登頂しました。

酸欠で何度も吐き気に苦しんで、シャワーなんて数日に一度、ちょろちょろの水でもありがたかった。それでも、Wi-Fiがつながるときは現地から会社のビデオ会議にも参加しました。経営者は、どこにいても責任を果たさなければならないと思っているので。山頂では、「クリスティーナ」の美容液でしっかり肌を整えましたよ。当然のことでしょう。

そして、いよいよ4月16日から、世界最高峰・エベレストへの挑戦をスタートします。

WWD:エベレストの頂の先に、何を見るのでしょう?

森:まず、生きて帰ってきます。その上で、次は“日本一過酷なレース”と呼ばれる「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」への挑戦も考えています。北アルプス・中央アルプス・南アルプスを、8日間以内に自力で縦走するレースです。

WWD:会社としての構想は。

森: 海外進出に売上高100億円、上場と確実に経営で結果を残し、ゆくゆくは美容だけにとらわれない会社をつくっていきます。すでに飲食事業もスタートしていますし、今後はホールディングス体制への移行や、多ブランド展開も視野に入れています。

僕が目指すのは「美容業界のLVMH」です。単なるブランドの集合体ではなく、理念と哲学でつながる本物のグループをつくりたい。美容を軸にしながらも、社会に貢献し、価値を届け続ける会社を、本気でつくっていきます。まだ誰も見たことのない“頂”の景色を、この目で確かめにいく。これからも挑戦をやめることはありません。

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